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マスクを着用していると、受験に影響が出るほど酸素飽和度低下や息苦しさが起こるのか? 科学的考察

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

受験生は感染対策を続けながら、試験と向き合っています。そのプレッシャーは計り知れないものです。さて、「マスクを着用していると酸素飽和度が低下する」「酸素が足りないと難しい問題が解けなくなる」という意見を目にしました。これは、医学的に正しいのでしょうか?

酸素飽和度は、指に挟むパルスオキシメーターという機器で簡単に測定することができます。色々な指標がありますが、90%を切ったら明確に酸素が足りていないということになります。

マスク着用は酸素飽和度を下げるのか?

コロナ禍の2年間、マスクに関する様々な研究が続けられています。まず、一般的なマスク着用が酸素飽和度を低下させるかどうか調べたカナダの研究があります(1)。酸素飽和度が低くなりやすい高齢者を対象に行われた研究で、マスク着用前、着用中、着用後の酸素飽和度をそれぞれ3回測定したもので、運動下ではなく、日常生活を送っている間に自己測定してもらいました。高齢者25人の検討によると、平均酸素飽和度はマスク着用前1時間の間で96.1%、着用中1時間の間で96.5%、着用後1時間の間で96.3%となり()、酸素飽和度が低下した被験者は1人もいませんでした

表. 日常生活におけるマスク着用の影響(参考資料1を元に筆者作成)
表. 日常生活におけるマスク着用の影響(参考資料1を元に筆者作成)

また、50人の成人ボランティアで検討した別の研究でも、マスクを着用しても安静時の酸素飽和度は全員低下しなかったとされています(2)。

運動時のマスク着用はどうか

国際的にマスク着用が推奨されていることから、外であっても何となくマスクを外しにくい風潮はありますが、とりわけ運動時のマスク着用は、私も不要と思います。

運動時にマスクを着用したとしても、酸素飽和度や肺の換気に悪影響はまず出ません(2-6)。ただ、主観的な息苦しさの強度はマスクを着用していると高くなることが、12人の健康ボランティアの研究から示されています()(4)。

図. マスク着用による息苦しさの強度(参考資料4より引用)
図. マスク着用による息苦しさの強度(参考資料4より引用)

不織布マスクよりも、FFP2マスク(N95マスク相当の欧州規格)のような密閉感が強いマスクでは、運動時の息苦しさが出やすいと報告されています(5)。

なお、ウレタンマスクや布マスクは不織布マスクよりも息苦しくなりやすいですし(6)、新型コロナの感染予防効果も低いことからおすすめしません。残念ながら、いまだにウレタンマスクや布マスクを着用している人が少なくありません

酸素飽和度が正常でも息切れを感じることがある

たくさんの患者さんとお話しする外来では、私も夕方になってくるとマスク着用がやや息苦しく感じることがあります。マスク内部のモワっとした熱感(温度と湿度の上昇)が、息苦しさと直結しているとする研究はいくつかあります(7,8)。

たとえば、気温32.3度、湿度54.4%という条件下で、12人の被験者に複数のマスクを着用してもらい、体温やマスク内の湿度の変化などを観察した研究によると、どのマスクを使用しても心拍数や体温の上昇はありませんでしたが、マスク内の湿度が上昇することで息苦しさが出現したとされています(7)。

呼吸器疾患の患者さんを診ていると、酸素飽和度の低下がないのに、マスク着用によって安静時でさえ息苦しさを感じる人もいらっしゃいます。酸素飽和度の低下がないから息苦しくないというのは真ではなく、その人が主観的に感じていることが全てなんだろうと思います。

特に受験時は、緊張のあまり呼吸が速くなり、息苦しさを感じやすくなるかもしれません。マスクが濡れて温度や湿度が上がりやすくなると困るので、予備のマスクを持参することが重要です。

まとめ

文部科学省によると、受験時は「試験場内におけるマスクの着用を義務付けること」と通達されています(9)。これまでの学校生活・塾生活でマスクを着用しながら勉強してきたわけですから、これが大きな問題になるとは思いません。

日常生活を送る上では、マスクを着用しても酸素飽和度の低下は起こらないことが分かっています。ただ、息苦しさという主観は個人差が大きいことから、受験時の緊張も相まって息苦しさを感じる受験生はいるかもしれません。

(参考)

(1) Chan NC, et al. JAMA. 2020 Dec 8;324(22):2323-2324.

(2) Shein SL, et al. PLoS One. 2021 Feb 24;16(2):e0247414.

(3) Shaw K, et al. Int J Environ Res Public Health. 2020 Nov 3;17(21):8110.

(4) Mapelli M, et al. Eur Respir J. 2021 Sep 16;58(3):2004473.

(5) Nwosu A, et al. Pan Afr Med J. 2021 Jul 16;39:203.

(6) Driver S, et al. Br J Sports Med. 2022 Jan;56(2):107-113.

(7) Yoshihara A, et al. Sports Health. Sep-Oct 2021;13(5):463-470.

(8) Poon ET, et al. Front Physiol. 2021 Nov 26;12:775750.

(9) 令和4年度大学入学者選抜に係る新型コロナウイルス感染症に対応した 試験実施のガイドラインの一部再改訂について(通知)(URL:https://www.mext.go.jp/content/211228_mxt_daigakuc02_000005144-1.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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