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朝日新聞の謝罪会見をどう見たか 英「エコノミスト」、「ガーディアン」

小林恭子ジャーナリスト

少々時間が過ぎたが、朝日新聞の「慰安婦報道を考える」という検証記事の後で、同紙の社長が謝罪会見を開くという前代未聞の動きがあったのは先月だった。

検証記事以降の動きを時系列に振り返ると、

ー8月末、ジャーナリスト池上彰氏が検証記事についての朝日の態度を批判する原稿を書き、朝日編集部が掲載を見合わせていたことが発覚した。

ー言論封殺とも受け取られかねないことで同紙の内外から批判が高まり、朝日は9月4日付で同氏のコラムを掲載した。

-11日には木村伊量社長が記者会見し、2011年の東日本大震災時の原発事故をめぐる同紙の報道(今年5月20日付)を取り消し、謝罪した。報道部門の最高責任者の職を解き、自分自身の進退についても近い将来「決断する」と述べた。

新聞社のトップが記事を取り消し、謝罪会見をするのは非常に珍しい。自分自身、同様のケースを思いつかない。

英メディアでもいくつか、報道されたが、2つだけ拾ってみる。

「エコノミスト」は

英ニュース週刊誌「エコノミスト」は「日本の新聞-捕まえたぞ」という見出しの記事(9月20日付)を掲載した。朝日新聞が慰安婦報道、任天堂報道(2012年の経済記事で任天堂社長の動画内での発言をまとめたものを、直接のインタビュー記事であるかのようにして掲載した)、福島の原発報道で記事の取り消しや謝罪を行ったことを説明し、ライバルとなるメディアが朝日の困惑を「あざ笑っている」と書いた。

同誌によると、今回のスキャンダルは「自己を維持することを重要視する日本の典型的な企業文化あるいは政府の階層型組織=ヒエラルキー=の振る舞い」に見えるという。懸念するのは、「他紙よりも大胆な報道を行ってきた」朝日新聞が「臆病になる」可能性だ。「現状から判断すれば」、慰安報道についての謝罪が行われるまでに長期間かかったのは、「元の記事に関与していた記者たちが組織の上部に出世したからだ」。つまり「結局、記者は役所の職員とそれほど変わらなかった」。

新聞社や役所ではなくても、組織に勤める人であれば、やや耳が痛い指摘であるかもしれない。

興味深いのは、グローバルエリートが読む雑誌「エコノミスト」が問題にしているのは「何故謝罪までにこれほどの時間がかかったのか」と言う点と、「今後の報道がどうなるか、ジャーナリズムの矛先が鈍るのではないか」と言う点だ。ジャーナリズムの面からも大きな問題としている。

「ガーディアン」は

左派系高級紙「ガーディアン」は12日付で同じ問題を取り上げた。

朝日の記事取り消しや謝罪に至った経緯を記事は淡々と記しているが、「慰安婦」については、そのままの直訳である「comfort women」という言葉を使わず、一貫して「性の奴隷(sex slaves)」と表現した。

「性の奴隷」という言葉には語感として、多くの日本人が少なからず衝撃を感じるのではないだろうか。しかし、英語圏の報道ではcomfort womenと同時に、sex slavesが平行してよく使われている。「慰安婦」というベールで包んだような表現ではなく、性行為を強いられていたという意味で「性の奴隷」という直接的な表現を好む。

朝日が慰安婦報道についての一部の記事を撤回したことで、「女性たちが前線の売春宿で強制的に働かされていたわけではないという歴史修正主義者たちを勇気付けた」、とガーディアンは書く。

最後には安倍首相のラジオでの発言を引用している。「一般的に言って、メディア報道は国の内外で大きな影響力を持ち、時として日本の名誉を汚すことがある」(英語から和訳)。

記事を書いた東京特派員は日本の右翼主義と見られる人からツイッター上で罵倒のつぶやきを受けたそうだ(フェイスブック上での発言)。

歴史の解釈問題はどこの国でも論争の種になる。慰安婦報道はこれからも日本の内外でさまざまな感情を引き起こしそうだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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