3.16 WBOフライ級タイトルマッチ、挑戦者・田口良一を見逃すな!
前WBA/IBFライトフライ級チャンピオンの田口が、WBOフライ級王者である田中恒成に挑むことが正式に発表された。3月16日(土)、岐阜メモリアルセンターにて2人は拳を交える。田中の戦績は12戦全勝7KO、一方の田口は、27勝(12KO)3敗2引き分け。
ご存知のように、両者は2017年の大晦日に田口の持つWBAライトフライ級タイトルと、田中が巻いていたWBO同級のベルトを懸けた統一戦で戦う筈であった。が、田中の怪我によって一旦はキャンセルされた。
1年数カ月の間に田中は1階級上の世界チャンプに、田口は挑戦者となり、雌雄を決することとなった。
田口良一は語る。
「僕の方が不利だ、と話す人が多いでしょう。でも、そういう試合で勝ったら、得るモノも大きいです」
田中恒成戦に向け、田口を指導中の梅津宏治トレーナー(元日本フェザー級王者)は言う。
「復帰を決めてからの田口は、体の軸を意識するトレーニングを積んで来ました。"5ポイント理論"というのがあります。人間の身体には、首の付け根、鳩尾、股関節、膝、足裏と点が5箇所あって、そのうち3つが揃うと軸がきちんと出来るんです。田口は軸が崩れてしまう悪い癖があるんですね。まずは、そこを矯正することに着手しました。軸を形成できれば、重心が安定します。
それに加えて、打ち終わった後のバランス。パンチを打った後に、直ぐに引くことも課題にしています。かなり修正されて来ましたよ。田中選手は強いです。2日に1回くらいは、僕も田中の映像を見て研究しています」
梅津トレーナーは躰の使い方や筋肉の動き等、非常に細かい説明をしながら指導する。理工学部出身であることを常々感じさせる理論派だ。その教えが、今日の田口には合っているように見える。
「前にもお話ししましたが、田口は基礎が崩れていました。それを闘志と運動量でカバーしていたんです。今、もう一度、基礎から徹底して作り直して新たな田口良一を創っているところです。元々、強い選手ですから、現在やっていることを身に付ければ、更にレベルアップできますよ」
田口はこのクラスにしては身長が高く、長いリーチを持つが、離れて戦うことを好まない。必ず接近戦を挑み“打ち合って倒す”あるいは“打ち勝つ”ファイトでここまで昇って来た男だ。
梅津は続ける。
「ちょっと修正を促せば直ぐに治って来ましたから、田口の良さを出して勝たせたいですね。ヘッキー・ブドラー戦は前半に中途半端な距離を取ってポイントを失ってしまいました。あの試合の田口は体調が悪く、最初の4ラウンドでボコボコやられたのに、その後巻き返しましたよね。それこそが、田口の真骨頂です。ハートが強いんです」
田口にとって今回のWBOタイトル挑戦は、5月20日にWBA/IBFライトフライ級と2本のベルトを失って以来のファイトとなる。同WBAタイトルは、大晦日にジムの後輩、京口紘人が奪取した。田口は後輩にチャンスを譲ったのだ。自分の手で借りを返したい思いも少なからずあったであろう。
しかし、田口は話した。
「試合が決まった時点で、京口がブドラーに勝つだろうと思っていました。僕が今更何を言ったところで、言い訳にしかならないです。もう、目の前の試合のことしか頭にありませんよ」
こうした真っ直ぐな気持ちが、田口の魅力だ。
32歳の挑戦者と23歳の王者の対決を、年齢で批評する人もいる。そこで私は、44勝2敗だった32歳のモハメド・アリが、40戦全勝37KOという戦績を誇った25歳のジョージ・フォアマンを下したファイトを例に挙げた。圧倒的不利が囁かれる中、アリがフォアマンをKOした「ランブル・イン・ザ・ジャングル」である。
私の言葉を聞いた梅津は言った。
「井上尚弥じゃリベンジは難しいだろうけど、田中恒成になら、前評判を思い切り覆してやろうぜ!」
田口は小さく微笑んだ。
田口良一の魂のファイトに期待したい。