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昆布と鰹節だけじゃない。北の鮭、南の豚。日本には無数のだし文化がある。

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
(写真:イメージマート)

少し前に書いた「地図に見る昆布の歴史。産地は北海道、食文化は京都・大阪。沖縄に伝えたのは一人消費量No.1の富山の謎」と前回(というか、さきほど)書いた「なぜ紀州(和歌山)で隆盛を極めた鰹節は、薩摩(鹿児島)にその本場を移したのか」では日本のだし文化を象徴する昆布がいかに全国に伝播していったか、そして鰹節の発展期に産地がどのように展開していったかをまとめました。

昆布は北前船で北海道から富山、鹿児島まで届き、その後薩摩藩が支配していた沖縄を経由して大陸へというルートで伝播していきましたが、鰹節は紀州(和歌山)から土佐(高知)経由で鹿児島という南西へと下るルートと、紀州から安房、伊豆といった東北へ上るルートで展開されていきました。

いずれも黒潮(日本海流)に乗った鰹の漁獲が期待できる海域です。

鰹は鮮度落ちの早い魚です。冷蔵インフラもない時代には水揚げされた港近くで加工するしかありません。実際朝廷に貢納されていた堅魚の産地は、伊豆、駿河、志摩、相模、安房、紀伊、阿波、土佐、豊後、日向という黒潮、もしくは豊後水道沿岸の土地ばかりが並んでいました。

そして先ほどの「なぜ紀州(和歌山)で隆盛を極めた鰹節は、薩摩(鹿児島)にその本場を移したのか」で書いたように、鰹節にカビづけという革新的手法を導入した紀州の漁民たちの紆余曲折を経て、鹿児島と静岡に鰹節文化が定着。現在も「かつお節」生産量のシェアは鹿児島が73.3%、静岡が26.7%。ほぼ全量が両県で生産されています(2022年水産加工品の加工種類別品目別生産量(都道府県別))


煮干しは庶民にも手が届くだしの味だった

もっとも日本のだし文化は昆布と鰹節だけではありません。日本近海には煮干しの原料となるカタクチイワシのような小魚や雑魚もたくさん回遊しています。

鰹節の原型である「堅魚」が701年の大宝律令の徴税項目として載っていたように、905(延喜5)年の律令施行細則「延喜式」には煮干しの原型となる「鰯煮」も記載されています。

太平洋岸では鰹のみならず、九州から東日本にかけての広範囲で、だしになる魚がよく獲れました。だし文化が広まっていく江戸時代の記録を見ると、本枯節など手のかかる鰹節は高級品で本枯節1貫あたり、金1~2両。金1両が現在のレートで約4万3000円ですから、近年高騰している鰹節よりもさらに高級品だったと考えられます。対して煮干しは1貫約500文(2150円)と鰹節のおおよそ半分~4分の1程度の値段でした。その分、庶民にも手の届きやすいだし材だったと考えられます。

ざっくり言うと、九州ではトビウオのあごだし、四国・瀬戸内では煮干しをつかったいりこだし、そして全国のいいものが集まり、伊豆からもほど近く質のいい鰹節が入手しやすい江戸ではかつおだし、といった具合です。

もっと言えば、だしが出るのは、昆布や魚だけではありません。大根やごぼうなどの根菜、貝や椎茸、もちろん肉からだってだしは取れます。


以下に地方・地域別に「代表的な料理」「だし・調味料素材」「だしの出る具材」を分類した上で、北海道から沖縄まで、全国のだし文化が反映された汁物、煮物料理の分布表を作ってみました。

【以下約4500文字相当(表組画像部分含む)】

全国地方別の郷土料理とだし素材の傾向

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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