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稲葉陽八段(33)貫禄の完勝! 竜王戦本戦、伊藤匠五段(19)の快進撃を止める

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月15日。大阪・関西将棋会館において第35期竜王戦決勝トーナメント▲伊藤匠五段(6組優勝、19歳)-△稲葉陽八段(1組5位、33歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時9分に終局。結果は110手で稲葉八段の勝ちとなりました。

 稲葉八段は7月19日、山崎隆之八段(1組4位、41歳)と対戦します。

稲葉「(次局まで)日は短いので、また新たに準備してというか。全然タイプが違うので、また新たに準備してという形にはなりますかね。昨年ちょっと竜王戦(1組3位決定戦)で負かされたので、そういう意味ではリベンジという形になりますかね」

 伊藤五段の公式戦連勝は13でストップしました。

稲葉八段、研究を実らせリード

 稲葉八段は本戦進出6回目。今期は1組5位決定戦を勝ち上がってきました。

 伊藤五段は今期、6組で優勝。さらには初進出の本戦でも2勝の快進撃です。

 伊藤五段にとってこの先は、いわゆる「1組の壁」へのチャレンジ。1組の5位(稲葉八段)、4位(山崎八段)、1位(永瀬拓矢王座)という分厚い壁を抜ければようやく、挑戦者決定戦に進めます。

 本局は振り駒の結果、先手は伊藤五段に決まりました。戦型は角換わり腰掛銀。稲葉八段はほとんど時間を使わず指し進め、後手番ながら先攻します。

稲葉「一応、ノータイムで指している間は、研究通りではあったんですけど。ただまあ、それでいいとかいう感じではないかな、と思ったんで。そのあたり、難しいというふうになるかな、と思ったので。時間を残してという感じではありました」

 稲葉八段は飛車を前線に進めて不退転の攻め。対して伊藤五段は攻防の要所に馬(成角)を作って応戦しました。

 49手目。伊藤五段は相手の飛車を取るか、それとも当たりになっている馬を相手陣に入るかの選択を迫られます。

伊藤「(48手目)△6五銀と銀を取られた図で、そこで当初▲8三馬とする予定だったんですけど、それがちょっと成算が持てなくて。そのあたりでバランスを取る順を見つけられなかったです」

 熟慮の末、伊藤五段は飛車を取る順を選びます。竜王戦本戦の持ち時間は各5時間。49手目の段階で消費時間は伊藤3時間48分、稲葉1分と大きく差がつきました。

 51手目。伊藤五段は手にした飛車を相手陣二段目に打ち、王手をかけます。そこで稲葉八段は手を止めて考えました。

稲葉「あそこで想定がはずれて考え始めたという感じなんですけど。少し指せててほしいかな、ぐらいではあったんですけど。ちょっと、形勢はよくわかってはいなかったんですけど。先手は少しまとめづらいかもしれないかな、と思ってました」

 稲葉八段は持ち駒の銀を自陣に投入して王手を受け、相手の飛車を押し戻します。形勢の針は稲葉八段よしへと傾いていきました。

伊藤「本譜の(51手目)▲8二飛車はかなりわるい手だったと思うので。本譜は飛車を取ったものの、飛車が2枚とも、なんというか自陣に。攻めに使えない展開になってしまったので、かなりまずいのかなと思っていました」

 69手目、伊藤五段は居玉を動かして相手の攻めに備えます。そこで夕食休憩に。形勢も時間も苦しい伊藤五段。休憩中も早めに盤の前に戻って考え続けました。

稲葉「夕食休憩前後で、少し先手が粘りにきてる手順かなという気がしたので。どれほどいいのかわからなかったですけど、少しはいいかなと思ってました」

 連勝中の勢いある若手らしく、伊藤五段はあきらめずに勝負の順を探ります。しかし稲葉八段は沈着冷静。優位を広げ、勝勢を築きました。

 最後、伊藤五段は稲葉玉に迫って形を作ります。稲葉八段が伊藤玉を詰ませて、終局となりました。

伊藤「こういう大きい舞台(竜王戦本戦)で3局将棋を指せたことは、いい経験になったかなと思います。来期また、まずは(5組)ランキング戦からですけど、一局一局、丁寧に戦っていきたいと思います」

 今期竜王戦七番勝負では、藤井聡太竜王と伊藤匠五段の同世代対決は実現しませんでした。しかし今期NHK杯2回戦において、両者による初の公式戦対局がおこなわれます。こちらも楽しみです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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