近畿大「深夜アニメ20本視聴」講義の実況中継ルポ~想像の斜め上を行くガチ中のガチだった!
「アニメ週20本視聴」シラバスがねとらぼなどで話題に
4月、ねとらぼで近畿大文芸学部の講義が話題になりました。
近畿大学で「週20本以上のアニメ視聴」を前提とした授業が実施中 ハードル高いと話題に
その後、BuzzFeedさんも追撃記事を掲載。
こちらは担当の町口先生へのインタビュー。
その次となる、本稿ではインタビューだけではありません。
どうせなら、ということで、講義に参加。
どの程度、ガチでハードルが高いのか、それとも、アニメを見るだけで終わる「バカ大学」化の現れなのか、見学をしてきました。
なお、取材前に町口先生のTwitterを拝見すると、
なるほど。
オタク的な知識という点では、
などなど。
ここ、最近だと、『ガールズ&パンツァー』に、はまっています。
オタク知識はそれなりにあるような、ないような…。
教室に到着するとアニメ画面が広がる
教室に到着したのが講義開始5分前ほど。
到着すると、「コードギアス 反逆のルルーシュ R2」の映像が教室中に流れていました。
これは壮観!
なお、この時点で、このアニメが「コードギアス」であることをこの石渡、分かっていません。
私のアニメ関連の知識について、ざっとお話しすると、
町口「あー、ずいぶん偏っていますねえ」
はい、否定はしません。
開始1分でついていけない取材者と広報部職員2人
はい、この時点ですでに、私、ならびにアテンドをしてくれた近畿大広報部職員のお二人は何が何だかわかっていません。
という前提を町口先生も最初から、わかってくれていたのか、講義後のインタビューで、昨年の講義レジュメ14回分を資料として渡してくれました。
本稿では以降、この資料も合わせてまとめていますが、この石渡、半分くらいしかついていけなかったことを先に告白する次第です。
なお、「セカイ系」とは、
とのことです。ほほう。
これは意外でしたが、言われてみればその通りかも。
付いていけなくてどうしよう、と思いましたが、私も90年代に学生(2016年現在、41歳…)なので、話はわかります。
これも同時代だったので、なんとなくわかります。
生き残るにはどうするか。
私で言えば、2001年に当時所属の派遣会社を退職(まあ、仕事がなくなった、と)。
2002年に編集プロダクションに転職。
アルバイト採用から一瞬だけ(4か月のみ)、正規雇用になって、これで人並みの生活が送れる、と思いきや、年明けの2003年にクビ。
それで、仕方なくフリーランスになって、現在に至る、と。
引きこもれるものなら引きこもっていたいですが、それだとお金にならないのですよねえ…。
「世界内戦系」あたりから学生、死す
ここで第一次世界大戦後のドイツ史が出るのは全くの想定外。
このあたりは、歴史ファン(または歴史オタ)の石渡は、よくわかります。
が、この歴史がアニメの世界観形成につながることはちょっと考えてもいませんでした。
このあたりで、教室を後ろから見ていると、受講者約40人のうち、付いていっている学生は6割くらい。後ろの方では、爆睡しだす学生が5人から10人ほど。
町口先生も、途中で「質問のある人?」と聞くが誰も挙げません。
というわけで30分ほど、同作品を学生全員が視聴。
講義開始前にも感じたことですが、教室中にアニメ作品が広がる、というのは、なかなか壮観です。
まして、教室を暗くしているのでなおさら。
このあたりで、取材対応をしてくれた広報部職員2人のうち1人が離脱。
別に逃げたわけでなく、もともと途中で出る、という予定だったのですが、ほっとした顔を見せていたのは気のせいでしょうか。
なお、残った(あるいは、残された)もう1人にあとで聞くと、
「僕ずっと野球部だったのでアニメ、ほとんど見ていないです。全然付いていけませんでした」
とのこと。
話をストーリー解説に戻すと、作家志望の学生に聞かせたいなあ、と思いました。
善人ばかりが登場する、というのも、ストーリー作りの一つではあります。
でも、起伏のない、平板な作品など面白くもなく、誰も相手にしません。
アニメにしろ、文芸にしろ、作品を作るうえでこうした批評がきわめて有効、と強く感じました。
教室の外が騒がしくなる
「コードギアス」のあとは「機動戦士ガンダム00」を視聴し、その後、解説。
このあたり、えいやと飛ばします。
別に寝ていたわけでなく、教室の外から観察するなど、出たり入ったりだったなので。
この教室、文芸学部のある教室棟ではなく、建築学部のある教室棟のPC教室です。
普段は建築学部の学生が自習用に自由に使っているとのこと。
自習で使いたい学生からすれば、教室が空くのを待っているのです。
そっと、教室の外に出て、うろうろしていると、
「えー、なんでアニメが流れているの?」
「ほらー、ネットでなんか出ていたじゃない。アニメをひたすら見るって」
「受けて~」
「受けたいかあ?アニメ、ひたすら見るんだよ」
などなど賛否両論。
まあ、普段使いしている教室でアニメがどどんと流れていたら、そりゃ驚きますよね。
そうこうしているうちに講義が終了。
ネットで話題になった反応は?
場所を文芸学部棟に移動して、町口先生にインタビューにご対応いただきました。
石渡:ネットで話題になったことはいかがですが?
町口:コメントを見ていると、好意的な反応が多かったですね。是非、受けてみたい、という方も多いようでそれは光栄なことです。
石渡:アニメを週20本視聴とのことでしたが、コードギアスだと6割くらい、ガンダムだと半分くらいしか見ていませんでした。普段もこれくらいの比率ですか?
町口:それくらいですね。ただ、オタク率は文芸学部だと50%以上なので講義はやりやすいですね。
私自身は文芸評論家なので、この講義ではまずジャンル批評の観点からアニメ作品を評価していくという案配です。
1か月で見たアニメは42本!
石渡:先生もアニメを結構見られているのですか?
町口:今期(4月から/取材時は5月中旬)はアニメが42本。それと特撮ものが2本です。
広報・石渡:それはすごい!
町口:学生さんでもいますよ、これくらい見ている人は。
見ていないとハードなオタクの学生さんに、対処できません。
まあ、かなりしんどいですけどね。
石渡:私も漫画やアニメ、結構見ているつもりでしたが、すみません、甘かったです。
「アニメ週20本」というハードルの設定はどのような理由でしょうか?
町口:アニメは週80本くらいあります。大人が見ても視聴に耐えられるものがその半分くらい。
20本はそのまた半分くらいですし、アニメのトレンドをとらえる、という意味では、それくらいは見ていてほしい、という意図で設定しました。
アニメを見るだけでは講義に付いていけない?
石渡:マックス・ウェーバーから宇野常寛さんまで、様々な本を読んでいないと、これ付いていけないですよね。かなり厳しいのでは?
町口:確かにハードルは高いですね。ただ、これくらいは読んでほしい、という高い理想があります。
その理想から推し量って、自分のできる範囲で学生さんには頑張ってほしい、という思いがあります。
石渡:後ろで観察させていただくと、半分くらいは付いていける、かなり入り込んでいると思いました。
一方、10人くらいはかなりめげているかな、と。
町口:それはしょうがないですね。どの講義でも同じではないでしょうか。
単位を取るためだけに受けている学生さんもいますから。
私としては真面目についてこれる学生がターゲットです。
私は文芸評論家ですので、この講義を通して文芸批評家になりうる教養を身に付けてほしいと思います。
石渡:ネットの効果は履修登録に影響ありましたか?
町口:履修登録が終ったあとに話題になったので、影響はありません。
近畿大、アニメコースを作る?
石渡:将来、この近畿大がアニメコースなどを作ったときは、ポジションも上がりそうなのですがいかがですか?
町口:ですよね。世界的に見ても、日本の映像コンテンツでは映画よりもアニメが高く評価されています。
それを考えると、アニメコースや学科、というのは需要があるかもしれません。
広報さん、どうですか?
広報:コース・学科新設については慎重な回答をさせてください(苦笑)。
新書とかどうでしょう?
石渡:近い将来、新書でアニメ批評とか出されるお考え、あります?今日いただいた資料、拝見していると、何か、書けそうな気がするのですが。
町口:とあるレーベルから出せないか、ということで交渉中です。もちろん、話題になっている今なので出版社からのオファーは大歓迎です。そこそこ売れると思いますよ。
稲垣早希との番組ってどう?
石渡:先生はテレビ取材も希望、とTwitterに出されていましたが、テレビ出演はありますか?
町口:今のところ、特にないですね。
石渡:講義に参加させていただいていて、ちょっと思ったのですが、稲垣早希さんとお二人で番組持つ、というのはどうですか?
町口:あ、いいですねえ!やりたいです。
私もちょっと、コスプレもしてますし。
吉本興業に所属して、タレントとして活動してみたいです。
広報:オープンキャンパスでスペシャルトークショー。
「受験生が聞くべきアニメ論」とかどうですか?
町口:あ、いいですねえ。やるなら出演します!
石渡:では、その実現の暁には、取材に行きます。
今日はありがとうございました。
取材を終えて~石渡はアニオタではありませんでした!(謝)
まずは謝罪から。
私こと、石渡嶺司はこれまでアニオタを自称していましたが、甘かったです。
色々とすみませんでした(誰に謝っているんだ?)!
もうこれからは、アニオタを自称せず、
「漫画とアニメ?ちょっとは好きです」
くらいにしておきます。
漫画だけでも、所蔵数1000冊(数えたことないけど、たぶん)は行っているのですけどね…。
アニメを研究・教育のテーマとすることの是非
私の話はさておき、この講義はアニメを研究・教育のテーマとすることについて、意見が分かれるところです。
アニメを軽く見る人からすれば、
「アニメを大学の講義で取り上げるなんて」
などとネガティブにとらえることでしょう。
大学教育の劣化と結びつける論調で非難する人がいてもおかしくはありません。
一方で、アニメを大学の講義や研究でテーマとすることを肯定する人も少なくないはず。
私は後者の意見です。
大学での研究・教育は本来、自由なものです。
付言しますと、私は東洋大学社会学部出身。
卒業論文は「公営競技が地域社会に与える影響についての一考察」。
これでちゃんとB評価をもらって卒業しました。
いわばギャンブル社会学。
麻雀の井出洋介プロは東京大卒ですが、卒論は「麻雀の社会学」。
ギャンブル社会学は大阪商業大学の谷岡一郎学長など研究者もいます。
アニメに話を戻すと、日本製アニメは世界シェアの60%を占め、海外輸出額は年5000億円。
魚かい類など食料品の輸出額とほぼ同額です。
金額だけでなく、世界的な評価も高いものがあります。
そのアニメを文芸批評の観点から論じる、というのは学問としても十分にあり得るでしょう。
「アニメ批評でメシが食えるのか」批判は別問題
「アニメ批評でメシが食えるのか」
「アニメの評論家なんか数人で十分だし、大多数の学生にとっては実用性がない」
「アニメ批評など役立たずな勉強をしても就活では無意味」
との批判もあるでしょうから、先回りしてお答えしておきます。
前回の天文学もそうですし、今回のアニメ批評もそうですが、大学という機関において実用性の有無は別問題なのですよ。
というか、教養という点で実用性を論じること自体、無意味です。
「多くの人にとっては役立たず」という事象(ま、ある面では現実)が、
「だから大学という機関では不要」
という主張を補強するものとなるのでしょうか。
私は全く有効な主張とは思えません。
アニメ批評が日本を救う?
まず、アニメ批評という専門家養成について。
現在、日本のアニメは世界をリードしています。
一方、人件費や後継者不足などが理由で、アジア諸国を中心に技術がどんどん流出しています。
このあたり、モノづくり全般と全く同じですね。
仮に、技術移転が進んだとしても、日本のアニメがリードし続けるとしたら、それは分厚いアマチュア層、それから、アニメ批評ではないでしょうか。
分厚いアマチュア層の存在が多数のプロを生むのは、野球などと同じです。
そして、アニメ批評で理論や世界観などがしっかり研究されていればどうでしょうか。
それが基盤となって、良質なアニメを量産し続けることになるはずです。
アニメ以外の業界でも就活では十分役立つ!
次に一般学生の就活について。
アニメ批評を勉強しても、大多数の学生は、アニメとは無関係の一般企業に就職していくでしょう。
その際に、アニメ批評の勉強が役立つかどうか。
これ、昨年、文系学部廃止の是非が議論された際、特に文学部が役立つかどうか、ということで大きな議論となりました。
私は読売オンラインで「文学部就活最強論」というものを書いて、文学部を擁護したのですが、アニメ批評についても同じです。
文学部就活最強論!?~役立たず批判を検証してみた(上) 2015年9月7日
多くの企業が総合職・一般職採用で求めるのは専門性でも実用性でもありません。
広い教養と判断能力です。
それがある学生は経済学であり、法学であり、別の学生は文学であり、哲学であり、あるいは天文学、というだけです。
研究テーマが、コードギアスでも、ギャンブル社会学でも、天文学でも、そこは何だっていいのですよ、極端な話。
企業からすれば、何か一つのテーマを勉強してれば、広い教養と判断能力が身に付いていて、それが幹部候補(今更ですが大卒総合職は幹部候補という位置づけです)として、役立つときもあるだろう、と考えます。
まして、アニメですよ、アニメ。
大手企業も含めて、CMに起用する企業が多い中、アニメ批評がムダと切って捨てることはできないはず。
たとえば、こちら。Z会CMにアニメの新海誠監督を起用しています。
わずか2分間で、独特の世界観が繰り広げられる名作CMです。
アニメ専攻開設と稲垣早希との番組を是非
というわけで近畿大学は、マグロだけで受験生日本一になった、との評価を覆すためにも、ぜひ、文芸学部を改組して漫画・アニメ専攻を開設していただきたいところです。
で、町口先生を専攻長に就任させる、と。
さらに、平日深夜にアニメ批評番組を作成・スポンサードしていただいて稲垣早希さんと二人で回していただく、と。
これで近畿大学、ならびに日本のアニメ業界、百年の計、成れり!
…。
……。
………。
いいアイデアと思う反面、何かが足りない気もします。
さしあたり、オープンキャンパスでの稲垣早希対談を実現していただくのを待つとしましょう。
大学ディープ紀行・1回目:日本の天文学プロジェクトチームはハワイにたどり着けるのか~1億円が出せて旅費80万円が出せない謎(5月16日)