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最強スペインに死角あり。日本のキーマンは上田綺世と久保建英。

小宮良之スポーツライター・小説家
ゴールを祝う久保、上田(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 カタールW杯、グループリーグ最終戦で日本はスペインと激突する。ひいき目に見ても、厳しい戦いになるだろう。

 スペインは、過去のW杯王者というだけではない。戦力的にもFCバルセロナ、マンチェスター・シティなど有力クラブの在籍選手ばかり。EURO2020(2021年に開催)はベスト4、昨年10月のネーションズリーグは準優勝だった。欧州で、今も勢力を保っている。

 スペインに死角はあるのか?

「ある」

 まずは、そう答えたい。

強いが、死角はある

 スペインはEURO2008で王者になった後、2010年南アフリカW杯で悲願の優勝を達成している。イケル・カシージャス、ジェラール・ピケ、カルレス・プジョル、セルヒオ・ラモス、シャビ・アロンソ、セルヒオ・ブスケツ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャなどを擁し、EURO2012でも大会連覇を経験。一つの最強時代を作った。

 しかし時代は巡る。一つのサイクルは終焉を告げた。

 2014年ブラジルW杯はグループリーグ敗退、EURO2016もベスト16止まり。2018年ロシアW杯は、開幕二日前に監督交代の騒動でベスト16がやっとだった。最強戦士たちはほとんどが去り、常勝軍団の面影は消えた。

 そして、今年9月のネーションズリーグ、スイス戦では本拠地で1-2と敗北している。

 このゲームには攻略法が隠されていた。

スイスが与えたヒント

 まず、スペインはスイスのようなチームにてこずる。

 ソリッドに規律正しく守るだけでなく、大柄な選手が多く、強度も高い。何より粘り強い試合運びで、どうにか勝ち取ったセットプレーをものにするインテンシティを持っている。事実、ボール支配率は20%台だったが、CK2本で2得点を決めて勝ってしまった。加えて言えば、スペインが2010年W杯で世界王者になった時も、スイスはグループリーグ初戦で圧倒的に攻められながら、一発でKOしたのだ。

 スペインの選手は、ボールを握って、つなぎ、運ぶことに慣れている。1対1で仕掛ける力もある。また、コンビネーションもうまく用い、クロスの質も高い。ただ技に溺れるわけではいが、高さや強さへのプライオリティは低いと言える。テクニカルな選手が集まったチームの特質上、そうならざるを得ないのだろう。

 例えば右のセンターバックのエリク・ガルシアは、ビルドアップ能力だけで言えば世界屈指だろう。バルサの下部組織で育てられ、マンチェスター・シティで研鑽を積み、バルサに戻ってプレー。ポゼッションサッカーにおいてはエリートである。

 しかし、E・ガルシアは一人の守備者としては脆さが見える。高さ、速さ、強さ、したたかさ、どれも足りない。スイス戦も、ブレール・エムボロに対してコンタクトプレーで負け、走力でも劣り、簡単に前へ入られていた。そのたび、守備組織に亀裂が走った。

 そこで日本のキーマンに推奨するのが、上田綺世(セルクル・ブルージュ)である。

上田のパワー

 上田はストライカーとしてE・ガルシアを肉弾戦で消耗させられることができるはずで、スペインのバックラインに乱れを生じさせられる。頑強なプレーができ、走りながらボールをコントロールしても質が落ちない。ディフェンスを引きずりながらでも、強烈なシュートが打てる。動き出し、ボールの呼び込みは天才的レベルだ。

 困ったことに、E・ガルシアが先発を外れる可能性もあるだろう。左利きセンターバックを二人並べる可能性もない話ではない。ただ、左利き二人を並べるリスクは自ずと出るものだ。

 結局、その時も上田のようなパワーのあるストライカーがキーマンになる。

 避けるべきは、プレッシングでE・ガルシアやバックラインを封じ込めようとすることだろう。おそらく、その程度の追い込みでは外され、むしろ痛い目に遭う。90分間、プレッシングは続かない。

 あくまで攻撃的姿勢で、E・ガルシアを狙い撃ちするべきだろう。

「一人の弱さは周りが補強する」

 それが定石だが、スペインの場合、周りの選手も決して守備面の強さで構成されていない。これは選手の特色、チームの構造の話である。

 例えばジョルディ・アルバは、超がつくほどの攻撃志向の左サイドバックと言える。バルサでリオネル・メッシとのコンビで一つの得点パターンを作った記憶は新しい。敗れたスイス戦も、同じ左利きのマルコ・アセンシオのパスをゴールに放り込んでいる。

 しかしディフェンスはスピードも、パワーも、駆け引きも問題を抱える。受けに回ったら弱さが出る。

 そこで、もう一人のキーマンがアルバとマッチアップする場面も多そうな久保建英(レアル・ソシエダ)だ。

アルバを狙う

 久保は高い位置で複数のスキルの高いプレーヤーとコンビネーションを用いることで、真価を発揮できる。その輝きは、ホンモノである。今シーズン新たに入団したレアル・ソシエダで証明しているように、トップ、もしくはトップ下で自由に連携するプレーがベストだろう。

 ただ、右に流れたプレーを得意とするのも間違いない。近い距離で鎌田大地、守田英正と絡みながら、独力のドリブルでシュート、あるいは決定的クロスまで持ち込める。機動力や発想力で、俊敏性は落ちたアルバを翻弄することができる力を持っているだろう。

 あるいは、堂安律というカードをぶつけるのも悪くない。堂安はパワーがある選手で、アルバを苦しめるだろう。逆に受け身に回ってカウンター狙いの対応だと、不利になるはずで…。

 日本は簡単に攻め手を与えず、できるだけファイティングポーズを取るべきだろう。スイスほど、守りを固めるべきではない。それだけのディフェンス強度はないからで、例えば左サイドは長友佑都、中山雄太とどちらが担当するにしても、馬力のある選手には苦労するだろう。

 スイスを完ぺきにコピーするなら、3バックにして高さに強い選手を増やし、セットプレー一発に懸けるのも一つの手ではある。酒井宏樹、冨安健洋、吉田麻也、板倉滉、中山を並べると、高さでいくらかメリットが出る。ただ日本の特性を考えたら、機動力とテクニックをコンビネーションで融合させることを得意とする選手が多く、攻撃的な編成で挑むべきだろう(もちろん、その選手たちが懸命に守ることは条件である)。

 守るために腰が引けてしまったら、付け込まれることになるのは間違いない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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