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高野智史六段(28)王座戦本戦進出決定! 三間飛車採用のレジェンド羽生善治九段(51)を破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月31日。東京・将棋会館において第70期王座戦二次予選決勝▲高野智史六段(28歳)-△羽生善治九段(51歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は20時20分に終局。結果は113手で高野六段の勝ちとなりました。

 高野六段はこれで挑戦者決定トーナメント(ベスト16)に進出しました。

 王座24期のレジェンド羽生九段。今期はここで敗退となりました。

終局後インタビュー

――(高野六段に)初の本戦入りということになりました。ご感想と意気込みをいただけますでしょうか。

高野「そうですね。初めての決勝トーナメントなので、うれしく思いますね。一つでも上を目指して、がんばっていきたいです」

――今日は今年度最後の対局ということでしたけども、今年度を振り返って来年度の抱負を簡単にいただけますでしょうか。

高野「そうですね、なかなか、現代将棋の移り変わりというか、自分自身ちょっと、対応し切れてないな、と思うことがけっこう多くあったので。来年度、なんというか、最先端の将棋っていうんですか。ついていきたいというか、そういうような将棋を指せていけたらいいかな、と思います」

――(羽生九段に)今年度最後の対局ということでしたが、今年度の振り返りと、来年度順位戦はB級1組で指されることになると思いますが、改めて来年度の抱負をいただけますでしょうか。

羽生「そうですね、まあやっぱり全般的に内容も結果もともなわなかったので、非常に反省点の多い一年だったかな、というふうに思いますね。まあでも、これを糧(かて)にして、次の新しい年度、迎えていけたらいいな、とも思ってます」

――順位戦は局数が多いクラスになると思うんですけど、そのあたり、いかがでしょう。(A級は全9局、B級1組は全12局)

羽生「そうですね。ちょっとどんな感じか全然まだ想像もつかないんですけど。まあでも、開幕までにコンディションを整えて、初戦を迎えられたらいいなと思います」

羽生九段の三間飛車、高野六段は着実に対応

 王座19連覇、通算24期という、恐ろしい実績を持つ羽生九段。1991年度から2020年度まではずっと本戦以上で戦ってきました。

 昨年2021年度は二次予選で佐々木七段に敗れ、記録も一段落。今期も二次予選からの登場となりました。前局では藤井猛九段との大熱戦を制しています。

 高野六段は一次予選で渡辺和史現五段、青野照市九段、野月浩貴八段、及川拓馬七段に勝って二次予選進出。さらに佐々木勇気七段に勝って、レジェンド羽生九段と対戦する機会を得ました。

 本局、まず羽生九段は三間飛車に振って、朝からファンや関係者を沸かせました。なんでも指しこなせる羽生九段ですが、振り飛車はそれほど多くはありません。

 対して高野六段は左美濃に組みます。さらに穴熊にスイッチしようとしたところで、羽生九段は石田流に組む姿勢を見せてけん制しました。

 高野六段も穴熊には組まず、駆け引きの末に駒がぶつかって、中盤戦に入りました。

 高野六段がと金を作り右辺を突破したのに対して、羽生九段は振り飛車らしく、軽く左辺に戦いの場を転じます。

羽生「本譜はけっこうと金が大きかったですかね」

 羽生九段が曲線的に複雑に指し進めるのに対して、高野六段は着実に応じ、リードを奪いました。

 高野六段は終盤になっても間違えません。108手目△6六金まで進められて局後の検討は終わりました。

羽生「これは一手足らないですね。(先手玉は)上が広いので最後(▲7三桂成△同銀▲6四角に△7七金▲同玉△8五桂で)王手はいっぱいかかりますけど(4四と2三に)と金もと金もいるんで」

 羽生九段は△6四同銀として自玉が詰まされる順を選び、▲8一飛を見て投了を告げました。

 羽生九段の今年度成績は14勝24敗。フルシーズン参戦36年目にして、初の負け越しとなりました。

 羽生九段は今期順位戦ではA級も降級。次期B級1組には参加せず、フリークラスに転出するのではないか、ともささやかれていました。しかし羽生九段は順位戦の参加を表明。いずれ復活を遂げる可能性は高いでしょう。

 高野六段はレジェンドを破り、王座戦初の本戦進出を決めました。

 高野六段の師匠である木村一基九段は、2008年王座戦五番勝負で羽生王座に挑戦し、敗退しています。木村九段は深浦康市九段との対話で、次のように語っていました。

木村「師匠踏みつけていくんだったら、他の人を踏みつけていってほしい」

深浦「ほんと、そう思うよね!」

中村太地七段「将棋界では師匠に勝つのが恩返しって言われてるんですよね。でも師匠側からすると全然・・・」

木村「とんでもない話!」

深浦「とんでもない」

木村「できればね、師匠をやっつけた人を、もう、とことんやっつけてほしい」

深浦「ほんとだねー」

(2020年1月1日、NHKラジオ「王手!最後のお願い」)

 高野六段は師匠が喜ぶ意味での「恩返し」を果たしたようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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