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闘将ガットゥーゾに続々と賛辞、サッキやアンチェロッティも期待 ミラン復活の序章?

中村大晃カルチョ・ライター
2月28日、PK戦を制してコッパ・イタリア決勝進出を決めたガットゥーゾとミラン(写真:ロイター/アフロ)

災い転じて福となす…かもしれない。成績不振でヴィンチェンツォ・モンテッラを解任し、OBのジェンナーロ・ガットゥーゾを指揮官としたことは、ミラン復活への序章となるのだろうか。

就任から3カ月。ガットゥーゾ・ミランの勢いが止まらない。コッパ・イタリア準々決勝でダービーを制してから、公式戦で13試合無敗。ヨーロッパリーグでベスト16、コッパでは決勝に進出し、リーグでもチャンピオンズリーグ(CL)出場ラインの4位インテルに勝ち点7差まで詰め寄った。

セリエA第15節終了時点で、インテルとの勝ち点差は18ポイントだった。それが、4日のダービーに勝てば、ついに4ポイントまで縮まる。1カ月前には「好調だがインテルを逆転することはない」との意見が多数だったが、今ではミランが最終順位で上回るとの声も増えた。

◆イタリア人中心に守備改善

特に目を見張るのが、守備力の大幅な向上だ。モンテッラ体制では公式戦23試合22失点(1試合平均0.96)だったが、ガットゥーゾ体制では19試合14失点(同0.74)。特にここ13試合はわずか4失点(同0.31)と、鉄壁の守備を誇る。現在、6試合連続で無失点だ。

23試合42得点(平均1.83)だった前体制と比べ、19試合26得点(同1.37)と攻撃力のダウンは否めない。ガットゥーゾもこれは認めている。だが、パトリック・クトローネのブレイクを手助けし、ハカン・チャルハノール、ルーカス・ビグリア、フランク・ケシーらを復調させた功績はそれを上回る。

加えて、主力の多くがイタリア人選手なのも好感を呼ぶ。特に、守備陣はジャンルイジ・ドンナルンマ、レオナルド・ボヌッチ、アレッシオ・ロマニョーリ、ダヴィデ・カラブリアで固定。ジャコモ・ボナヴェントゥーラとクトローネを合わせ、イタリア人が半数以上を占める。

◆人心掌握で精神的改革

だが、現役時代に闘志あふれるプレーが売りだったガットゥーゾだけに、何よりも称賛されるのが、精神面での改革だ。

ミラン黄金期の名将アッリーゴ・サッキは、2月20日付の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のコラムで、「偉大なミランの歴史における英雄のひとりであるガットゥーゾの存在と、彼のクラブに対する愛情が、技術・戦術のみならず心理や人間性の面でも変化をもたらした」とたたえている。

ガットゥーゾ自身は、就任時にガッツだけの指揮官ではないと強調した。だが、ミランというクラブへの愛情や絆、忠誠を強く求めていることも事実だ。そしてその姿勢は、選手の心をつかんだ。

恩師カルロ・アンチェロッティも、2月20日付『ガゼッタ』のインタビューで「選手たちに信頼されれば、どんな結果も残すことができる」と絶賛している。

「ガットゥーゾはそれ以上だと思う。私は真の指揮官とみている。チームを掌握しており、選手たちは彼のためなら火の中にでも飛び込むだろう。ガットゥーゾはミランの魂であり、選手たちは成功するために力を注ぐ用意がある。正しい道だ」

前任者よりもハードワークとされるトレーニングを課しながら、選手たちからの称賛が増えていることは、ガットゥーゾがいかに信頼されているかを表している。

◆精神論だけではない闘将

そして、だからこそ、ガットゥーゾは、彼が言う「闘志だけじゃない」ことを示せるようになった。

監督協会のレンツォ・ウリヴィエリ会長は、2月27日付の『ガゼッタ』で「困難にあるチームの顔になることを恐れず、全員の精神的支柱となった。この“試合”に勝ち、ガットゥーゾは自分の技術・戦術的アイディアを進めている」と、信頼をつかんだことで、自らが望む戦いができると分析した。

そして、その戦い方にも賛辞が寄せられている。サッキはサンプドリア戦の内容を絶賛し、「ガットゥーゾは、ミランファンと栄光あるクラブ史が、努力とベル・ジョーコ(美しいプレー)を通じて結果を残すことを求めると知っている。彼こそ、この想定外の変化の見事な立役者だ」と記した。

◆評価はうなぎのぼり

多くのイタリア人選手が骨格となり、ユニフォームへの絆が強く、ベル・ジョーコを追求し、国際的な活躍を目指す――まるで、かつての黄金期のミランのようだ。

もちろん、今はまだ「当時に似てきた」と言うことすらはばかられる。だが、一時は絶望視されたCLへの切符を手にし、3連覇中の王者ユヴェントスを下してコッパを制覇すれば、ミランは来季に向けさらなる上昇気流に乗ることができる。

アントニオ・コンテは古巣ユヴェントスを再生させたのをきっかけに世界的名将となり、チームもスクデット6連覇という偉業を成し遂げた。ガットゥーゾがその例に続く可能性はゼロではない。実際、コンテの下で飛躍を遂げたレオナルド・ボヌッチは、ガットゥーゾに類似点があるとたたえている。

ついには、ガットゥーゾをコンテと並ぶ次期イタリア代表監督候補に推す声まで浮上した。ミランOBでイタリアサッカー連盟副コミッショナーのアレッサンドロ・コスタクルタは否定したが、それほどガットゥーゾの評価はうなぎのぼりなのだ。ミラン首脳陣も、マルコ・ファッソーネCEOが「ここまでと思わなかった」と脱帽。マッシミリアーノ・ミラベッリSDは、来季の続投が確実と強調している。

◆天狗になる恐れはなし?

繰り返すが、就任からまだわずか3カ月だ。アンチェロッティも「称賛を受け入れ、だがすぐに忘れろ。今日ほめてくる人は、明日批判する準備を整えている」と、ガットゥーゾに助言している。

だが同時に、ガットゥーゾをよく知るアンチェロッティは「(勘違いする)危険はない。彼は絶対に満足しない」と、決して浮かれない謙虚な愛弟子への信頼も口にした。ガットゥーゾ本人も「地に足をつけて」と繰り返している。

まずはインテルとのダービー、そしてELのアーセナルとの2試合だ。これらのビッグマッチで結果を出せば、期待はさらに高まる。ガットゥーゾが第二のサッキやアンチェロッティとなり、ミランが再び黄金期を築ければ…ミラニスタにとってこのうえない理想のシナリオだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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