【DMJ】音楽と歌と芝居の融合が拓く愛憎の新世界(オルケスタ・リブレ plays 三文オペラ)
富澤えいちが足を運ぶ直前に、“ジャズの醍醐味”と言われているライヴの“予習”をやっちゃおうというヴァーチャルな企画が“出掛ける前からジャズ気分”、略してDMJ。今回は、オルタナティヴな音楽劇「三文オペラ」の再々再演。
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オルケスタ・リブレ plays 三文オペラは2年前の2012年11月28日に初演が行なわれた。“2012年秋のリトル・ツアー”と題した、山梨、名古屋でのオルケスタ・リブレ公演を終えた彼らが東京・白河の深川江戸資料館・小劇場へ乗り込んでの、歌と芝居と講談を融合させたスピンオフ的な企画だったと言えるだろう。
スピンオフといえば、オルケスタ・リブレ自体が2011年6月に新宿ピットインで行なわれた“芳垣安洋4デイズ”のスピンオフだった。芳垣安洋が“興味のある異物”を呑み込むたびに分裂して、その分身が勝手に増殖していくというプロセスこそが、芳垣安洋あるいはオルケスタ・リブレの放つ怪しげな魅力の源泉であり、これはある意味で20世紀にジャズが大いなる雑食性を発揮して“世紀の芸術”と称されるまでに発展してきたことに重なる。
さて、本公演の土台となっている「三文オペラ」は1928年にドイツの劇作家ブレヒトが戯曲化し、クルト・ワイルが音楽を手がけた音楽劇。モチーフになっているのは1728年にジョン・ゲイが書いた3幕のバラッド・オペラ「ベガーズ・オペラ(乞食オペラ)」で、どちらも大成功を収めていまだに人気のある演目。
クルト・ワイルは1935年にアメリカへ移住し、ブロードウェイ・ミュージカルにも大きな功績を残している。ということでジャズにとっても縁遠からぬ作曲家であったことから、これまでも多くのジャズ・ミュージシャンやヴォーカリストたちが彼の作品を取り上げているが、「三文オペラ」の「メッキー・メッサーのモリタート(マック・ザ・ナイフ)」はその代表的なナンバーと言っていい。
オルケスタ・リブレ plays 三文オペラでは、柳原陽一郎の日本語による歌と、松角洋平のひとり何役もの芝居、そして案内役に今年真打ち昇進となった講談の神田京子を加えた重層かつ演劇的な空間のなかで、“自由”という名の下に集まったミュージシャンたちがクルト・ワイルも思いつかなかったアレンジで20世紀初頭の愛憎劇を現代に蘇らせるという趣向。
なぜオルケスタ・リブレは「三文オペラ」に着目したのかについて、芳垣安洋に質問メールを出してみたら、こんな返事が返ってきた。
まずは、クルト・ワイルの楽曲のもつ魅力ですね。それは、その後のシェーンベルクなどが確立した音楽と古典の中間地点にある事から生まれる、不思議なサウンドの魅力です。ブレヒトの戯曲は現代劇ではありませんが、いまの我々の目を普遍的な人間の生き方に向けさせるように、面白い視点から書かれていると思います。シェイクスピアとブレヒトは好きな戯曲が沢山あります。
彼はFacebookのなかで「演劇や様々な芸能、ダンスや舞踏をはじめとする身体表現など、音楽以外にも刺激を与えてくれる表現にはずっと関心を抱いてきましたが、40代になって、演劇や映画そしてTVドラマの音楽制作に関わる仕事も増え、それまで大筋しか知らなかった作品や少年少女世界文学全集で読んだことしかなかった作品の戯曲を読んだり、実際に舞台で観たりする機会が増えました」(引用:https://www.facebook.com/orquesta.libre)と記していて、とくにシェイクスピアとブレヒトへの興味が膨らみ、それとオルケスタ・リブレという自由度の高い再生装置が実現したこととが相まって、オルケスタ・リブレ plays 三文オペラにつながったと思われる。
では、今回の公演に向けた芳垣安洋のメッセージで締め括ってもらおう。
過去3回の上演を経て、音楽と役者や講談師から発せられる言葉とが作る空間の広がりが大きくなってきたのを感じています。元々は音楽が芝居を中断させることから生まれる効果を第一に考えて作られた劇ですが、逆に我々の作品からは、芝居的な要素と音楽がどう交わり、融けていくかを感じてほしいと思います。
では、行ってきます!
●公演概要
オルケスタ・リブレ plays 三文オペラ
10月7日(火) <夜の部>開場 18:15/開演 19:00
10月8日(水) <昼の部>開場 13:15/開演 14:00
10月8日(水) <夜の部>開場 18:15/開演 19:00
会場:アサヒ・アートスクエア(浅草)
出演:Orquesta Libre(オルケスタ・リブレ)<芳垣安洋(ドラム)、青木タイセイ(トロンボーン)、塩谷博之(クラリネット)、藤原大輔(テナー・サックス)、渡辺隆雄(トランペット)、ギデオン・ジュークス(チューバ)、高良久美子(ヴィブラフォン)、鈴木正人(ベース)、椎谷求(ギター)、岡部洋一(パーカッション)>、柳原陽一郎(歌)、神田京子(講談)、松角洋平(芝居)、構成:高瀬久男(文学座)