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アリゾナ州 ガス室での死刑を検討「ホロコーストを彷彿」「まるでアウシュビッツ」と国内外で炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

1999年にもガス室で死刑に

米国のアリゾナ州が死刑制度としてガス室での死刑の導入を検討し、そのためにガス室の整備とガスの購入を予定していると、英国のメディアのガーディアンが独自の資料を入手して報じていた。ガス室での死刑がナチスドイツがホロコースト時代にアウシュビッツなどの絶滅収容所でユダヤ人らをガス室で殺害したことを彷彿させるとして、ネットで大炎上している。特にドイツやイスラエルなどからも「ホロコーストを彷彿させる」「アウシュビッツのようだ」と反対の声なども上がっている。死刑問題は米国でも人権問題の観点からいつも炎上するテーマなので、今回の報道はいつも以上にネットで炎上している印象だ。

アメリカでは州によって死刑制度が廃止されているところもあるが、アリゾナ州は死刑制度が残っており、1999年にもアリゾナ州のフローレンス刑務所でガス室で死刑を行っており、この時は死刑囚が18分で死亡した。当時は現在のようにインターネットもそれほど普及しておらず、SNSなどもなかったので世界中に拡散されたり、世界規模で炎上することもなかったが、それでもアメリカだけでなくドイツやイスラエルのメディアでも大きく報じられていた。

国際アウシュビッツ委員会のエグゼクティブ・ディレクターであるクリストフ・ハウブナー氏は「アウシュビッツ絶滅収容所を生き残ることができた生存者にとって、まだこの世の中においてチクロンBの毒ガスで殺害される場所が地球上にあるなんて信じられません。ガス室での殺害は辞めるべきです。このような処刑方法は民主主義にあいませんし、ホロコーストの犠牲者に失礼です」と訴えていた。

在米オーストリア大使のマーティン・ワイス氏は「日常的な処刑方法とは思えません。チクロンBで毒殺するなんて考えなおすべきです」と語っていた。死刑情報センターのエグゼクティブ・ディレクターのロバート・ダンハム氏は「2021年の現在にアリゾナ州の刑務所が考えていることは受け入れがたいです。ホロコーストの歴史をちゃんと勉強したのでしょうか?」とコメントしている。

ナチスの絶滅収容所でのガス室

第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマらを殺害した、いわゆるホロコースト。ナチスドイツは「労働を通じたユダヤ人のせん滅」を行っていたため、労働に適さない子供や老人などのユダヤ人は収容所に到着すると、すぐに「選別」されてシャワーを浴びると騙されて裸にされてガス室で殺害された。ガス室での死体処理はユダヤ人の囚人らが行っており、そのガス室処理を行っていたユダヤ人ゾンダーコマンドを題材にした映画「サウルの息子」が日本でも上映されていたので記憶にある人も多いだろう。

ナチスドイツで最初にガス室で殺害されたのはドイツの精神病患者で、彼らは純度の高い一酸化炭素ガスで窒息死させられた。それが東欧に設置された絶滅収容所でも利用されるようになった。当初は改造したトラックに排気ガスを引き込んでいたが、そのうち大型ディーゼル・エンジンを備えた堅固なガス室を使うようになった。チクロンBはディーゼル・エンジンの排気ガスよりも、早く殺害できる、つまりユダヤ人が苦しむ時間が短いということから、アウシュビッツ収容所長のルドルフヘスは、チクロンBを使う方が人間的だと自慢していた。また銃殺すると鉄砲の弾は貴重なため、チクロンガスのガス室で殺害する方が安上がりだった。

そしてアウシュビッツの5つのガス室では24時間に6万人の老若男女を殺害できた。そしてナチスドイツはユダヤ人殺戮がピークに達していた1944年の夏には、チクロンBが非常に高価なものだったことから、ガスの量を半減することにした。つまりユダヤ人がガス室で呼吸困難で死ぬまでの時間を倍に引き延ばすことによって費用を半分に節減した。末期には毒ガス費用削減のために、子供たちは生きたまま焼却炉に投げ込まれていた。

▼映画「サウルの息子」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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