1軍へ!そして勝利の方程式入りへ!小林慶祐(阪神タイガース)は今年も安芸(ファーム)から這い上がる
■2022年の安芸キャンプ
今年の安芸は寒い。全国的に厳冬なのだから、当然といえば当然だが…。
太平洋を望む高知県の安芸市は温暖な地で、阪神タイガースのファームが春季キャンプを張るこの時期は、例年ならばサブグラウンド脇の桜が花びらを開いて出迎えてくれる。しかし今年はまだ蕾は固く閉じたままだ。さらに雨でも降ろうものなら、足先からじんじんと凍てつくように冷えてくる。
■気迫満点、小林慶祐投手のブルペン
そんな中、ブルペンで白い息を吐きながら、湯気が立ち上るような熱いピッチングを見せているのが小林慶祐投手だ。投げ終わりにぴょんと飛び跳ねるような迫力満点の投球には、平田勝男ファーム監督も「二保(旭)とともにブルペンを引っ張ってくれてるよ」と目を細める。
2020年のシーズン中にオリックス・バファローズからトレード移籍した小林投手は、昨年は開幕ベンチ入りを果たした。9試合連続無失点と好投を続け、甲子園球場でお立ち台にも上がった。そのまま勝ちパターンでの登板が期待されたが、6月5日の福岡ソフトバンクホークス戦でゴロを処理する際に左足首を痛めて戦線離脱した。シーズン終盤に1軍復帰したが、最終的に22試合の登板に終わった。
あの故障さえなければ…。小林投手にとっても、チームにとっても非常に痛かった。
そんな小林投手は昨年のキャンプも安芸組だった。一昨年の秋からストレートの質を上げることをテーマに取り組み、昨春キャンプの練習試合でもその威力あるストレートを武器に、気迫あふれるピッチングを披露。先発で結果を残し(埼玉西武ライオンズ戦《春野》で4回を無失点、最速151キロ)、1軍に合流後のオープン戦でも中継ぎでアピールを続けて、開幕ロースターを勝ち取った。
今年も同じく安芸スタートで、13日のライオンズ戦(春野)では昨年の“吉兆”をなぞるかのように先発が予定されていた。しかし残念なことに雨で中止になり、その日はブルペンで93球の熱投を見せた。
ブルペンでも常に実戦を想定している。1球1球、右左どちらのバッターのどのコースにどんな軌道か、キャッチャーに明確に伝えてから投げる。高低、内外、奥行き…イメージは詳細で鮮明だ。練習のための練習ではない。
安芸にいるキャッチャーはみな年下だが、相手が誰であっても丁寧に声をかけ、終わったら優しく「ありがとう」と告げる。高校生ルーキーの中川勇斗捕手とコンビを組むこともあるが、捕球ミスがあっても苛立つこともなく、表情はずっと穏やかだ。
それでいて投球は猛々しいのだから、そのギャップにこちらも目が釘づけになる。
■明確に実戦を想定
13日の練習後、小林投手はこう話し始めた。
「今日、試合(で先発する予定)だったんで、最後バッターに立ってもらって、何人か想定して投げられた。試合で投げられなかったのはちょっとアレですけど…、いい練習はできたかな」。
首を傾げるシーンも見られたが、「首、傾げてましたか?」と無意識だったようで、「自分ではあんま意識してないけど、うまくいかなかったときにやってるんじゃないかな。試合は結果だけど、ブルペンの投球は理想に近づけていかないと。今日もうまくいかないところがいろいろあったんで」。
ときに「今のはホームラン!」と自ら判定してガックリとうなだれることもあった。「自分の中でやっちゃいけない失投ってのがあるので、それの代表的な失投だったんでホームランっていうことで、はい…」というのも、しっかりとイメージができているからこそである。
「失投の仕方っていうのが、ちょっと今日は悪かった。そのへんはもうちょい練習していかないと、試合で困ったときに自分で首を絞める。そこはちょっと今日は納得いかなかった」。
どこまでも己に厳しい。
■新球・パワーカーブをモノにできるか
現状に満足せず、常に進化を目指している。現在、新しいカーブにトライしているという。カーブといってもさまざまなタイプがある。
「僕、人よりも高い位置から投げるんで、もっと大きなカーブというか目線を上げられたらなと。(持ち球より)もうちょい速いのが欲しいかな。抜くようなカーブっていうよりかは、速いカーブ。パワーカーブ?まぁカッコよく言えばそうですね(笑)。理想はそういう感じのですけど、まだまだ足りない」。
タイガースでパワーカーブといえば、2019年に在籍したピアース・ジョンソン投手が想起されるが、PJのようなカーブだとしたら強い味方になる。速いストレートにスライダー、フォーク、ツーシーム、さらにパワーカーブがあれば、ロベルト・スアレス投手が抜けたクローザー職も担えるのではないだろうか。
「ちょっとまだ試合じゃ使えないかな。シート打撃でも投げたけど、打たれてるんで。今はまだ遊び感覚でやってるけど、もっともっと練習していこうかなと思っています」。
“誰のどういうカーブ”という具体的な指標はないそうだが、「いろいろな人に聞きながら、映像を見ながら、自分に合った感じを探しています」と、まだまだ模索中である。完成すれば強力な武器となる。
もちろん昨年同様、もっとも大事にしたいのはストレートであるのは間違いない。
「それは変わらずですね。まっすぐの質を高めてから、ですね」。
今年もキレ、スピードともに磨きがかかっている。
■ゼロからのスタート
昨年は安芸キャンプから1軍に駆け上がっていったが、「去年のよかったときは、たまたまかなっていう感じで僕は思っている」と、決して慢心はない。
「若手と一緒にゼロからのスタートっていう気持ちで。去年の結果は去年なんで、今年は今年」。
そう言って表情を引き締めた。
「今年は今年」―。
1軍枠を懸けた戦いはもう始まっている。ここからチャンスを掴むために、小林投手は昨年以上の内容と結果を見せていく。
(撮影はすべて筆者)