解明された、ロンドン殺人霧の正体
1952年12月5日ー。
その日もロンドンは濃い霧に包まれていた。2,3メートル先も見えないほどのひどい状態であったが、住民は特に気にしてはいなかった。なぜならロンドンではこれほどひどい霧も日常茶飯事のことだったからだ。ただ一つ違っていたのは、その日は強い高気圧に覆われ、一日中非常に寒かったことだった。
しかし、この一見穏やかに見えた環境の中で、突如として異変が起きた。住民の多くが気管支炎や低酸素症を起こし、次から次へと病院に運ばれ、数多くの命が奪われた。その死者数たるや、数日間で1万2千人にも上った。
原因の一つは高気圧
当時のロンドンは、石炭の大量燃焼によって発生した二酸化炭素や有害物質で大気が汚染されていました。この霧は、いわゆるスモッグのことです。
通常スモッグは風に乗り分散されていくのですが、その時だけは違いました。勢力の強い高気圧が約5日間もイギリスを覆っていたため、風が弱く、また雲もありませんでした。
そのため夜間、地面からの熱の放射が盛んに行われ、地面付近が冷え込む放射冷却が起きました。この状態が起きると、地面付近の汚染物質を大量に含んだ空気は冷やされ、重くなり、地上にとどまるようになります。
その結果、汚染物質の濃度が一気に上がり、大量の死者や病人を出す惨事となったのです。
殺人霧の正体
今まで、このように高気圧が被害を拡大させたことは分かっていたのですが、どういった化学反応が起きて、これほどの事態になってしまったのかについての解明はされていませんでした。
しかしその全貌が、先月ようやく、テキサスA&M大学のレーニー・チャン氏らによって明らかにされたのです。
研究によると、石炭の燃焼により発生した二酸化硫黄と二酸化窒素、そして霧の水滴との相互作用によって硫酸塩が発生したのだといいます。そして霧が薄くなって水分が少なくなると、硫酸塩の濃度が高くなって、非常に有害なスモッグとなったというのです。
中国のスモッグ
さらにチャン氏らは、当時のロンドンのスモッグは酸性であったのに対し、近年問題になっている中国のそれは、中性であることも突き止めました。
また中国のスモッグは、二酸化硫黄と二酸化窒素の他に、窒素肥料の大量使用によるアンモニアも影響しているといいます。
その上で、中国では二酸化硫黄の排出に規制がかけられていますが、アンモニアなどへ規制は進んでおらず、こうした対策も行うべきだと指摘しました。
中国では大気汚染により1日で4千人が死亡しているとする試算もあって、こうした研究が状況改善につながることを期待するばかりです。