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(公開講座で考える!)コロナ禍でも、可能性ある観光業にナローパスは必ずある

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
コロナ禍で人波が途絶えた浅草仲見世(写真:つのだよしお/アフロ)

 筆者が所属する城西国際大学国際アドミニストテレーション研究科は、昨年度来、東京都の「大学等と連携した観光経営人材育成事業」の支援を受けている。

 その一環として、本年3月20日に「観光経営育成講座」を開催した。同講座は、コロナ禍の影響で、日程の変更や対面からオンラインへの講座提供方法の変更を余儀なくされた(注1)。同講座は、このような多くの制約や変更があったが、参加者からは高い評価を得た。

 さて、ここでまず、現在も進展しているコロナ禍の現状とそこにおける観光業について考えていこう。

 皆さんもご存じのように、その後、同コロナ禍は、一時抑制されたという期待感というか楽観的雰囲気があったが、ここ最近の新型コロナウイルスの感染度合いは確実に日本国内全域でそして世界的に広がり、社会や経済に甚大なる影響と被害を生んできている。

 そして、その感染拡大は、一部は以前よりも活況を極めている分野もあるようだが、特に経済は大きな打撃を受けてきており(注2)、その結果として社会の機能不全や人的被害も起きつつあり、今後さらに国や社会・地域の崩壊などが起きることへの懸念も確実に生まれてきている。

 そこで各国政府は、経済再開や社会の機能不全是正のために、コロナ禍の拡大を防止・抑制しながら、様々な対策をとってきている。その成果は国や地域により濃淡があり、一部では成功しているが、全世界的にみると、いまだ大きな成果がでているとはいえない状況だ。

 

 そのようなことが、日本の経済・産業の中で、最も顕著かつ如実に現われているのが、観光業である。観光業は、今回のコロナ禍において、壊滅的な打撃を受けた。特にインバウンド観光はほぼゼロに近い状況にある(注3)。

 更に、日本政府が、5月25日に、東京など首都圏の1都3県と北海道では、継続していた新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を5月31日の期限を待たずに解除した。これと並行して、政府が事業規模108兆円におよぶ「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を実行していくため、2020年度補正予算案(16兆8,057億円)を閣議決定(4月7日)し、その内1兆6794億円が、主に観光業等を支援するための旅行・飲食・イベントなどの需要喚起事業としての「Go Toキャンペーン」に充てた。しかも、同キャンペーンの開始は、元々8月の早い時期が目指されていたが、観光業界からの強い要望もあり、7月22日からに前倒された。

 このようなことから、国民の間に開放感や気の緩みが起きたからであろうか、その後コロナ感染が再び拡大してきた。しかも、同キャンペーンの仕組みの不適切さ、対応体制の問題、さらにその開始時期の前倒しと感染拡大というタイミングのまずさなどの多くの問題・課題が絡まり、それらが観光業に鮮烈な経済的・社会的および心理的な打撃を与え、観光業をさらに苦しめる状態が生まれている(注4)。

 そのような状態にある観光業は、どうすればいいのだろうか。コロナ禍が収まるのを坐して待つだけでいいのだろうか。

 もちろん、今のような状態では、個々の観光施設・地域や観光業だけでできることは非常に限られている。また国や地域の政府でも、最善を尽くしてほしいところではあるが、その対応に限界があるのも事実だ。

 そこで考えられるのは、まず国・地域の政府には、主に観光に関わる人材を守り、それを通じて、観光業や観光施設が、今回の危機を活かして次につながるように生き残り、成長できるような対策・対応をしてもらいたいということだ。

 その状況を勘案したうえで、観光に関わる人材には、ぜひこのコロナ禍の中において、次を睨んで、知見を深め、考え、次の状況に向けた戦略と戦術をぜひ考えていただきたいと考えている。

 現在のような状況で、学んだり考えたりの余裕はないという意見もあるだろうが、こんな厳しい時だからこそ、そういう思考や考察をし、次に向けた戦略・戦術そして計画を考える貴重な機会・時間が得られると考えることもできる。

 観光業は、日本の経済・産業の中で、非常に数少ない成長性や可能性のある産業分野だ。その中でも特にインバウンド観光は、近年急成長してきたが、今後さらに大きく伸びることのできる潜在性のある産業分野だ。

 現在、全世界の観光業、特にインバウンド観光は壊滅的状況だが、様々な調査やデータをみると、多くの人々が観光したい、海外旅行をしたいと望んでいるのだ。他方、その多くの方々は当然にコロナ感染を心配し、そのリスクを懸念している。

 ということは、「ウィズコロナ」「ポストコロナ」の状況において、安全で安心できる観光を提供できれば、観光が回復・成長でき、その対策がとれる観光地は非常に有望な市場を獲得できるということであろう。

 

 筆者の所属する城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科は、以上のような問題意識および昨年度の経験を踏まえて、本年度も、東京都の支援の下で「観光経営人材育成講座」(注5)を企画・開催する。

 その大テーマは、「ウィズコロナ・ポストコロナ時代の観光と外国人材活用の方向性」であり、次の3期にわたって開催予定である。

〇第1期:2020年9月12日(土)・13日(日)

 コロナ禍で苦境に立たされる観光産業の現状について問題を共有するとともに、今後の課題を明らかにして、ウィズコロナ・ポストコロナ時代における観光振興の在り方について展望する。

〇第2期:2020年10月10日(土)・11日(日)

 今後の観光産業を支える一手と注目されるMICEビジネスをテーマに、日本のMICEにおける課題や今後の展開について学び、外国人材の役割や活用について、また人材育成において必要なことを紹介する。

〇第3期:2020年12月5日(土)・6日(日)

 自然災害や感染症などの外的リスクが高まる中、インバウンド観光を推進し、外国人材を呼び込もうとしている日本は大きな岐路に立っています。持続可能な観光業を発展させていくには何が求められるのか? 外国人材を含めた様々なステークホルダーが果たす役割とは? 「観光×リスク管理×外国人材」のマトリックスをもとに、国内外の事例やコンセプトを紹介しながら解説する。

 いかがであろうか。もし関心をもたれた方々(観光関連事業等に従事されている東京在勤・在住者等)がいれば、ぜひ今後の観光業の問題・課題そして可能性について、一緒に学び、考えていきませんか。参加費も不要なので、多くの方々に参加していただければと思う。

(注1)拙記事「感染症の広がりの中、リスク回避を模索しながら開講した『観光経営人材育成講座』」参照のこと。  

(注2)記事「世界経済、V字回復困難に 米GDP4~6月32.9%減」(日本経済新聞、2020年7月30日)など参照。

(注3)拙記事「『新型コロナ』で危機直面『インバウンド観光産業』の深刻度」(フォーサイト 2020年3月13日)など参照。

(注4)しかも、熊本などの地域においては、大雨による甚大な被害も起きてきており、再開した観光業者等にダブル・パンチを及ぼしている。当該地域の方々には、この厳しい状況を、ぜひ踏ん張って、乗越え、回復していただきたいと切に願っている。

(注5)詳細や今後の追加は、国際アドミニストレーション研究科HPや当該事業関連特設HP(現在、作成中。8月10日ごろオープン予定)等を参照のこと。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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