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鳥インフルエンザはヒトに感染する? 世界各地で起こる哺乳類の異変

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

アメリカでは鳥インフルエンザによる家きん(肉・卵・羽毛を利用するため飼育する鳥)の殺処分が過去最多になっており、日本でも毎日のように鳥インフルエンザのニュースが流れるようになりました。「基本的に哺乳類への感染は起こりにくい」が定説ですが、それを覆すような報告が増えてきました。

鳥インフルエンザに変化?

感染症法で2類感染症になっているのはH5N1(高病原性)およびH7N9(低病原性)の2つの鳥インフルエンザで、これ以外の亜型の4類感染症となっています。

2020年以降H7N9のヒト感染例は報告されておらず、もっぱらH5N1が話題になっているため、こちらを中心に書かせていただきます。

さて、これまで夏に収束することの多かった鳥インフルエンザが、季節性を失って、野鳥などに年がら年中感染する状況が続いています。

問題は、いくつかの哺乳類に鳥インフルエンザ(H5N1)の感染事例が複数報告されていることです(1)。

国内でもキツネとタヌキから鳥インフルエンザ(H5N1)が検出されたことが話題となりました。周辺地域のカラス集団から検出されたウイルスと遺伝的に近いことから、鳥から哺乳類へ感染が起こっていることが疑われます(2)。

写真:イメージマート

ダゲスタン国立大学によると、ロシア南部のカスピ海沿岸における大量死したアザラシから鳥インフルエンザ(H5N1)が検出されているとのことです(3)。

スペインでは、農場のスタッフがミンクの自然死亡率が高くなっていることに気づき、鳥インフルエンザ(H5N1)の検査をしたところ、複数が陽性になったと報告されています(4)。ミンクからミンクへ感染した可能性が示唆されていますが、個々のミンクが野鳥を食べたとする説もあり、真実はまだ分かりません。

しかし、「鳥から哺乳類」だけでなく「哺乳類から哺乳類へ鳥インフルエンザ(H5N1)が感染している」という見解が出てくると、なかなか背筋が凍りますね。

ヒトへの感染例と致死率

鳥インフルエンザは基本的にヒトに感染しにくいですが、上述したようにウイルス側の状況が変わってきた可能性はあります。

ヒトに対して、H5N1に関しては現在も持続的に感染例が報告されています。感染した鳥の羽や粉末状のフンを吸い込んだりすると、ヒトでも発症する可能性があるので注意が必要です。

もし鳥インフルエンザに感染した場合、季節性インフルエンザと同じような高熱、咳などの症状が出現します。新型コロナのようなウイルス性肺炎を起こしやすく、脳炎を起こすこともあります。実際に動物では脳炎の頻度が高いです。

毒性が高い理由として、鳥インフルエンザが季節性インフルエンザと比較して、ウイルス量が多く、治癒までの経過が長いからではないかと考えられています。

2003年11月から2023年1月までに、鳥インフルエンザ(H5N1)のヒト感染例は、世界全体で869人報告されており、52.6%にあたる457人が死亡しています(表)(5, 6)。軽症例まで全例同定できているわけではなく、実際の致死率はもっと低いとする見解もあります。

表. 鳥インフルエンザ(H5N1)のヒト感染があった国上位10か国(筆者作成)
表. 鳥インフルエンザ(H5N1)のヒト感染があった国上位10か国(筆者作成)

世界的に感染が増加しているというシグナルはありませんが、これまで一度も感染例が観察されなかった南米で、9歳の女の子に鳥インフルエンザ(H5N1)の発生が報告されたことは気がかりです(7)。

幸い、現時点では日本におけるヒト感染事例はまだありません。

鶏肉や卵を食べて感染する?

国内の家きん飼養農場で鳥インフルエンザ発生した場合、家畜伝染病予防法に基づいて、家きんの殺処分、焼却あるいは埋却、消毒、移動制限など必要な措置が講じられます。

厳しい封じ込めをおこなっていることから、鳥インフルエンザが発生した飼育農場の鶏卵がスーパーに並ぶことはありません。

万が一、家きんが鳥インフルエンザに感染していても、鶏肉や卵を食べてヒトに感染した事例は一例も報告されていません。また、加熱することで鳥インフルエンザウイルスは死滅します。流行りの低温調理などの加熱不十分な料理は、食中毒のリスクもあり避けるべきと思います。

まとめ

「鳥インフルエンザ(H5N1)が哺乳類へ感染している」という報告に注目が集まっており、調査を思い立つ研究者が増え、見かけ上報告が多くなっている可能性はあります。

現時点ではヒトに対して感染性が高いウイルスではないことから、過度に懸念する必要はないと思われますが、鳥インフルエンザが発生した現場の動画・写真を撮りに行ったり、見に行ったりすることは控えましょう。

(参考資料)

(1) U.S. Department of Agriculture. Animal and Plant Health Inspection Service. 2022-2023 Detections of Highly Pathogenic Avian Influenza in Mammals(URL:https://www.aphis.usda.gov/aphis/ourfocus/animalhealth/animal-disease-information/avian/avian-influenza/hpai-2022/2022-hpai-mammals

(2) Hiono T, et al. Virology. 2023; 578: 35.

(3) ダゲスタン国立大学. カスピ海のアザラシの死体から鳥インフルエンザが検出される.(ロシア語)(URL:http://dgu.ru/news/v-organizme-pogibshikh-na-kaspii-tyuleney-obnaruzhen-ptichiy-gripp/

(4) Euro Surveill. 2023; 28(3). doi: 10.2807/1560-7917.

(5) 海外感染症発生情報. 鳥インフルエンザ.(URL:https://www.forth.go.jp/topics/fragment2.html

(6) 鳥インフルエンザA(H5N1)について(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144523.html

(7) 鳥インフルエンザA(H5)のヒト感染例報告-エクアドル共和国(URL:https://www.forth.go.jp/topics/20230122_00004.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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