Yahoo!ニュース

神の左vs神の目。山中-モレノ戦は米国でも注目ファイト

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員

バンタム級トップ対決

WBC世界バンタム級チャンピオン山中慎介(帝拳)vs元WBA同級“スーパー”王者アンセルモ・モレノ(パナマ)の一戦までわずかとなった。本稿終了までに開始ゴングが鳴ってしまうかもしれないが、本場・米国でのプレビュー、予想をまとめてみたい。このカードが軽量級への関心が薄い米国でも注目を集めているのは典型的なパンチャー(山中)とディフェンス能力に長けたテクニシャン(モレノ)の対決という背景がある。

同時に今回が9度目の防衛戦になる山中は海外メディアの間でも評価が高い。リング誌、スポーツ専門ケーブルのESPN、記録サイトのボックスレク、著名サイトのボクシングシーンの各ランキングで1位(チャンピオン)を占めている。モレノも上記のボックスレクを除くランキングで3位と高いポジションをキープ。2位は昨年モレノを負傷判定で下し、13度目の防衛を阻んだフアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)だ。

メディアの中でボクシングシーンが詳細な展望記事を掲載している。

以前フライ級を中心にした軽量級にスポットを当てた博識クリフ・ロルド記者が両者の戦力を分析。スピードの分野では山中をB、モレノをB+と採点。まずは順当な評価といえそうだが、試合を決する決め手にはならないとしている。山中に関してはタイトル獲得以後、ジャブが向上し卓越したフィニッシュ・パワーが印象的と評価。だがボディー攻めはあまり仕掛けないと見ている。

山中はまだ見ぬ強豪

パワーに関しては山中が明らかに優位としながらも評価はB+、モレノはC+。王者のゴッドレフトに対してモレノは地味に見えるが、ボディー打ちが最大の武器でパンチのバラエティーさでも山中を上回ると記す。またパナマ人のワンツーが山中を悩ますとも。だが山中は左だけが持ち味ではなく、右フックも威力があると解説。もし右がタイミングよく決まれば、左の効果を倍増させると強調する。

ディフェンス面では山中がB、モレノはB+と僅差で挑戦者有利。プレッシャー型の相手に対する対応がうまいモレノは山中のタイミング、リズムを狂わせペースをつかむのでは――と王者の苦戦を予想する。モレノのスリピングやパリーといったディフェンス技術を評価するロルド記者だが、パーネル・ウィテカー(米=オスカー・デラホーヤやフェリックス・トリニダードらと対戦した元3階級制覇チャンピオン)の格下バージョンと言及。

山中のパワー、モレノのディフェンスを“A”まで昇華させないのは米国記者のプライドの表れなのか?日本ではメディアやファンから高い評定を受ける山中だが、まだ本場リングに登場しておらず、そのあたりが査定に影響しているのだろう。「まだ見ぬ強豪」という認識が強い。対するモレノはビック・ダルチニアン、アブネル・マレスと米国で戦い、山中より知名度が浸透している。ただマレスにダウンを奪われて判定負けしており、それがマイナス点につながるようだ。

モレノの判定勝ち?

それでもロルド記者は両者のこれまでの対戦相手、試合内容に関して“A”を与えている。またモレノがベルトを明け渡したパヤノ戦は結末(負傷判定)からもパナマ人の評価を落とすものではないと明記する。そして同記者の予想は打撃戦を回避したモレノがハイレベルなテクニカルファイトを制して判定勝ち。「冷静な目で見て」という注釈がつく。

この好カードは他の米国メディアでも取り上げられ、記者会見でも話題となったゴッドレフト(山中)vsゴッドアイ(モレノ)という見出しも散見される。試合直前に掲載されたボクシングシーン各編集記者の予想を記してみよう。

まず編集長のジェイク・ドノバン氏は山中の判定勝ち。「2,3年前だったら、モレノにもっとチャンスがあっただろう。山中がタイトルを守る。彼はKOをねらうが、モレノのやりにくいスタイルに判定に持ち込まれる」。またタカヒロ・オナガ氏も王者の判定勝利に傾く。「素晴らしいマッチアップ。だがモレノは試合間隔が開いている。チャンピオンはダウンを奪うがタフな展開を強いられ末、ユナニマスデシジョンで勝つ」

ロルド記者同様モレノの判定勝ちを唱えるのは東海岸で寄稿するビクター・サラサール記者。「モレノが神の領域に侵入し、ユナニマスデシジョンを得る」。一方フロリダがベースのレイナルド・サンチェス氏は山中の中盤TKO勝利を予想。「モレノは彼の全盛期を超えた印象。それに日本で勝つにはパーフェクトなパフォーマンスが要求される。山中はKO%が高く、身長、リーチのフィジカルアドバンテージがある。山中はモレノに倒せるパワーがないことを知っている。初回からKOをねらう日本人が中盤で仕留めるだろう」

最後にロシアを中心にヨーロッパで健筆をふるうアレクセイ・スカチェフ記者も山中の3-0判定勝ち。「山中の体格とパンチャーぶりが勝敗を分ける。彼はアウトボクシングもできるし、タイトルホルダーになって以来スキルを磨いている。私は山中が慎重にディフェンスシブになりながらもプレスをかけ、ホームアドバンテージにも後押しされてリードすると思う。モレノは終盤、反撃を試みるが効果は少ないだろう。小差で山中の勝利とみる」

オッズメーカーの賭け率は当初の4-1から試合直前の時点で5-1と山中優位に開いた。果たして結末は?

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事