【ビジネスのヒント】黒にピンク!紙自体がカラフルなメモ帳。実はきっちりニーズが計算されてました!
著名な経営学者で、その著書『マネジメント』でも知られるピーター・ドラッガーにはこんな言葉があります。
「企業の目的は顧客の創造である」
ものの製造でもなければ販売でもない。顧客を作ることだというのです。
そこにおいては、プロダクトは顧客の目的を達成する手段です。そして販売もまた、プロセスでしか在りません。
こんにちは。デジアナリスト・手帳評論家のたてがみたつひこです。
今回はこの7月6日~8日にかけて開催された紙・文具の見本市 ISOTで見つけたメモ帳を通じて、ニーズの発見とそれに合わせた製品のブラッシュアップについて考えていきます。
あわせて、ドラッガーの言葉の言葉の意味に沿って解釈していきたいと思います。
ISOTで見つけた「memoterior mini」はこんなメモ帳
さて、先日のISOTで見て、私が面白いなと思ったもののひとつが「memoterior mini」(ケープランニング)。その名の通りメモ帳ですが、かなり個性派です。
なにしろ、紙が白くない。それどころか、ごらんのとおり、色とりどりの紙がミルフィーユよろしく積層されています。で、よく見ると濃い色の紙もあります。ピンクはまだしも、茶色とか黒がある。これってそもそもメモ帳の役割を果たすのか? 黒いインクのペンで書いたら文字が読めないのでは?
ちょっと心配になっちゃいますよね。
で、これにはちゃんと理由があるんです。その理由もひとつではなく、積層構造になっているんです。では、まずひとつずつ。
カラフルな色の理由その1:モチーフ「猫」の表現
まずこのmemoterior miniは、2つのラインがあります。「ねこもよう」と「すいーつ」の2つです。それぞれに5つの種類が用意されています。
そしてカラフルな紙はそれぞれ猫とスイーツをモチーフとした色が使われています。茶色や焦げ茶、オレンジ、黒といったそれぞれの色が猫の毛の色なわけですね。ちなみに、ピンクは肉球(!)だそうです。
「すいーつ」のラインの方は、例えばクリームソーダなら、鮮やかな緑色とか白とかが、それぞれソーダとかクリームを表現しているというわけです。
個々の紙の色が全体としてモチーフの表現になっているわけです。こんなメモ帳、ちょっと他にはないですよね。
カラフルな色の理由その2:インク沼の受け皿
では、これってメモ帳としてはどうなの? そんな疑問があると思うのですが、お答えしましょう。これは、かなりマニアックな紙の味わいかたのツールなのです。
それもこの数年のムーブメントと言えるインク沼の受け皿と言えば理解していただけるでしょうか。
インク沼は、主に万年筆やボールペンのインクの色を収集して書いて楽しむようなトレンドです。そこには、黒や青といった常識的な色だけではなく、ピンクやコバルトブルー、ブラウンなどおおよそ考え得る限りの色があります。中には、ラメの粒子を含んだキラキラしたようなものまであるのです。
つまり、このkamiterior mini のカラフルな色の紙は、これらのインク沼の中で生まれたカラフルなインクを受け止め、楽しむためのものというわけです。
いわゆるメモ帳とはちょっと違います。ですが、ディープな味わい方を知っている文具のマニアにとっては、こういうものが必要であり、またよろこばれるわけです。
「ねこもよう」と「すいーつ」のモチーフもひとえに、インク沼を楽しむために使われているわけです。
ペーパリー株式会社のブランド「kamiterior」を継承
このmemoterior mini が含まれるブランド「kamiterior」についても説明しておきましょう。これはもともと、ペーパリー株式会社のブランドでした。
ちなみに、過去のISOTにも出展しています。これがそのときの写真です。
この時点では紙は全て白いものでした。が、複数の紙質の紙が積層され、書き味の違いが楽しめるという製品でした。
そして、同社の吉澤社長の昨年逝去。生前から交友のあった株式会社ケープランニングの木下良社長が、ブランドを継承、運営することになったという経緯があります。くわしくは、木下社長によるこちらの「ブランド引継ぎのご挨拶」を参照してください。
いっけん、理解が難しそうなものにも理由がある
私がケープランニングのブースで、このmemoterior miniを見たときの第一印象は「?」というものでした。もとのmemoteriorのコンセプトは知っていましたが、色をつける必要はないかもとも思ったのです。ですが、ひょっとしたら?インク沼とふと思い出しました。
そして、上述のような考えを「ひょっとしたらこうじゃないですか?あってます?」と早口でまくし立てたところ、同社の木下社長は、「あってますあってます」と言ってくださいました。私の仮説が証明された瞬間でした。
話をドラッガーにもどすと、ケープランニングは、kamiteriorブランドを継承しつつ、その商品memoterior を現在の文具市場のムーブメントであるインク沼に向けてアップデート、チューニングしたわけです。
そしてこれこそが、顧客の創造なわけです。手元にあるカラフルな色とりどりのインク。インクは使われなければその色を楽しむことはできません。せいぜいボトルに入った状態を鑑賞するぐらいです。
そしてこのmemoterior mini は、紙の種類に加え、紙自体の色を変えることで、カラフルなインクとの組み合わせを楽しむという新たな価値を提供。市場と顧客を創造したというわけです。
まずインク沼というムーブメントがこの数年で生まれていた。これをどんな紙でどう受け止めるか。ケープランニングは、継承したブランド「kamiterior」の1アイテム「memoterior mini」をインク沼を受け止められる形に再構築したというわけです。
で、このインク沼を受け止めるような製品は、このmemoterior mini以外にもまだまだ色々あります。機会があればそういう製品も紹介していきたいと思います。