土屋太鳳が凄い。鉄腕アトムのウラン役で、欧州に挑む。『プルートゥ PLUTO』
踊る土屋太鳳に目が離せない
土屋太鳳が凄い。
第41回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞した映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(瀬々敬久監督)では、脳の疾患により回復するまでに8年も要した女性を演じ、発作が起きたときの制御不能な激しい動きは、映画に身を捧げる求道者を思わせた。
大学でダンスを学び、その身体能力を折につけ発表してきた土屋。朝ドラ『まれ』(15年)のオープニング映像では能登の海岸を舞台に即興ダンスを披露した。2016年には、オーストラリア出身歌手・シーアの新曲『アライヴ』の日本版ミュージックビデオで、髪の毛を白と黒に塗り分け(ブラックジャックみたいに)て、何かに憑かれたように踊る姿は、多くの人の度肝を抜いた。昨年(17年)はダイハツBOON CMで溌剌と踊っていた。2月1日には、NHKの音楽番組『SONGS』で三浦大知とダンスについて語るらしい。
踊る土屋太鳳を生で観ることができるのが、彼女にとって初舞台となるhttp://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_pluto/『プルートゥ PLUTO』(シアターコクーン 演出、振付シディ・ラルビ・シェルカウイ)だ。ここでも彼女は、肩甲骨の可動域の広さを存分に発揮して腕をギュイーンと前に伸ばして、キレのいいダンスを踊っている。
1月28日まで東京Bunkamuraシアターコクーンで公演の後、2月には、イギリス、オランダ、ベルギー公演が控えている。初舞台にして、海外進出となった。
森山未來演じるアトムの妹ウランを演じる
土屋太鳳は、この舞台で、ツインテールにして、鉄腕アトムの妹ウランを演じている。それが前述の『アライヴ』の日本版ミュージックビデオでブラックジャックみたいに白黒の髪の毛をしていた縁かどうかはわからないが、『プルートゥ PULUTO』は、手塚治虫の『鉄腕アトム』の中の一作『地上最大のロボット』を、『20世紀少年』『MASTERキートン』『BILLYBAT』などを生み出した漫画家・浦沢直樹と原作者・長崎尚志がリメイクした漫画で、これを、ベルギー生まれのアーティスト・シディ・ラルビ・シェルカウイが2015年に、森山未來をアトム役にして、初めて舞台化した。
それから3年、ストーリーはそのままに、出演者も一部変更した上で、表現方法を今一度練りあげ、新しい『プルートゥ PULUTO』が誕生した。土屋は新キャストのひとりである。
物語は、SFやミステリーとしても精度の高いヒューマンドラマ。人間とロボットが共存する世界で、高性能ロボットが次々破壊される事件が起る。標的となったロボットたちと同じ高性能刑事ロボット・ゲジヒトは、同じく高性能ロボットで、限りなく人間に近いロボットであるアトムと共に事件の真相を追う。人間とは何か、ロボットとは何かを問う、AIが発達してきた今こそ、極めて身近に感じられるストーリーだ。
あらゆる才能が集結
舞台では、浦沢の漫画がふんだんに映写され、雰囲気を盛り上げる。プロジェクションマッピングほか、映像を担当している上田正樹が考案した美術装置として、漫画の枠線(枠と枠の間の白い隙間)を思わせる白いフレームも効果的だ。
巨大ロボットも原作に忠実に再現されて圧巻(ロボット造型は『シン・ゴジラ』などの造型も手がける西村喜廣)。東京公演では、初日とあと一日だけ、Pepperくんが特別出演して、いっそう、ロボット世界が現実にあり得るものだと想像を膨らませてくれる。
日本を牽引するあらゆる技術者の才能と、優れた俳優たちと、世界水準のダンサーたちが、漫画の世界を立体化していく。
3月29日〜31日にはオーチャードホールにてダンス公演マリア・パヘス&シディ・ラルビ・シェルカウイ DUNAS-ドゥナス-も行う振付家でありダンサーであるシディ・ラルビ・シェルカウイのイマジネーションの白眉は、ロボットの動きを、複数のダンサーたちによって操られているように、まるで文楽人形のように見せるところ。人間とロボットの心の有無を、ユニークだがわかりやすく表現してみせる。
15年に初めて、この作品を見たときは、まずこれらの仕掛けに目がいき、漫画と舞台のコラボレーションの最先端だと感動したのだが、3年経って、進化したこの作品を観たら、仕掛けよりも、ロボットが人間の心を持ち得るのかという問のほうに気持ちが向かった。ひとつひとつの動きに宿るこまやかな感情に。
あふれる感情を身体で表現する森山と土屋
人間と人間、人間とロボット、ロボットとロボットが会話しコミュニケーションしていくなかで、生まれていく、相手への思いやり。
森山未來演じるアトムも、土屋演じるウランも、ロボット、しかも高性能なのだが、人間とロボットの境界で揺れ動いていく。
森山の身体表現の凄まじいパワーは、昔、「世界の中心でアイを叫ぶ」エヴァンゲリオンに例えたこと森山未來よ神話になれ「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」にエヴァンゲリオンを見たがあるのだが、彼が演じるアトムの妹たる土屋も、リミッター超える度胸のある俳優。このふたりがアトムとウランというのは最強である。
異国の人は、どう観るか
シディ・ラルビ・シェルカウイは、アラブ系の父親とヨーロッパ系の母親との間に生まれ、アラブとヨーロッパという異なる価値観が理解し合えることを常に望んで生きてきたという。彼にとって、『プルートゥ』で描かれるロボットと人間は、アラブとヨーロッパでもあった。そんな想いがこもった舞台は、漫画の舞台化という趣向を超えて、ぐいっと人間の心に迫る作品になっている。日本と文化の違う海外公演で、この作品がどう受け止めらえるか、今こそ、演出家の願いが試されそうだ。
外国人が、土屋太鳳をどう受け止めるだろうか。
土屋は、ウランともうひとり、ゲジヒト(大東駿介)の妻ヘレナも演じている。こちらは天真爛漫、元気溌剌のウランとは違った落ち着いた理知的な女性で、土屋は、声も動きもウランとは鮮やかな変化ぶりを見せた。
欧州ツアーを終えると、3月に大阪での凱旋公演が用意されている。
プルートゥ PLUTO 鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
原作:浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース
監修:手塚眞
協力:手塚プロダクション
演出、振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
出演:森山未來、土屋太鳳、大東駿介、吉見一豊、吹越満、柄本明
東京公演 1月18日〜28日 Bunkamuraシアターコクーン
大阪公演 3月9日〜14日 森ノ宮ピロティホール
欧州ツアー 2月8日〜11日 イギリス・ロンドン
2月15日〜17日 オランダ・レーワルデン
2月22日〜24日 ベルギー・アントワープ
☆手塚のつかははらいに点がはいる塚
(c)浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修・手塚眞 協力・手塚プロダクション/小学館
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より『プルートゥ PLUTO』(2018)Bunkamuraシアターコクーン(撮影:細野晋司)