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あの「カメ止めの奇跡」再び。映画「侍タイムスリッパー」がひらく「時代劇」の未来

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:侍タイムスリッパー公式X)

「侍タイムスリッパー」という、ちょっと変わった名前の映画が大きな話題になっているのをご存じでしょうか?

「侍タイムスリッパー」は、8月17日に池袋シネマ・ロサの1館だけで上映が始まった、いわゆるインディーズ映画です。
それが、公開直後からクチコミであっという間に話題が拡がり、なんと1ヶ月も経たない9月13日からは全国100館以上での拡大上映がはじまっているのです。

参考:1館で封切りの映画「侍タイムスリッパー」1か月で全国100館以上に拡大!

1〜2館のミニシアターの上映から始まった映画が、100館以上に拡がることというのは滅多におこることではありません。

ただ、映画に詳しい方であれば、2018年に大きな話題になった映画「カメラを止めるな!」を思い出す方は少なくないと思います。

実際に、「カメラを止めるな!」と「侍タイムスリッパー」には、様々な共通点や繋がりがあるようです。 

2018年の「カメラを止めるな!」の奇跡

「カメラを止めるな!」は2017年にENBUゼミナールのシネマプロジェクトという予算300万ほどの企画で制作された映画でした。

制作後のイベント上映が大きな反響となると、最終的に2018年に新宿K’s cinemaと池袋シネマ・ロサの2館で劇場公開がスタート。

公開前にゆうばり国際ファンタスティック映画祭で3冠を獲得するなど、海外でも評価され、あれよあれよという間に2018年の夏の話題作となり、最終的に200万人以上を動員する結果となりました。

参考:カメラを止めるな!は、どのように日本アカデミー賞に辿り着いたのか

なにしろ「カメラを止めるな!」は2018年の流行語大賞にもノミネートされ、翌年の日本アカデミー賞で8部門で優秀賞を受賞するなど、まさにその年を代表する映画となり、映画関係者からは「奇跡」だと評されていたのです。

筆者も、「カメラを止めるな!」のアカデミー賞の受賞記念会に招待いただいた際、その場にいた映画関係者の方々に、「カメ止めをきっかけに、今後インディー映画が大ヒットするケースが増えるんでしょうか?」と聞いてまわったら、「今回は本当に奇跡なので、もうこんなことは二度とないと思う」とほとんどの方が発言されていたのを良く覚えています。

「カメラを止めるな!」を再現するつもりで制作

一方「侍タイムスリッパー」も、自主制作映画として3年かけて制作されており、安田淳一監督が自らの愛車を売って制作資金を確保して、一時期は貯金を使い果たして残金7000円になるなど、苦労された逸話が公開されています。

ただ安田監督が、貯金を使い果たしてまでこの映画を生み出した甲斐は、間違いなくあった展開になっています。

昨年10月の京都国際映画祭で上映した際にも手応えを得ていたようですし、7月にカナダで開催されたファンタジア国際映画祭では見事に観客賞金賞を受賞。

(出典:侍タイムスリッパー公式Instagram)
(出典:侍タイムスリッパー公式Instagram)

公開前に国際映画祭で受賞して話題に勢いがつき、池袋シネマ・ロサの1館での公開から、1ヶ月ほどで全国の映画館に飛び火していく流れも、「カメラを止めるな!」に似た流れと言えます。

特に印象的なのは、安田淳一監督がインタビューで、「カメラを止めるな!のヒットには再現性があるのではないか?と、いろいろ研究して『侍タイムスリッパー』を進めてきた」と明言している点です。

参考:『カメ止め』ムーブメント再来か!『侍タイムスリッパー』安田淳一監督インタビュー

まさにカメ止めの奇跡を再現すべく制作されて、再現に成功した映画と言えるでしょう。

多くの関係者の時代劇愛に支えられた映画

一方で「侍タイムスリッパー」には「カメラを止めるな!」と異なる点もあります。

まず、「カメラを止めるな!」が俳優養成スクールの作品だったために、当時は無名の俳優陣による作品だったのに対して、「侍タイムスリッパー」は主演の山口馬木也さんや相手役の冨家ノリマサさんを筆頭に、俳優陣は経験豊富な方々が名前を連ねている点があげられます。

特に山口馬木也さんは大河や水戸黄門などの出演経験もあり、殺陣の経験も豊富な方だからこそ、難しい役を見事に演じきることができているようです。

また、撮影場所となっている東映京都撮影所や東映のプロの方々も、かなり持ち出しに近い状態でこの映画をサポートされていたことが、この映画の時代劇としてのクオリティを高めることに大きく貢献していている点も大きな違いです。

撮影裏話の中でも、他の大きな時代劇が撮影している横で、お邪魔しているような感覚で撮影していたという逸話が披露されているのが非常に印象的ですが、業界では有名な方が積極的にサポートされて、撮影が実現していたようです。

まさに映画の中でも取り上げられているテーマですが、いわゆる日本の「時代劇」は年々テレビ局での放映ニーズが減っているジャンルでもあります。

その中で、本格的な「時代劇」のシーンを映画で撮りたいという安田監督の熱意が多くの関係者の心を動かしたということのようです。

「SHOGUN」と同じ年にヒットした運命

振り返ってみると、実は今年はアメリカで制作された「時代劇」である「SHOGUN」が、世界的に大きな話題になった年でもあります。

この「SHOGUN」においても、真田広之さんがプロデューサーを務め、役者や様々な専門家を日本人で揃えることで、本物の戦国時代を再現されたことが有名です。

参考:真田広之主演「SHOGUN 将軍」のエミー賞最多ノミネートが、日本のテレビに与える衝撃

「侍タイムスリッパー」に貢献された東映京都撮影所の「時代劇」のプロの方々や、「SHOGUN」に貢献した「時代劇」のプロの方々の力は、実は今こそ世界に求められているということが言えるのかもしれません。

「侍タイムスリッパー」が観客賞金賞を受賞したカナダのファンタジア国際映画祭での様子が、未来映画社のYouTubeにアップされており、海外の観客の方々が日本の「時代劇」をテーマにした映画を心の底から楽しんでいる様子が非常に象徴的です。

「SHOGUN」のような巨額の予算の「時代劇」は日本ではなかなか作ることは難しいかもしれませんが、自主制作の「時代劇」でも世界にとどく映画を作れることを「侍タイムスリッパー」は教えてくれていると言えるでしょう。

そういう意味では、「侍タイムスリッパー」が「SHOGUN」と同じ年にヒットするというのは、運命でもあり必然でもあるように思えてきます。

既に「侍タイムスリッパー」にも、海外から様々な上映や映画祭のオファーが届いているようですから、実は、「時代劇」の魅力や可能性を一番分かっていなかったのは、私たち日本人だったという話になるのかもしれません。

まずは、この映画の話題がどこまで従来の常識を超えて広がっていくのか、引き続き注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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