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目標は幕内ではなく「幕内で“大活躍”」大相撲初場所で再十両決めた37歳・北磻磨が再度這い上がれた理由

飯塚さきスポーツライター
新しい締め込みで撮影に応じてくれた山響部屋の北磻磨(写真:すべて筆者撮影)

大相撲初場所で約3年半ぶりの再十両を決めた、37歳の北磻磨。9度の再十両は史上1位タイ、また37歳6か月での再十両は、史上2位の高齢記録と、ベテランならではの記録もついてきた。幕下陥落から再度、這い上がってこられた原動力とは――。本人を直撃し、その秘密を探った。

活躍のカギは「稽古前の朝ごはん」

――再十両おめでとうございます!先の初場所を振り返っていかがでしたか。

「勝った相撲は全部よかったと思います。負けた相撲には課題があるんですが、裏を返せば伸びしろがあるかなと」

――場所中、元幕内・徳勝龍の千田川親方に取材した際、北磻磨さんは「強い人と戦いたい」とおっしゃっていたとお聞きしました。

「その記事読みましたよ!たしかに、場所前から、若隆景・伯桜鵬と戦うイメージはしていました。完敗でしたけど、来場所も当たるので、次こそ勝てるように今場所当たっておいてよかったです。自分は、仕切るときいつも相手の顔をずっと見ていて、若い子はだいたい目を合わせてこないんですが、あの二人だけは睨むくらいしっかり目を合わせてきました。やっぱり上で戦う人は違うなと思ったので、自分ももっと上を見ていたいですね」

部屋には再十両のお祝いの花が飾られていた
部屋には再十両のお祝いの花が飾られていた

――今回の再十両では、最高齢史上2位、9回目の再十両は史上1位タイと、ベテラン記録もついてきました。

「自分では歳いっているようには思わないんですけどね(笑)。動きもそんなに変わらないし。ただ、マッサージや風呂、ストレッチなどのメンテナンスには、昔よりお金も時間もかけています。食生活も変えました。まず、お酒は飲みません。もともと全然飲まなくても平気なので、番付発表後は絶対に飲まないし、飲むにしても場所後の1週間くらい。あと、1年前から朝ごはんをしっかりとるようにしています。食べるのは、おにぎり、ゆで卵、ミロを入れた豆乳、はちみつ入りヨーグルト、あとバナナです。昔は稽古後にガッツリ落ちてしまっていた体重が、いまはそんなに減らないし、稽古場で力が出るんです。それまでは、稽古前にプロテインを飲む程度だったんですが、高安に朝ごはんを勧められてやってみたら、朝の動きが目に見えて変わりました」

――体重は変わりましたか。

「1年で8キロ増えました。相手に押されないようになりましたね。動きが変わらないまま体重が増えたから、相手に伝わる圧力が増したのかもしれません」

モチベーションは「ベテランで再十両決めた北桜関の背中」

――幕下陥落から今回の再十両まで3年半。どんな心境で過ごしていましたか。

「正直、だいぶきついときもありました。特に1年半くらい前は、“勝たないと”という気持ちが強すぎて、稽古場でもしんどかったくらい。でも、この1年で結果を出すという思いで、食生活や環境を変えました。あとひとつ大きなことがあって。再十両最高齢記録の3位が北桜関なんですが、もともと北の湖部屋で一緒だった先輩なんです。自分が若いときに、30代後半で(幕下に)落ちても、汗をかいて泥だらけになってやっていた北桜関を見て、すごくカッコよく感じました。その姿が心に残っていて、モチベーションになったんです。北桜関はあれだけやっていたんだから、自分が簡単に辞められない。最後までやり切るんだっていうのを背中で見せてもらったことが、いまも力になっています」

――そうだったんですね。今日は新しい締め込みで稽古されていました。どんな思いでしたか。

「3年前に1場所だけ上がったときに贈っていただいたものなんですが、仕上がるタイミングが遅くて当時はつけられなかったので、3年越しに日の目を見た締め込みです。つけられて本当によかったです!まだ固いので、慣れるために稽古でもつけています」

新しい締め込みでストレッチやトレーニングに励む北磻磨
新しい締め込みでストレッチやトレーニングに励む北磻磨

――今後対戦してみたい人はいますか。

「みんなですけど、同郷で同学年の妙義龍関とやりたいです。中学のときは一緒に練習していましたが、入門してから稽古でも本場所でも当たっていないので。そろそろ当たらないと、どっちか辞めちゃうでしょ(笑)」

――お二人ともまだまだです!来場所は久しぶりの15日間の相撲ですが、どう臨みますか。

「探り探りやっていくしかないですね。前回の十両とはまったく別の体になっているので、新十両くらいの気持ちで行きます」

――今後の目標は。

「ただ幕内に上がることではなく、幕内で“大活躍”です。特に、昨年の11月場所でまだ戦えるなと思えたので、初場所も自信をもって臨めました。この歳でもいけると思ったらいけますからね。頑張りたいです」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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