アサガオを「気管支」で育ててしまった珍しい事故
現在も、夏休みの観察日記の定番といえばアサガオです。通常は、鉢に植えて育てるわけですが、世の中には気管支内で発芽させてしまったという珍しい事例が存在します。気道異物についても解説したいと思います。
「気道異物」とは
呼吸器内科の世界では、いろいろな「気道異物」に出合います。これは、本来体内に入ってきてはいけないものが、声帯を通って、気管支や肺に転がり込んでくる現象のことを指します。
本来であれば、口に入れて飲み込んだものは、喉頭蓋(こうとうがい)というフタが作用して、気管支や肺に入らないよう、食道や胃のほうへ流し込んでくれる仕組みがあります(図)。
たとえば、食事が食道や胃ではなく気管支や肺に入り込んできたら、それを消化することはかなわず、免疫細胞がこれを排除できないと、誤えん性肺炎という肺炎を起こすこともあります。なので、喉頭蓋はそれらを守る番人と言えます。
気道異物のほとんどが高齢者の歯です。これは、何らかの理由でお年寄りの歯が抜けてしまい、飲み込んでしまった際、喉頭蓋がうまく機能せず、声帯を通って歯が気管支の中に転がり込んでしまうことがあるためです。
世にも珍しいアサガオの気管支内発芽
少し古い話ですが、「アサガオを気管支内で発芽させた」という、珍しい医学論文があります(1)。大変な事態に陥ったのは、生後5か月の男の子でした。アサガオの種が入った容器を誤って倒してしまい、その際いくつか種が赤ちゃんの口に入ってしまったそうです。
呼吸器症状が出現し、近くの小児科を受診しました。大きな異常はないだろうと診断され、かぜ薬を処方されて帰宅しましたが、2日後に40度まで熱が上がりました。別の小児科を受診したところ、胸部単純X線写真で明らかな異常が確認され、総合病院に紹介されました。詳しい検査をおこなうと、左の気管支に異物が詰まっていることが分かりました。
気管支鏡というカメラでのぞいて、アサガオの種と思われる異物をうまく除去することができました。しかし、摘出してビックリしたのは、実はすでにアサガオは発芽して大きくなりかけていたということです。気管支内は、湿潤であたたかく、アサガオが育つには最適な環境だったのかもしれません。
最初の小児科を受診した時点では、アサガオの種が発芽していなかったので気管支の通りがよく、診断が難しかったのでしょう。わずか3日間でアサガオが発芽し、異常が分かるようになったのかもしれません。
どんどんアサガオが成長していったらどうなっていたか、と考えると少しヒヤっとする報告です。
中国でも同じような植物種の報告があって、子どもの気管支異物をたくさん診療する病院においても、植物が発芽した気管支異物が4例あったとされています(2)。この中には、気管支鏡検査を繰り返し受けたり、外科的に肺が切除されたりした子どももいました。できれば、発芽に至る前に発見したいものですね。
子どもの誤えん・窒息に注意
さて、いろいろな「小さなもの」が窒息のリスクを持っています(表)(3)。窒息しやすい形や性質として、「弾力があるもの、つるっとしたもの、丸いもの、粘着性が高いもの、固いもの」といった特徴があります。
植物の種は特殊例だと思いますが、ご家庭では子どもが誤えん・窒息を起こさないようご注意ください。
(参考資料)
(1) 小山新一郎, 他. 喉頭. 2006;18:146-148.
(2) Qiu Y, et al. Asian J Surg. 2022 Jan;45(1):653-5.
(3) 日本小児科学会. 〜食品による窒息 子どもを守るためにできること〜(URL:https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=123)