皇后雅子さまお誕生日のご感想 皇室で過ごされた半生を振り返る、心の現在地とは?
12月9日、皇后雅子さまが、50代最後のお誕生日を迎えてご感想を発表された。
そこには、普段、知ることのできないご心境が綴られており、私たち国民は、毎年お誕生日の文書発表によって、雅子さまの心の内を感じ取ることができる。そういった点で、こうしたご発表は間接的ではあるが、雅子さまの心に触れられるとても貴重なものだ。
今年、雅子さまが綴られたご感想は、A4文書にして2ページと以前より短いものの、雅子さまが何を大切に思われているのか、非常に端的に書かれていたように思う。そして行間には、善なる世界を求めようとする雅子さまの理想が、強くにじみ出ていたのではないだろうか。
◆「世界」と対峙し心を砕く雅子さま
まず印象に残ったのは、「世界」という文言だ。雅子さまの文書の中に「世界」が8回も登場する。先述したようにA4で2ページ、約1,700字の中で8回というのは、かなり多いと言えよう。
冒頭でコロナ禍が続く現実に触れつつ、「世界各地での自然災害」「世界各地での戦争」「平和な世界」、そして再び「世界各地」と続き、「持続可能な世界」を「世界の人々が知恵を出し合い」と協力していこうとまとめられている。
つまり日本だけにとどまらず、世界を大きく俯瞰する視座から、解決が急務の問題に心を痛められているのだ。
かつて雅子さまには、外交官として世界に寄与する活躍をしたいという夢があった。
その原点とも言うべき世界への言及は、今再び若かりし頃の理想に立ち返って、わずかでも問題解決のために、広く世の中に貢献したいというお気持ちを強くされているように感じられる。
宮内庁が公開した近影では、雅子さまは白いスーツをお召しになっていたが、まさにそれは初心に立ち返って、真っ白な気持ちで事に当たりたいとするメッセージのような気がするのだ。
◆SDGsの推進&取り組みを意識
文書の中で印象に残ったのは、
「今後、持続可能な世界を築いていくためには、世界の人々が知恵を出し合い、共に手を取り合って、協力していくことが急務であると感じます」
と強調された部分だ。
読み取れるキーワードは、“持続可能な世界”。国連が掲げる17の目標であるSDGsを意識され、趨勢を見守られていることが伺える。
それは、70年の長きにわたって君臨したエリザベス女王の国葬に参列し、雅子さまが肌で感じられたことでもあるのだろうと拝察する。
国葬が行われたウエストミンスター寺院で、両陛下は世界の王族や元首らとともに、女王との最後の別れを惜しまれた。その時、ご覧になった眺めは、国境や宗教などの壁を越えて各国の要人が一堂に会し、皆で女王を追悼する姿だったことだろう。
世界の人びとが協力し合うことの大切さを、胸に刻まれた瞬間だったと想像できる。世界を俯瞰する視座は、もしかしてこの時、雅子さまに大いなるインスピレーションを与えたのかもしれない。世界の国々と言葉を尽くし、誠意をこめて親密な関係を築くことこそが、紛争を止める力へと繋がり、大きな災害の時は手を取り合って協力することができる。
雅子さまの思いは、ロンドンでのご経験によって、夢想ではなく手ごたえのある確信へと変わられたのではないだろうか。
◆皇室での日々を振り返るのはご体調の改善の証か
そして、雅子さまの現在のご心境を感じるのが、以下の文章だ。
「私が、当時の皇太子殿下との結婚により皇室に入りましたのが平成5年6月9日、ちょうど29歳半の時でした。本日の誕生日で、その時からちょうど29年半になります。いつの間にか人生のちょうど半分ほどを皇室で過ごしてきたことに、感慨を覚えております」
雅子さまの道のりを振り返ると、今年のお誕生日でちょうど半分を、皇太子妃・皇后陛下として公務に取り組んでこられたことになる。
積み重ねてこられた歳月は、少なからぬ葛藤を雅子さまにもたらし、それがご体調を不安定にさせてきたのも事実だ。しかし、30年に近い皇室での半生を、冷静に見詰めていらっしゃることが、筆者には嬉しい驚きであった。
医師団は、皇后さまのご体調について、「御快復の途上にあり、依然として御体調には波がおありです」と見解を発表したが、自らの日々を振り返る雅子さまのお心は、とても前向きになられているように思えてならない。
ご決意がにじみでる文面に、天皇陛下とのこれからの長い旅路に歩みを進められる、雅子さまの力強ささえ感じられたのである。