【富田林市】こんなところに!佐備の養鶏場跡に現代美術のアトリエ。橘宣行さんの鉄鋼造形への想いとは
私は美術館に行ってアート作品を見るのが好きですが、まちかどアートのようなものを除いてそういった展示物を見ようとすれば、どうしても大阪市内に行く必要があるのかなと感じています。しかし、それを創作する芸術家は南河内にも必ずいると思っていました。
すると富田林にも素晴らしい芸術家の方がいらっしゃることを知りました。鉄を使った彫刻美術を手掛ける鉄鋼造形家の橘宣行(たちばなのぶゆき)さんは、驚いたことに佐備の養鶏所跡にアトリエがあります。
一昨年、佐備にある養鶏場「辰巳悦司養鶏場」を取材したことがありました。その時に養鶏場の間に大きな空き地のような空間が広がっていたのですが、そこを見ると金網の塀越しになにやら芸術作品のようなものが見えたのです。
とても気になりましたが、この時はそのまま通り過ぎました。
その後、こちらのアトリエは橘さんのものだと知り、一度取材をと思っていた矢先、22日土曜日から30日まで「フライングギドラ」という作品の展示会が行わるという情報を聞きました。
前々からとても気になっていたので、橘さんと連絡を取り、佐備のアトリエ「橘宣行彫刻ランド」でお話を伺うことになりました。
場所は中佐備バス停から東方向、東板持の手前にから北方向にある細い道の途中です。
橘さんの話では、もともとこの場所にいくつもの養鶏場があったそうですが、いまでは辰巳さんと画像の長吉養鶏さんの2か所しか残っていません。
長吉養鶏から廃業になった養鶏場が放置されているところや、別の事業所になっているところを歩いていくと、橘さんのアトリエの前に行けます。ちなみに辰巳養鶏場はまだその奥隣です。
ここで橘さんの経歴を見てみましょう。橘さんは国内はもちろんアメリカなど海外でも出展されている国際的な鉄の彫刻家さんです。それにしても富田林にこんなすごい人がいるとは知りませんでした。
2011年には橘さんご自身のアトリエでの展覧会「橘宣行彫刻ランドオープンスタジオ展」も開催したそうです。そして今回のフライングギドラは、実に6年ぶりのグループ展なんですね。
中に入ると広大な敷地内が広がっていて、そこに作品群が並んでいます。橘さんは個展、グループ展をを開くほか、国内外での輝かしい受賞歴や様々な活動をされています。
さらに橘さんは、2004年にはアメリカに滞在して「ウインキングビッグフェイス」という作品を制作しています。
いっけん無造作に置かれているように見える芸術作品の数々に見えますが、それぞれ主張しているのが素人目から見てもわかります。
ちょうど橘さんが創作作業をされていました。「10分くらいで終わるから」ということで、橘さんの作業が終わるのを待ってからお話を伺いました。
橘さんの話では、元々ここも養鶏場だったそうで、昭和30年代にこの地域に養鶏組合ができたそうです。
そして橘さんの祖父に当たる方も養鶏場を1977(昭和52)年まで営んでいたそうですが、廃業後はしばらく放置されていたそうです。
1996年になって、土地を所有している親族から橘さんが借りてアトリエを開いたそうですが、最初は荒れ地でそれを手入れするところから始めたそうです。
橘さん自身は神戸大学に進学後、美術の教師を目指していたそうですが、鉄の芸術家だった教授が大学におられ、大学の裏で作業を手伝ったのが芸術家に進路を変更するきっかけだったそうです。
鉄板を叩きながら創作する鉄芸術の世界にのめりこんだ橘さん、大学の卒業をずらして創作を続けました。こうしてそのまま就職せずに芸術家としての道を歩むことになったのです。
芸術家としてスタートした橘さんですが、90年代に活動して大人気だった劇団「惑星ピスタチオ」の演出担当だった後輩から舞台装置に鉄の彫刻を置いてみたいと依頼があり、いろんな作品を提供。この劇団には、今も一線で活躍する佐々木蔵之介氏がいたそうです。
ただ、鉄でできているために、作品が重く持ち運びが大変。最も大きな作品は重さ30トンほどあったそうです。
どちらかといえば哲学的ファンタジーの作品が多かった「惑星ピスタチオ」。例えば白血球が人間の体の中で悪の菌類と戦う「白血球ライダー」といった作品がありましたが、その舞台に橘さんの作品が活用されていたのです。
橘さんは舞台装置として作品に演者が乗る姿を見て、「ただ眺めるだけの作品ではなく、乗ったり、操作したりして楽しめる作品を作りたい」とひらめいたそうです。
残念なことに、「惑星ピスタチオ」は2000年で活動が終了。その後、橘さんは子どもの頃に見て憧れたアニメなどをモチーフにしたオリジナル作品を手掛けていきました。
こちらは1998年に完成した「銀河鉄道たちばな」(外部リンク)という作品。2011年の大阪カンヴァス推進事業と京都国際映画祭2017のアート部門で展示されています。
銀河鉄道たちばなも、作品をただ見るだけでなくハンドルを回すとライトが点灯するような仕掛けがあり、展示していた当時は子供たちに大好評だったそうです。
その一方でこちらのブランコをモチーフにした作品もあります。2000年にできた作品「イエロースウィング」です。
「こちらにも作品があるんですよ」と橘さん。建物内の作品も拝見しました。
こちらです。顔がついた乗り物が多いですね。このような個性あふれる作品が作れたのは、同じ時代のアーティスト、ヤノベケンジさんの作品を見て感じたことがあったから。
昔は岡本太郎のように抽象画的な心の内面に訴えるものが現代美術という認識だったのに、それをぶち破ったのがヤノベ氏の作品。橘さん自身も、もっと自由に自分の作りたい作品を作ろうと思ったそうです。
こちらは1997年に作られた宇宙戦艦タチバナという作品です。見ただけでモチーフが何なのかわかるところがすごい!
ちなみに宇宙戦艦タチバナは、1998年のキリンコンテンポラリーアワードで奨励賞を受賞しています。
ちなみにこちらのスライダースタジアムピッチャー山本という作品も2000年キリンアートのアワードを受賞しました。
こちらはゼロ戦をモチーフにした作品で、2013年に発表した零式空想架空戦闘機です。
ゼロ戦といえば旧日本軍の戦闘機ですが、橘さんは「戦争がテーマではない」と言います。あくまで子供のころに作った模型から連想したものなのです。
今年57歳になる橘さんが少年時代だった頃は、まだまだアニメキャラが少なかった時代。当時はゼロ戦などのプラモデルが遊び道具だったそうです。その時の楽しかった記憶をモチーフにしているということです。
またフリーライターの八木健一氏が、橘さんの展覧会でのレビューを書いたコラム記事があり、そこで零式空想架空戦闘機について詳しく書かれています。前半は上の画像ですが、後半には橘さんのご家族と米兵とのかかわりについて事も記載されていました。
全部はご紹介できませんが、八木氏のコラムを拝読すると、橘さんの作品の中にはご家族の想いもあるのかなという気がしました。
橘さんの1999年東京での個展が、雑誌ぴあで紹介されています。
また音楽雑誌elekingでも東京での個展の記事が紹介されています。
その他にも、このアトリエにはいろんな作品が置いてあります。例えばこちらはバイクをモチーフにしています。「ピンクドッグ」という作品名で岡山県の犬島で展示したものです。
こちらは「昭和!シャイクロン号」というそうです。もちろん作品にまたがってライダー気分が堪能できます。
こちらは2005年の作品「ランボルギーニ・タチバナ」といいます。しかしこれではなんでランボルギーニなのかわかりませんね。
角度を変えるとわかります。実は立ててありますが、これは車をモチーフにした作品で、実際に中に入ることができます。
これは犬をモチーフにした作品です。岡山県犬島で展示された「犬!」です。
橘さんは「合体がテーマ」と言います。例えば顔と車といった一見無関係なものをつなげると、それは奇形となり不気味さが加わります。
結果的に作品がパワーアップするということで、この方式を積極的に取り入れているそうです。
さきほど橘さんは外で塗装をしていて、創作の作業によっては外を使うこともあるようですが、基本は建物内の工房で創作活動をしているそうです。
工房にお邪魔して、より詳しいお話を聞くことにしました。
工房内です。工場のようになっていていろんな工具が置いてあります。
橘さんは、アート作品とは別に、鉄を使った椅子などのオリジナル家具を作ることもあるそうです。
少し失礼な言い方かもしれませんが、いろんな工具類が並んでいてまるで大人のおもちゃ箱のような世界ですね。
「ここは周辺に人が住んでいないから24時間365日自由に創作できます」と橘さん。確かに時間関係なしで思いついたひらめきを即実行に移すためには、そういう場所は非常に大事ですね。
鉄同士をつなげる溶接作業もあるので、アルゴンガスのボンベも置いてあります。
作品のもととなる模型が並んでいました。
さて、ここで今回展示会を開催することになったフライングギドラ制作秘話を橘さんにお伺いしました。
橘さんは設計図を作らずにスケッチで作品をイメージさせるそうですが、今回は半年かかったそうです。
スケッチした図面を見せていただきました。橘さんはドイツの彫刻家が、車に足をつけた斬新な作品を発表した時に「ヤラレタ」と思ったそうです。
となれば、それ以上のインパクトのある作品をということで、日々スケッチをしながら試行錯誤した結果、少しずつ形が浮かんできて、最終的に半年かかって、スケッチ・デッサンが完成したそうです。
スケッチを作ってから模型製作に取り掛かりました。模型製作にはスケッチやこの後に行う本制作よりは短時間でできたそうです。
といっても、この模型は非常に重要な行程なんだそうで、いったん本制作に入ると鉄を扱っているために、削るなどの修正するとなると、とても大変なことになるそうです。
模型ができた後、8か月ほどかけて本制作が終わったそうです。
フライングギドラの展示会には、橘さんの以外のアーティストも登場します。
ななおろうさんは、千早赤阪村にあるカフェBUMで料理を担当している方で、粘土を使ってとても小さなオリジナル妖精を作っているそうです。フライングギドラという大きな作品と小さな妖精粘土作品とのコラボは必見です。
最終日の12時ごろ、現代アートユニットのYotta(ヨタ)さんがポン菓子カー「穀(たなつ)」といっしょに登場します。こちらも楽しみですね。
完成したフライングギドラを最後に見せていただきました。といっても分解した状態でした。鉄は重いので、分解した状態で会場に運んで組み立てるそうです。
フライングギドラは、怪獣ゴジラシリーズに登場する宇宙怪獣キングギドラがモチーフになっています。
キングギドラは3つの頭が付いた怪獣ですが、正面とは別に横の羽の部分にもふたつ頭がついているそうです。
またフライングギドラの組み立てのテストをしている動画が、橘さんのツイッター(外部リンク)上にありました。
フライングギドラは2023年4月22日から30日まで12:00~19:30まで無料で展示。場所は新大阪スタジオSOSで行われます。
会場となる新大阪SOSは富田林からは離れていますが、橘さんの素敵な作品が見られるまたとないチャンスです。
お話を聞いた帰りに広大なアトリエを見ながら、ここをもっと活用できたら良いなという話になりました。
見た目大きなイベントなどできそうですが、元養鶏場で路面がコンクリートのためテントの杭が打てないなどまだまだ課題が大きいそうです。
富田林に縁ができて創作活動を続けている橘さんは、もうひと花咲かたせたいと言っておられました。今回フライングギドラを含めて、すばらしい作品群を見ていると、ひと花といわずに十花くらいは咲かせられるのではないかと心底思いました。
橘宣行彫刻ランド(TACHIBANA NOBUYUKI SCULPTURE LAND)(外部リンク)
住所:大阪府富田林市佐備2115
アクセス:富田林駅からバス 中佐備バス停から徒歩15分
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