【JAZZ】ブラジル音楽シーンの“いま”を味わうための16曲(v.a.『鎌倉のカフェから』)
話題のジャズの(あるいはジャズ的な)アルバムを取り上げて、成り立ちや聴きどころなどを解説。今回は『鎌倉のカフェから』というオムニバス・アルバム。
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ブラジル音楽の新たな潮流を一望できる内容のアルバムだ。v.aというのはVarious Artists(さまざまなアーティスト)の短縮表記。つまり、いろいろな演奏者が収録されているオムニバス、コンピレーションであることを示すもの。
ということは、本作はアーティスト側の基準ではない、ほかの選択基準があるということになる。タイトルから察する人がいるかもしれないが、鎌倉に実在する“カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ”というカフェのマスターである堀内隆志氏のセレクトによる企画だ。
“カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ”は1994年4月にオープンしたカフェで、堀内氏はコーヒーへのこだわりもさることながらブラジル音楽に関して造詣の深いオーソリティ。つまり本作は、ブラジル音楽の動向を日本でもっとも知っている人物が選んだブラジル音楽の現在進行形を映し出す鏡であると言っていいだろう。
千載一遇を与えてくれるオムニバスの醍醐味
アーティストの個人名義アルバムでは方向性やこだわりなど“どこに集約しようとしているのか”を探る楽しみがあるのに対して、オムニバスでは集約を意識してはいけない。複数の異なるアーティストを収録するという作業は、対象を定めながらも俯瞰することを目的としているからだ。ばら撒かれたアイテムのなかから自分のアンテナが反応するものをひとつでもいいから拾えるかどうかという楽しみ、と言えばいいだろうか。
ボクはこのアルバムで、3曲の“いい出逢い”をもらうことができた。ペドロ・アルテリオ・イ・ブルーノ・ピアッツァ、チアゴ・ヴァルゼー、サラ・セルパの3アーティストによるものだ。
MPBのときにも思ったのだが、ブラジルには独特のコード・ワークが存在する。それはジャズが取り込もうとしても取り込むことができていない(いまだに)領域であると思う。そしてまた、本作でそんな出逢いをもたらしてくれた。ブラジルのポピュラー音楽がコードに独特のこだわりを持ち続けていることが、このアルバムでまた証明されたような感がある。
また、自宅をカフェにしてくれる極上のBGMとして活用するのもアリだろう。16曲中14曲が日本盤として初収録されているのだから、これまでに体験したことのないブラジリアンな雰囲気を満喫できること間違いなし。前述の気になる曲が16曲中3曲というのも、全体を流して聴きたいときに気になりすぎないバランスと言えるかもしれない。こうしたブレンドの妙は、コーヒーにこだわりをもった堀内氏ならではの“美学”なのではないか、と考えながら聴いたりするのもオムニバスならではの楽しみだろう。
Mae e So- Bruno Piazza e Pedro Alterio na Sala Crisantempo
※ポルトガル語独特の綴り字記号を表記できないために文中では省略していますのでご了承ください。