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未来の医療を変える!フィンランドの教育革新と人材育成

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ヘルシンキでの医療DXと教育現場の変化をレポート 筆者撮影

フィンランドは、なぜ医療分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を急ぐのか?

その答えの一部は、フィンランド最大級のヘルシンキ大学病院HUSで目の当たりにすることができた。

この施設では整形外科、外傷学、手外科、神経外科の患者が治療されており、希少疾患や重症疾患の治療も、全国的にHUSで集中管理されている。

デジタルトランスフォーメーションが急がれる理由

訪れた国際記者たちは、「これが病院!?」と驚きの声をあげた 筆者撮影
訪れた国際記者たちは、「これが病院!?」と驚きの声をあげた 筆者撮影

私たちの訪問先は、ヘルシンキ大学病院の一部であるメイラハティ・ブリッジ病院だ。院内には講義室やカフェも設けられており、広い窓から差し込む日光が病院内を明るく照らしている。

HUSブリッジ病院は、ヘルシンキ大学病院の歴史上でも最大の建設プロジェクトとされ、複数の病院機能が一箇所に統合された。

2023年に新しくオープンしたこの施設は、「ブリッジ」という名前が示す通り、タワーと入院病棟、日帰り診療所を結ぶ機能的な「橋」の役割を果たしている。

2023年度には、HUSの専門医療部門と救急部門が合わせて約70万人の患者を治療した。患者満足度は非常に高く、顧客継続利用意向を示すNPSスコアは79という驚異的な数値に達した 筆者撮影
2023年度には、HUSの専門医療部門と救急部門が合わせて約70万人の患者を治療した。患者満足度は非常に高く、顧客継続利用意向を示すNPSスコアは79という驚異的な数値に達した 筆者撮影

医療従事者の現状と対策

魅力あふれるフィンランド最大のヘルスケア・プロバイダだが、医療従事者の人手不足にも直面している。院内を歩くと、患者のいない部屋や誰も歩いていない廊下が目につくことがある。

「まだ1年前にオープンしたばかりで、完全には機能していない部分もあります」とスタッフは述べた 筆者撮影
「まだ1年前にオープンしたばかりで、完全には機能していない部分もあります」とスタッフは述べた 筆者撮影

世界中で共通の課題である医療現場の人手不足は、過労やストレス、燃え尽き症候群が原因で、多くの医療従事者が離職や長期休業を取る事態に至っている。

これに対処するため、ヘルシンキ大学病院は業務配分の再構築や流動性の促進などの新戦略を積極的に採用している。

キャンパスを企業や学生が集うハブに

フィンランドの未来に医療従事者の不足が待ち受けていることを現場の人々は十分に承知している。そのために力を入れているのが、若者の教育だ。その一環として設立されたのが、メトロポリア応用科学大学

「学生やスタッフは、すべてがリモートまたはデジタルで起こっているときに、どのように操作するかを学ばなければせん」

イノベーション・ディレクターであるミンナ・エロマア・クラプさんは、「テクノロジーが現場を決めるのではなく、人がテクノロジーを使って問題解決する」点を強調した。

だからこそ、現場で的確な決定が下せるように、学生の教育に力を注いでいる。

持続可能な解決策とデジタルヘルスに特化して、学生や関係者だけでなく、ステークホルダー、企業、大学などが集まり、主要な課題を一緒に達成し、解決することができるハブを形成している。

学生のスキルは、本物の学習環境で可能になる

受付にいるのも学生たち。利用する市民は「日常生活における専門家であり、指導する顧客として、将来の専門家の能力開発をサポートする」位置づけにいる 筆者撮影
受付にいるのも学生たち。利用する市民は「日常生活における専門家であり、指導する顧客として、将来の専門家の能力開発をサポートする」位置づけにいる 筆者撮影

キャンパス内にある「HyMy Village」では、看護、理学療法、口腔衛生士などを学ぶ学生たちが実際に運営に関与しており、医学免許を持つ教員のもと、患者の診療を行っている。この学生運営の施設では医療費も比較的低く設定され、地元市民からの支持も得ている。

「ムーブメント・ラボ」ではウォーキングやランニングの動作分析をする。一部の動作で臓器にどれほどのストレスがかかるのかの研究をし、スポーツ選手を育成するコーチや専門家にデータ共有もする 筆者撮影
「ムーブメント・ラボ」ではウォーキングやランニングの動作分析をする。一部の動作で臓器にどれほどのストレスがかかるのかの研究をし、スポーツ選手を育成するコーチや専門家にデータ共有もする 筆者撮影

大学の役割、学びの場としてのシミュレーション病院

キャンパスにあるシミュレーション病院はフィンランド最大で、国際的にもユニークな施設だ。受付、手術室、分娩室、手術室、集中治療室、救急車まで完備され、病院の状況を安全にシミュレーションすることができる。

同時に、企業はテスト環境に加えて、専門家チームの知識を利用することができる。

大学内には模擬体験をするための救急車もあり、運転の練習も可能。学生はここで実習を重ねる 筆者撮影
大学内には模擬体験をするための救急車もあり、運転の練習も可能。学生はここで実習を重ねる 筆者撮影

純粋に教育とテストのためだけに作られた大きなシミュレーション施設。取材中も外部からの学生たちが視察に訪れていた 筆者撮影
純粋に教育とテストのためだけに作られた大きなシミュレーション施設。取材中も外部からの学生たちが視察に訪れていた 筆者撮影

機械が訓練中の一部始終を記録し、後で分析できるようにしている 筆者撮影
機械が訓練中の一部始終を記録し、後で分析できるようにしている 筆者撮影

学生が企業とのプロジェクトに参加し、データやAIを利用して、未来をイメージし、レジリエンスの高い社会になるように力を注いでいる 筆者撮影
学生が企業とのプロジェクトに参加し、データやAIを利用して、未来をイメージし、レジリエンスの高い社会になるように力を注いでいる 筆者撮影

最新の設備が整い、十分な訓練を受けて、医療現場に羽ばたくことが確かにできそうだ。ここでの学びは充実しているだろうことは容易に想像がつき、他の国際記者たちも「羨ましい」とつぶやいた 筆者撮影
最新の設備が整い、十分な訓練を受けて、医療現場に羽ばたくことが確かにできそうだ。ここでの学びは充実しているだろうことは容易に想像がつき、他の国際記者たちも「羨ましい」とつぶやいた 筆者撮影

国際的な学生と言語の役割

大学での教育においては多くの科目が英語で提供されている。

「フィンランドでは労働力不足が問題となっているため、私たちの大学での国際化は非常に重要です。インド、ベトナム、ケニア、インドネシア、フィリピンなど多くの国から学生が来ています」と、シモ・ムスティラ副CEOは語る。

外国人の参加が多いためにラボでは英語で会話がされているが、もし学生がいずれフィンランドの現場で働くのであれば、患者の安全性を考慮して、現地の言葉であるフィンランド語かスウェーデン語の能力が求められる。そのため学生は言語の勉強もしているという。

フィルソンさん(22歳、フィンランド出身)は看護学を専攻しており、SNSや知人を通じて看護の仕事に興味を持ち、大学で学ぶことを決めた。

「立地や技術、テクノロジーの面で他の学校と比較しても先進的で素晴らしいし、他の人からの評判も良かったからです」と、この教育現場を選んだ理由を話した。

国際色豊かな仲間たちと共に学んでいることに満足していると話すフィルソンさん 筆者撮影
国際色豊かな仲間たちと共に学んでいることに満足していると話すフィルソンさん 筆者撮影

執筆後記

北欧諸国はどの国も自国の福祉制度に誇りを持っている。現在の福祉制度が未来の世代にも継続されることを願っているが、人員不足や高齢化社会の波で、同じ環境を維持することは困難になりつつある。それゆえに、市民からの税金を有効に分配し、教育や医療現場を今から急いで変えていく必要がある。

若い学生たちに充実した学びの場を提供できるように、今、医療も教育の現場も大きなスピードで変化しようとしている。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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