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新型コロナの変異種発見で、原油相場は急反落

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

原油相場が急反落している。NY原油先物相場は、12月18日の1バレル=49.24ドルに対して、週明け22日のアジア時間には一時47.30ドルまで、数時間で最大で1.94ドル(3.9%)安の急落地合になっている。

(画像出所)CME

原油相場は11月2日の33.64ドルをボトムに、週足だと過去7週間にわたって上昇が続いていた。新型コロナウイルスのワクチン開発が実現したことで、原油需要環境の正常化期待を織り込む形で2月26日以来となる約10カ月ぶりの高値を更新していた。しかし、イギリスで感染力が従来のものよりも最大で7割高いとみられる新型コロナウイルスの変異種が広がっているとの報告を受けて、原油需要の回復期待が後退していることが、改めて原油相場を大きく下押ししている。

変異種への対応で、イングランド南東部でロックダウン(都市封鎖)が再導入されていること、各国がイギリスとの往来を制限する動きを見せていることが警戒されている。変異種はイタリアや南アフリカなどでも報告されており、未だ詳細は不明ながらも、原油市場の警戒感は強くなっている。本当に需要環境の正常化プロセスが早期に実現するのか、再検証が必要との慎重な見方が浮上している。

11月以降の原油相場を振り返ると、ワクチンの開発に成功し、接種が始まる中、需要環境の正常化期待が著しく高まっていた。足元では欧米を中心にパンデミックが報告され、短期需要環境の悪化を報告する声が強くなっても、原油市場は殆ど無視する展開が続いていた。

石油輸出国機構(OPEC)や国際エネルギー機関(IEA)は、11月に続いて12月の月報でも世界石油需要見通しの引き下げに踏み切り、特に来年上期の需要は従来の想定を大きく下回る可能性が高まっていた。IEAは更に、ワクチンが実際の石油需要環境に影響を及ぼすには数カ月が必要との慎重な見通しも示していたが、原油市場では短期の需給緩和圧力に関してはほぼ無視する形で高騰相場を続けてきた。強気材料は小さいものでも拾われる一方、弱気材料は大きなものでも無視されていた。

このため、数カ月先の需要環境改善を先取りする動きに対しては過熱感も強くなっていたが、1)50ドルの節目に近づき目標達成感が広がり、2)クリスマス・年末に向けて投機筋の持ち高調整のニーズが高まるタイミングにあって、3)変異種の報告が行われていることが、投機筋に対して持ち高調整を促している模様だ。

現状では過熱していた高騰相場の反動に伴う調整安との評価に留まるが、足元のパンデミックによる需要環境の悪化が再評価されると、年末に向けて一段安の可能性も想定される。特にクリスマス、年末・年始に飛行機を使った移動が抑制されると、ジェット燃料需要の落ち込みが強く警戒されることになる。各国の行動規制によるガソリンやディーゼルの需要低迷リスクも高まっている。これまで原油市場が無視し続けてきた足元のパンデミックによる需要ショック拡大が、変異種の報告によって再注目されるのかが問われている。ただ、原油相場が一時マイナス価格化した春先と大きく異なるのは、世界最大の原油輸入国である中国が感染被害を抑制し続け、急激な経済成長を遂げていることである。従来の40ドル前後の価格水準に回帰する動きの有無が問われる地合に留まろう。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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