「第三のMF像」が見え始めたスペイン。若い世代の突き上げと移籍の影響。
スペインはEURO2020予選で6連勝を飾り、本選出場に向けて、驀(ばく)進している。全勝を貫いているのは(維持している)のは、スペインとイタリアのみだ。
シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、シャビ・アロンソ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス...。世界を席巻したチームの中心には、彼らがいた。
だが、いま、その代表チームに「新たな血」が入れられようとしている。
■移籍と可能性
EURO2020の結果を左右しそうな出来事がある。それは2019年夏の移籍市場と、U-21スペイン代表の欧州制覇である。
この夏、ロドリの愛称で親しまれるロドリゴ・エルナンデスと、ダニ・セバジョスが移籍を決めた。ロドリは完全移籍でマンチェスター・シティに、セバジョスはレンタルでアーセナルに新天地を求めている。
ロドリはマンチェスター・シティでジョゼップ・グアルディオラ監督の指導を受ける。フェルナンジーニョの後釜と目され、4-3-3のアンカーに置かれている。スペイン代表では、セルヒオ・ブスケッツとポジションを争うだろう。そのブスケッツは、X・アロンソとの競争に身を投じた。
当時、スペインでは、ワンボランチとダブルボランチをめぐる議論が巻き起こった。ビセンテ・デル・ボスケ監督はX・アロンソとブスケッツのダブルボランチを採用した。過去を顧みれば、ブスケッツとロドリが共存する可能性は残されている。
セバジョスは、ウナイ・エメリ監督の率いるアーセナルで、攻撃を創造する役割を担うことになる。4-4-2で、中盤ダイヤモンド形のトップ下に入る。ピエール=エメリク・オーバメヤン、アレクサンドル・ラカゼット、ニコラス・ぺぺを操りながら、プレミアリーグの肉弾戦に適応していく必要がある。
そのセバジョスの評価を高めたのが、6月に行われたU-21欧州選手権だ。
■突き上げ
U-21欧州選手権に、ロドリは出場していない。疲労を理由に辞退したが、その裏には移籍に向けた動きがあったようだ。一方、その大会でセバジョスと同様に輝きを放ったのがファビアン・ルイスである。
ファビアンは、8歳で入団したベティスのカンテラで、アレビン(U-11)世代で1シーズンに107得点を記録するという「伝説」を残している。当時のファビアンは小柄で、長髪で、左利きのアタッカーだった。地元パラシオスにちなんで、『パラシオスのメッシ』という異名を取ったほどだ。
その後、順調に成長して、18歳でトップデビューを果たす。コンスタントに世代別代表に呼ばれ、U-21スペイン代表に定着した。彼のブレイクのきっかけは、2016-17シーズンだろう。半年のレンタルでエルチェに加入したファビアンは、リーガ2部で出場機会を得て自信を培った。
ベティスにレンタルバックした彼を待っていたのはキケ・セティエン監督だった。ポゼッション・フットボールを嗜好する指揮官の下で、常時スタメンに名を連ねるようになる。
そして2018年夏、ナポリが契約解除金3000万ユーロを支払いベティスからファビアンを獲得した。ナポリでは、2018-19シーズン途中にマレク・ハムシクが去ると、中心に据えられて存在感を増した。攻撃時に2-3-4-1を形成するナポリで、中盤を司っている。
■出現した理由
ファビアンは190cmの体躯を生かして、空中戦においても強さを発揮する。シャビやイニエスタとは異なる、ボックス・トゥ・ボックス型。いわば、ニュータイプだ。
なぜ、彼のような選手が、出てきたのだろうか。
ホセ・ルイス・ガジャ、ダニ・パレホ、ロドリゴ・モレノを代表に送り込んでいるバレンシアを除けば、スペインのチームは外国籍選手に頼っている。レアル・マドリーとバルセロナに加え、アトレティコ・マドリーの「ビッグクラブ化」で、スペイン代表への扉は狭くなった。
激化する外国籍選手との競争が、国内選手の足枷となる。現在、スペイン代表の主力になっている3強の選手はセルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)、ジョルディ・アルバ(バルセロナ)、セルヒオ・ブスケッツ(バルセロナ)、サウール・ニゲス(アトレティコ)くらいだろう。
ゆえに、国外に活躍の場を求める選手が増えてきた。レアル・マドリーからアーセナルに移籍したセバジョスの例は、その典型だ。
ロドリ(マンチェスター・シティ/イングランド)、セバジョス(アーセナル/イングランド)、ファビアン(ナポリ/イタリア)。代表に刺激を与え、別の次元に引き上げるのは、海外でプレーする若い3選手かもしれない。
スペインで、第三のMF像が描かれる。若い世代の突き上げが、進化を促す。その先に、タイトルが待っているはずだ。