依怙地で損するオールドメディアと大学広報の奇妙な共通点~教育広報担当者が知ると得する話・22
◆炎上で共通する「依怙地」
2024年は総選挙、都知事選、兵庫県知事選などいずれもSNSが大きな力を持った。
一方、新聞社やテレビ、あるいは私を含むフリーのジャーナリスト・ライターは時として「オールドメディア」「マスゴミ」などと批判されることが多かった。
どちらも、2025年以降も同様か、ますます強くなっていくだろう。
メディア業界の片隅にいる私としては2025年以降も他人事ではないことを感じながら記事や本を書いていきたい。
さて、政治論やメディア論の専門家ではない私がなぜメディア批判を取り上げるか、と言えば(しかも、大学広報担当者向けの記事で)理由がある。
批判された新聞社やメディア、それと過去に炎上した大学はいずれも共通点があることに気づいた。
その共通点とは、タイトルにもある「依怙地」である。
問題点があればどこが問題か把握する。自社(あるいは大学)に非があれば、その非を認めて謝罪する。リスクマネジメントや守備としての広報の基本である。
ところが、組織の体面を重んじて非を認めないとより炎上してしまうことになる。
その結果、組織の体面はズタズタとなり、信用やブランド価値が大きく損なわれることになる。
2024年ないしそれ以前に炎上したメディア、あるいは騒動や事件を引き起こした大学、どちらも依怙地になった共通点があることに気づいた。そこでこの記事でまとめていきたい。
◆神戸新聞が兵庫県知事選振り返り記事を掲載
2024年11月の兵庫県知事選で前職の斎藤元彦氏が再選を果たした。
内部告発文書問題を受け、兵庫県議会では不信任決議に全員が賛成。地方自治法の規定で失職し、出直し選挙では当初は不利、と言われていた。それを覆しての当選である。
私は政治論が専門ではないので斎藤知事や出直し選挙への論評は控えたい。
さて、斎藤知事の再選後となる2024年12月7日、地元紙の神戸新聞が朝刊で県知事選の振り返り記事を掲載した。
「<データでみる兵庫県知事選>著名人の応援動画 選挙左右 斎藤氏119万回視聴 支持した立花氏1500万回 民間分析 斎藤氏フォロワー2カ月で6倍」と題する記事の中では、斎藤氏を支援するSNSが次点落選の稲村和美氏に比べて10倍近くの差があったこと、動画も視聴数が多かったことをデータ調査・解析を専門とするネットコミュニケーション研究所のリポートを引用しながら説明している。
記事では次の一文がある。
さらに、政治経済番組の「ReHacQ(リハック)」やお笑い芸人の中田敦彦さんの「YouTube大学」など、関連動画の視聴数も100万回を超えた。
※神戸新聞2024年12月7日朝刊記事より引用
朝刊掲載の記事、神戸新聞社オンライン(有料版)、並びにYahoo!ニュース転載の記事(現在は削除)では、表があり、斎藤氏を囲むように関連動画として、立花孝志、中田敦彦、へライザー総統、須田慎一郎、高橋洋一の各氏が出ており、その中に「高橋弘樹氏(リハック)」も出ている。斎藤氏を囲む6氏はそれぞれ、点線で斎藤氏とつながり、その点線は「100万回超の関連動画」との注釈が表に書かれている。
斎藤氏の隣には次点で落選した稲村和美氏が並び、稲村氏には点線表記などは特にない。
記事の読者の大半はReHacQないし高橋弘樹氏=立花孝志氏=応援動画を出した人、と認識したはずだ。
当然ながら、この記事は問題となった。
前提からして間違えているからである。
◆神戸新聞、Yahoo!記事は削除も訂正せず炎上
解説していく前に、私はこの騒動においては中立の立場である。
神戸新聞は何度かコメント取材を受けたことがあり、知人の記者が何人かいる。
「ReHacQ」については出演したことはなく、一視聴者として前身の日経テレ東大学時代からファンだった。
どちらに対しても利害関係はほぼない状態である。
という前提でこの騒動を見ていくと、どう考えても神戸新聞の方が悪い。
「ReHacQ」が選挙期間中に兵庫県知事選関連で公開したのは候補者7人による討論会動画1本のみだ。
この動画を視聴すれば分かるが、高橋氏は司会進行をしているだけで斎藤氏(または斎藤氏以外の候補者)に肩入れしているわけではない。
もちろん、これを見て斎藤支持を決めた兵庫県民は一定数いることが考えられる。その点では影響があったことは確かであろう。
しかし、討論会であれば、稲村候補あるいは他の候補の支持を決めた兵庫県民もいるはず。
神戸新聞記事に掲載の表で言えば、斎藤氏だけでなく稲村氏にも点線がつながれていないとおかしい。
そもそも、記事の大元になっている(かつ、コメントも出している)ネットコミュニケーション研究所の兵庫県知事選レポートでも2024年12月9・10日に斎藤氏の関連動画ではない、と否定するコメントを追記として出している。
ReHacQについては、11月1日の【ReHacQ討論会】兵庫県知事選挙【候補者7人vs高橋弘樹】を指しています。これについては、討論会という性質上、「選挙関連動画」であり、当研究所では従来「応援動画」、「斎藤元彦氏単体の関連動画」に分類されるものとはしておりません。
※該当レポートより引用
前提が違う以上、神戸新聞は謝罪・訂正したのか、と言えばそうではない。
詳細は高橋氏のXに譲るが、言い訳のオンパレードである。
神戸新聞の見解では、関連動画の意味合いは一般的な日本語とは違うらしい。
神戸新聞では、「関連動画」と言う言葉は、「結果として、その動画を投稿後に斎藤さんのSNSのフォロワーが増えて、支持者が結果として増えた動画」と言う意味で、『関連動画』と言う意味であり、その意味で言葉を使用しています」 とのご回答でした
※高橋氏のX2024年12月12日投稿より引用
「結果として増えた」動画を「関連動画」と言うなら、何でもありになってしまうはずだ。
当記事を書いている2024年12月31日現在、神戸新聞は記事の訂正ないし撤回・謝罪には応じていない。
SNSでは神戸新聞の姿勢を批判する投稿(オールドメディア、マスゴミなど)が目立つようになっている。
◆神戸新聞と同じ東洋経済新報社の依怙地
神戸新聞の一件はまず、記事を書いた記者がネットコミュニケーション研究所のレポートを誤読したところから始まっている。
ここで倍速視聴なり、冒頭だけでもいいので各動画を見ていけば、どれが応援動画でどれが応援動画ではないか、分類できたはずだ。
さらに、記事掲載前に新聞社では必ず校閲チェックが入る。それも、デスク(編集担当)、校閲担当など複数で見ていくのが鉄則だ。
記者のレポート読み違えがなければ、あるいは、校閲チェックが正常に働いていれば、防ぐことができた記事だった。
もちろん、間違えた記事を出してしまうことはどの新聞社でも出版社でも起こり得る。
ただ、間違えた以上は訂正を出すなり、謝罪するのがメディアとしてあるべき姿勢である。
ところが神戸新聞社は訂正もせず謝罪もせず、「関連動画はうちではこういう意味で使っていて~だから訂正はしない」とするのは、依怙地になっているとしか思えない。
その結果、神戸新聞社はSNS上で炎上し続け、そのブランド価値を自ら損なっている。
この神戸新聞社と同じ、大元を読み違えたのが2018年の東洋経済新報社だ。
東洋経済新報社が毎週発行するビジネス週刊誌「週刊東洋経済」2018年2月10日号では「壊れる大学」特集を掲載。このうち、「危ない私大100強い私大50」記事では財務情報から「危ない私大100」ランキングを掲載している。
詳細はYahoo!ニュースエキスパート(無料版)2018年2月28日公開記事「週刊東洋経済「危ない私大」記事・ランキングを徹底検証~不快感示す大学、東経記者は否定」で説明しているのでそちらをお読みいただきたい。
1万字超あって鬱陶しい記事なので、ざっくり説明すると、この東洋経済記者は神戸新聞記者と同じく、大元を誤解している。
東洋経済記事では、単年度の赤字額だけで「危ない私大100」ランキングを作成しており、国際基督教大学や創価大学、玉川大学など、どう考えても潰れそうにない私大が入っている。
記事の大元となっている日本私立学校振興・共済事業団の『定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分(法人全体)』では、経営状態の区分のための前提条件が3点出ている。
1点目が教育活動資金収支差額。これが3年中2年以上赤字だと、レッドゾーンないしイエローゾーンに傾く。
2点目が外部負債と運用資産を比較して外部負債が超過しているかどうか、3点目が耐久年数。合わせて3条件から経営状態を判断する、とある。
ところが、東洋経済記事では教育活動資金収支差額のみ、それも3年ではなく直近1年だけで判断している。
玉川大学は校舎の耐震補強工事のために単年度では赤字となった。が、逆に言えば、耐震補強工事を忠実に実施したに過ぎない。それを捕まえて「危ない私大」とまとめるのは無理がある。
これを大学財政に詳しい教授や日本私立学校振興・共済事業団、玉川大学理事長などに取材したうえで記事を公開した。
東洋経済記事に対して、私は直接の利害関係はない。それでも、同業者から1万字超で説明してそれがYahoo!ニュースエキスパートで出た以上、どこかのタイミングで記事を訂正するだろうと私は考えていた。
記事公開から6年経過し、東洋経済新報社は同記事を有料版公開としたままだ。
訂正は一応、出した。
ただ、それは国際基督教大学のみに対してである。
記事初出時に上の段落内にあった「地方の下位大学ばかりではない。国際基督教大学のような都内の有名私大も含まれている」を削除しました。国際基督教大学は、教育研究活動のキャッシュフローより基金運用を重視した財務モデルを採用しているためです。
※週刊東洋経済/東洋経済オンライン該当記事より引用
「教育研究活動のキャッシュフローより基金運用を重視した財務モデル」など、文部科学省も日本私立学校振興・共済事業団もどこも定義していない。東洋経済新報社が勝手に出した定義である。
「基金運用を重視した財務モデル」というのであれば、国際基督教大学以外の私大にも当てはまる(さすがに全部とは言わないが)。
そもそも、この記事を書いた山田徹也という記者は大学の財務モデルを誤解している。大学を運営しているのは正確には大学ではなく学校法人である。
学校法人は大学だけでなく、短大や高校、中学校、小学校、あるいは専門学校など他の校種を同時に運営している。仮に大学が定員割れで赤字でも、他の学校が黒字であれば学校法人全体としては黒字になる。
企業で言えば、大企業、あるいはホールディングスのようなものだ。
大企業であれば赤字部門ないし赤字の子会社があっても全体では黒字、ということがよくある。それと大学・学校法人は同じだ。
付言すれば、週刊東洋経済のライバルである週刊ダイヤモンドはこの学校法人財政のカラクリに気づき、東洋経済記事の10年以上前に記事としている。
この山田記者は神戸新聞社と同様、大元を間違えただけなく、勝手な定義を持ち出して訂正・謝罪をしていない。
私は当事者ではない。ただ、初歩的なチェックを怠り、しかも、その記事を訂正・撤回しないメディアは全くもって信用できず、仕事をする気にはなれない。以降、何度か記事執筆依頼があったが、全てお断りしている。
今年秋にも、東洋経済education×ICT編集部の編集長から執筆依頼をいただいた。Yahoo!記事のリンクを提示したうえでその非を示す内容を掲載してくれるなら記事執筆に応じる旨、伝えたところ、「事情は分かりました」との返信があっただけで、それ以降の進展はない。
当記事を執筆するにあたり、記事執筆者の山田徹也氏の名前を検索したところ、2024年12月に代表取締役社長に就任したそうだ。
なるほど、編集長も社長には逆らいたくないし、誤報を知っても指摘はしたくないのが人情であろう。
◆依怙地で損をした日大
神戸新聞社、東洋経済新報社に共通するのは当記事のタイトルにも出した依怙地さである。さっさと過ちを認めて訂正ないし謝罪していれば、それで終わったはずだ。
それが依怙地になってできないから、自らブランド価値を損なうことになっている。
この両社と同じ依怙地で損をしたのが日大である。
2018年の悪質タックル騒動、2023年の薬物事件、いずれも、本来はアメフト部という一体育会系部活の不祥事にすぎない。さっさと謝罪していればそれで済んだはずだ。
実際に、2023年には日大だけでなく朝日大学(岐阜県)でも薬物事件が発生した。しかし、朝日大学は日大のような大騒動にはなっていない。
これは岐阜県所在の地方私大だから、というだけではない。大学は警察の捜査に協力した結果、逮捕者が出た。しかも、この件ですぐ謝罪している。
その点、日大は2018年も2023年も、様々な理屈を持ち出してすぐ謝罪したわけではない。2018年では加害選手一人に責任をかぶせようとしたし、2023年は林真理子理事長が薬物事件を当初は否定し、副学長は薬物を学内で保管し続けた。
朝日大学や他の大学と同様に、すぐ謝罪していれば終わった話を神戸新聞社、東洋経済新報社のように、様々な理屈を持ち出して保身を図ろうとした。
その結果、日大のブランド価値は大きく損ない、3年連続で私学助成金不交付、となってしまった。大規模私大では初のことである。もちろん、日大ほど資産ある大学(学校法人)であれば、私学助成金がなくても、十分に大学運営はできる。それでも不名誉なことには変わらず、ライバルだった東洋大学に志願者数を抜かれて現在に至っている。
◆依怙地になっても損でしかない
日大ほどではないが、他大学でもこの依怙地さで損をしている、としか思えない大学がある。このYahoo!ニュースエキスパート(有料版)では2023年から大学ないし教育関係者向けに広報関連記事を出すようにしている。
中には実名で大学の施策を批判する記事もある。
そうした大学の中には、記事執筆者(つまり私)に対して怒り心頭であり、中には大学関連と思しきSNSアカウントで攻撃的な投稿をするところもあった。
とある大学(こちらはYahoo!ニュースエキスパート・無料版)で名指し批判されたことがよっぽど苛立ったのであろう。別の大学で講演したところ好評でその大学職員が某大学職員にその評を伝えたところ、「石渡はダメ。上が怒り心頭だし」。
この某大学も日大ほどの規模でないにしろ、依怙地になっているだけにすぎない。「石渡はダメ」と評価するのは勝手だし、それについては甘受しよう。だが、Yahoo!ニュースエキスパート無料版で出した件は受験生が迷惑を受けており(それも当の大学から)、大学はその非を認めるべきである。
ところが、この某大学は非を認めず(さすがに法律に抵触しかねない案件で訂正は出した)、該当する受験生や高校に対してはいまだに謝罪していない。
これも依怙地になって、結果として、当の大学が損をしている。
IT化、もっと言えばSNSの発達により、今後、こうした依怙地はメディアであれ、大学であれ、企業であれ、あるいは私のような個人であれ、ただただ損をするだけになっていくだろう。
大学広報担当者には、こうした依怙地をいかに止めるか、守備の広報をより一層、考えるべきであろう。
◆以下、有料公開部分となります。
※通常の有料版記事では記事の一部を無料公開、残りを有料版読者にのみ公開しています。
当記事については、年末ということもあり、全文公開としています。
※有料公開部分ではこの注釈を繰り返しています。
※無料公開部分6000字・有料公開部分の文字数00字/合計6000字
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