投票率77%ノルウェーで政権交代 現地で話題の意外なこととは
ノルウェーで中道右派の政権が終わり、中道左派の政権が始まる。
8年続いた中道右派から、中道左派へと政権交代することは現地では驚く結果ではない。もともと政権交代が起こりやすい国なので、「もう変わるタイミングだ」という空気があった。
それでは、9月13日の開票結果で、現地で「意外だ」と驚かれたことはなんだろう? 投票率は77,1%だった。
結果
労働党 48議席(1議席マイナス)
保守党 36議席(9議席マイナス)
中央党 28議席(9議席プラス)
進歩党 21議席 (6議席マイナス)
左派社会党 13議席(2議席プラス)
赤党 8議席(7議席プラス)
自由党 8議席(変化なし)
キリスト教民主党 3議席(2議席プラス)
緑の環境党 3議席(2議席プラス)
患者中心党 1議席(1議席プラス)
合計169議席
左派勢力 100議席
右派勢力 68議席
患者中心党(現時点で右派左派にカテゴライズされていない新しい勢力)
4%の闘い
政権交代はされるだろうという見通しの中で、「4%」という数字が何度も開票中に話題に上がった。
ノルウェーでは、「しきい値」とされる4%の得票率を越えることができれば、議員数を大幅に増やすことができる。
4%を少しでも下回れば議員は2~3人、4%を少しでも超えることができれば、議員は一気に8~9人と大幅に上げることができる制度だ。
4%を行き来する小規模な政党がノルウェーには複数あり、この結果が国会の構図を大きく変えやすい。
今回の選挙では、4%を「ぎりぎり超えることができるか・できないか」という政党が両派に4政党いた。
結果として
赤党 4.70% つまり 8議席
自由党 4.48% つまり 8議席
・・・・・・
緑の環境党 3.84% つまり 3議席
キリスト教民主党 3.81% つまり 3議席
4%という境界線を「ちょっと超える」かどうかで、このように議席数が大きく変わる。
連立する可能性のある大規模な政党にとって、小規模な政党が4%を超えるかどうかは、ハラハラと気になるところでもあった。
「気候は争点だったのか?」「気候選挙だったのか?」疑問が残る結果に
それでこの境界線を越えられなかった「緑の環境党」に、現地のメディアは驚いた。
というのも、これまでの支持率調査では、同党は明らかに4%を超えて、議員数を大幅に増やしそうだったからだ。
ノルウェーでは「気候危機」「排出量をいかに減らしていくか」が争点のひとつだったことには間違いはない。国際メディアは「石油が争点だ」とノルウェー選挙を解説していた。いつのまにか「気候選挙だ」とも言われていた。
だが、これほど緑の環境党が意外にも議席数を伸ばせず(1議席から3議席は多いとは思うが)、支持率調査との差が特に大きかったことは、「あれ?」という空気を生むこととなった。
こういう見方ができる
- 気候は実は国民の最たる関心事ではないのか?
- 気候に関心が高いとされる若い世代の一部が投票に行かなかった・ほかの政党に投票した
- 他の政党の気候政策の打ち出しが上手くなった
- 緑の環境党は「気候・環境分野だけが専門分野で、他分野の政策には強くない」弱点
- 緑の環境党は「首都オスロでは大人気だが、他の自治体や地方では支持されていない」弱点
- 緑の環境党は他政党と違い、石油発掘を「終える日」を決めるという最後通達を宣言していた(他党との交渉努力と妥協がよしとされるノルウェー政治では、最後通達はリスクが高い)
- 緑の環境党ならではの言論が嫌がられた(特定のライフスタイルに罪悪感を抱かせるようなコミュニケーションが特徴的)
- 「気候選挙」ではあったけれど、「気候・環境政策だけが得意な緑の党」ではなく、「気候・環境政策+他の政策も得意」な別の政党らに票が動いた
「これほど気候が話題となった選挙で、議席数を大幅に伸ばせなかったことは、今後の政党の存在意義や活動の見直しが問われる」とも分析できる。
「結局、気候選挙だったのでしょうか?」は、現地の記者たちが選挙中継中に何度も口にした言葉だ。それほど、どの政党よりも強く・早いスピードで脱石油を唱える緑の環境党の伸びが「たった、これだけ」だったことは、意外な驚きとしてニュースになっており、現地の選挙専門家なども驚きのコメントを出した。
極左政党の支持が飛び跳ねた
選挙前の支持率調査で出ていた傾向通り、赤党の議員数が8人と大幅アップ。もともと極左として「変わり者」「共産主義政党」「ふざけた政党」とも言われていた赤党がこれほど伸びたのは、市民からの「社会格差をなんとかしろ」というメッセージだ。
次期首相の「夢の政権」が叶いそう
次期首相となる労働党のストーレ党首は、「夢の政権」を掲げていた。それは労働党・中央党・左派社会党という3政党での連立政権だ。
しかし、選挙前調査では、小さな規模の政党が4%を超えるか超えないかギリギリの状態が続いていた。もし赤党や緑の環境党がもっと伸びていたら、協力を仰がないと政権を保てないリスクがあった。ストーレ党首は極端すぎる・距離が遠すぎるこの2党にはできれば依存したくなかっただろう。
結果として、赤党と緑の環境党の協力なしでも、ストーレ党首が望んだ3政党だけで大多数を獲得できた。
「ストーレの夢の政権が叶う」は開票の夜、メディアが何度も報じた言葉だった。
農家・地方・国産の味方!中央党が人気者に
最も議席数を伸ばしたのは中央党。9議席も増やしたことは何を意味するのか?
実はこの政党は首都ではほとんど人気がなく、ずっと首都に住む市民や記者には「中央党がなぜ地方で人気なのか」理解しにくいとも言われている。
国を愛する、地方や小さい自治体の市民の声を大事にする、農家の気持ちが分かるというような政党で、環境・気候や移民・難民というような政策分野をあまり優先しない。
首都や大都市に権力機関が集中することを好まず、「ノルウェー=オスロ」で語られることを嫌がる。中央党に支持が集まるということは、小さな規模の自治体や地方からの大都市中心の社会変化に対する抗議の声ともいえる。
最北端の県が起こした激震
政党が多いノルウェーで、多くの人が昨年は想像していなかったのが、「患者中心政党」が1議席獲得したことだ。ノルウェー最北部のフィンマルク県から、国会議員が1人誕生する。
環境・気候清濁が中心の「緑の環境党」と同じように、「1政策分野だけの政党」とも言われている。この政党の訴えは「アルタに病院を」。
ノルウェー最北端にある街のひとつには病院がなく、治療のために離れた場所へ住民は通わなければいけなかった。
規模の小さい街で病院や学校が減っていく現象は各地で起こっている。既存政党がなんとかしていれば、「患者中心の党」が議席数を得るという通常なら不可能な現象は避けられただろう。
労働党リーダーの首相としての力量がテストされる
労働党率いる連立政権が誕生することになるが、実は今選挙の結果は「およそ100年間の間であった選挙の中で、労働党にとって過去2番目に悪い結果」と報道されている。
労働党に求められるのは、連立する政党のまとめ役、交渉と妥協を繰り返し、国を前進させるリーダーシップだ。ストーレ党首のこれからの力量が4年間という期間でテストされ、国民がだめだと判断したら、政権交代は簡単に起きる。
今回の選挙は気候選挙でもあったが、経済格差や地域格差の改善を求める「格差選挙」がより強かった気がする。
ノルウェーで次に起こること、私がわくわくしているのは、どの政党が政権に座り、誰が大臣になるかだ。