「いだてん」に堂々と出る企業名「朝日新聞」。特定企業名を使っていいのかNHKに聞いてみた。
'''日本ではじめてオリンピックに出た男・金栗四三(中村勘九郎)とオリンピックを東京に呼んだ男・田畑政治(阿部サダヲ)を主人公に、明治、大正、昭和とオリンピックの歴史とそれに関わった人々を描く群像劇。第二部・田畑編。
25回から第二部に入ったが、一部と完全に切り分けているわけではなく、一部の主人公の四三もまだ登場し、明治大正を今一度振り返って、ここからいよいよ、まさに「替り目」という印象だ。
7月14日の放送後、21日は選挙のため放送休止、一週間空けての28回放送の前に27回を振り返る。
併せて、「いだてん」第二部の主人公・田畑は朝日新聞社社員。「朝日新聞」という企業名は公共放送で使用可能なのかという疑問を抱く視聴者もいる。それについてNHKに聞いてみたことも
記すのでご覧ください。'''
あらすじ 27回「替り目」(演出:大根 仁)
関東大震災から7年、帝都復興祭が行われた昭和5年、東京市長・永田秀次郎(イッセー尾形)は、このままで終わりにしてはならない、10年後にも何か行おうと思ったところ、秘書・清水照男(小村裕次郎)にオリンピックはどうかと勧められ、その気になる。紀元2600年の年、昭和15年はちょうど4年に一度のオリンピックの年だった。
その頃、田畑が熱望して建設をはじめた神宮プールが完成、田畑はこけら落としの大会で日本新記録をとった高校生・前畑秀子(上白石萌歌)に注目する。さらに故郷・浜松で宮崎康二(西山潤)を発掘、最強の選手たちを伴って日米対抗戦を行うために、スポンサー探し、ラジオでの宣伝などに全力を注いでいるうちに、田畑は32歳になっていた。30歳で死ぬというマリー(薬師丸ひろ子)の占いをとっくに通り越してしまったのだ。
「生命線をのばしてやった」田畑
アムステルダムオリンピックで金銀銅のメダルを獲得した日本。次の目標はロサンゼルスオリンピック。松澤(皆川猿時)を監督、田畑は総監督、助監督に若くして現役引退した野田(三浦貴大)というスタッフ編成で、日本水泳の強化を目指す。名付けて「メダルガバガバ大作戦」。これは二部がはじまる前に放送された特番のタイトルと同じ。このセリフからとったことがわかった。
田畑は岸(岩松了)に「これからは興行、見世物です、生のレースを国民に見せるんです」とまたしてもメフィストフェレスみたいに迫ると、「スポーツマンには珍しく腹黒いね」という岸もまんざらではなく、アメリカと試合するためのプールを建設し、出来上がった神宮プールでは前畑秀子と出会い、なんだかトントン拍子。水泳のために目まぐるしく働いている間に「生命線をのばしてやった」と鼻息を荒くする。運命を乗り越えた田畑はこれまでと違う生き方をはじめる。体が弱いので結婚しないと思っていたが結婚する気にまでなったりして…。とにかく絶好調だ。
勘九郎、獅童の名演
一方、金栗四三は38歳。現役を引退したもののまだ走っていて後進の育成を考えていた。が、9歳になった四三の息子・池部正明を連れて訊ねて来た四三の兄・実次(中村獅童)にそろそろ熊本に帰ってこいと言われ、悩む。正明を演じているのは、四三の子供時代を、演技初体験ながら好演し、ストックホルムにも行った久野倫太郎だ。
歌舞伎での共演も多い勘九郎と獅童ふたりの場面は一部からずっと、ほんとうに息が合っていて世話物の風情がじんわり。浅草でふたりが語り合う場面が良すぎるからこそ、その後の展開のショックがあまりにも大きい。
26回では田畑の兄が急逝したが、27回では四三が「アニ キトク」と電報をもらって熊本へ。なんと実次が急逝していた。
喧嘩するほど仲がよい感じだった池部幾江(大竹しのぶ)の嘆く様も胸に迫るものがあった。
最後まで自由にさせてくれていた兄の死に、ようやく潮時を感じた四三は熊本に帰る決意をする。
田畑と金栗の出会い
子供の頃に体が弱かったこと、兄が亡くなること、オリンピックに魅入られること、嘉納治五郎に抱っこされたり投げられたりすること……四三と田畑はなんとなく境遇が似ている。
そんなふたりがはじめてちゃんと向き合い、会話する。韋駄天VS 河童はいまでいったらゴジラ対エヴァンゲリオンみたいな感じか。
熊本に帰る挨拶を嘉納治五郎(役所広司)にしに来た金栗は、実次が最後に嘉納に会いに来たことを知って涙する。このとき、鼻水を垂らすのが、昔、四三がはじめて東京に行くとき、実次が鼻水たらして送る顔と重なって見える。兄弟の似姿、このへんがまた世話物感を高め、ぐっと来た。
田畑にオリンピックの一番の思い出は何かと訊かれ、四三は紅茶と甘いお菓子がおいしかった(ストックホルムで道を間違え倒れたとき助けられたときに口にしたもの)と答え、田畑を落胆させる。
そうはいっても、やはり「元祖はえらい」。はじめてオリンピックで戦ったという点においては「オレは認めている」、「ていしたもんだ」、「金栗さんだけは認める」とひとりでぶつぶつ言っているところを、金栗は涙を浮かべて聞いていた。
田畑の語りと、後に高座で「オリムピック噺」を語る志ん生とが、交互に出てきて、「いだてん」とは、志ん生が語る「東京オリムピック噺」という落語なのだ、ということがわかるようになっていた。これは、落語の語りに合わせて、複数の俳優たちが演じるという“当て振り”でわかりやすく見せた、NHKの秀作「超入門!落語THE MOVIE」の手法に近いだろう。
なんで「朝日新聞」だけ…実名と実名じゃないその違いは
志ん生の語る「東京オリムピック噺」は創作である。でも志ん生は実在した落語家だ。このように「いだてん」には虚実が入り混じっていて、二部では実在の会社・朝日新聞が出てきた。田畑の就職した企業であり、田畑の主導でロサンゼルスオリンピックのスポンサーになる。また、トータス松本が演じるラジオのアナウンサーもNHKのNHKスポーツアナウンサー・河西三省だから、27回のラジオ番組はNHKの番組であろう。
公共放送であるNHKは、特定の企業名や商品名を出さないことがルール。トーク番組でうっかり企業名や商品名をゲストが言ってしまいそうになって慌てる、みたいなこともよく見かける。「いだてん」では朝日新聞はそのままだが、ライバル紙・東京日日新聞(毎日新聞)は「日日新報」に変わっていた(25回)。実在の人名、企業名を出す、伏せる、その基準を教えてほしいと広報を通して聞いてみると、このような回答が返ってきた。
「ドラマ『いだてん』は、日本のオリンピックの歩みについて、史実をもとにしたフィクションです。日本のオリンピックの歴史を描くために放送では、一部、企業名や団体名なども使っておりますが、必要な範囲に限定しています」
登場人物も、金栗や田畑や人見絹枝や高橋是清のような実在の人物ままの人もいれば、シマのような完全に架空の人物、村田富江などモデルは想定できるが架空の人物もいる「いだてん」。全部が全部、実名を伏せるわけではないが、なんでもかんでも実名を使用するわけでもない。そこがあくまでも“フィクション”を作る側のさじ加減なのであろう。
ちなみに、東京市長秘書・清水は、人名や時代など、「いだてん」のテロップのデザインフォーマットを制作するアートディレクター清水尚樹(easeback)の大叔父という縁があったそうで、本人がTweetしていて、現代と地続きであることを感じさせた。
さて。一週休んでの28回は、夢のオリンピックに暗雲が漂いはじめ……。
第二部 第二十八回「走れ大地を」 演出:桑野智宏
7月28日(日)放送
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』
NHK 総合 日曜よる8時〜
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁ほか
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか 麻生久美子 桐谷健太/森山未來 神木隆之介/
薬師丸ひろ子 役所広司 ほか
「いだてん」各話レビューは、講談社ミモレエンタメ番長揃い踏み「それ、気になってた!」で連載していましたが、
編集方針の変更により「いだてん」第一部の記事で終了となったため、こちらで第二部を継続してお届けします。