『男女7人夏物語』 令和でも色あせない、さんま・しのぶのまばゆい恋物語
現在、tvk(テレビ神奈川)「懐ドラ」枠にて放送中の、明石家さんま主演ドラマ『男女7人夏物語』(毎週水曜日19時~)。
1986年にTBS系で放送されたこのドラマは、最終回で最高視聴率31.7%を記録。明石家さんまと大竹しのぶが結婚するきっかけとなった作品としても有名であり、間違いなく昭和を代表するドラマの1つでもあるが、改めて令和の今、その面白さ、魅力について考察してみたい。
■偶然は必然だった? 男と女の運命の出会い
旅行会社のツアーコンダクター・今井良介(明石家さんま)はある朝、自分のベッドに見知らぬ女性が寝ていることに気づく。その主はフリーライターの神崎桃子(大竹しのぶ)。前日の夜、バーで出会った二人は意気投合し、そのままベッドになだれ込んだのだが、良介にも桃子にもまったく記憶がなかった。
その日はそのまま別れた二人だが、後日、良介の大学時代の友人である野上君章(奥田瑛二)と大沢貞九郎(片岡鶴太郎)、桃子のコンパニオンガール時代の友人・浅倉千明(池上季実子)、沢田香里(賀来千香子)、椎名美和子(小川みどり)と共に運命的な再会を果たす。
偶然にも橋をはさんで向かいのマンションに暮らしている二人は、なじみの定食屋、スーパー、ATM、コインランドリーと、日常のあらゆるシチュエーションで顔を合わせ、そのたびに衝突する。そんな二人の関係を中心に、男女7人の恋愛模様が繰り広げられていく。
■ドラマを彩る印象的な名シーン
現在、第六回まで放送中だが、第二回「接吻」に、早くもこのドラマを象徴する名シーンが登場する。
一つ目はコインランドリー。先に来ていた桃子に気づかず、「1枚パーンツ、2枚パーンツ」と言いながら、子どものように洗濯機にパンツを放り込む良介。そして洗剤を忘れた良介は置いてあった洗剤を勝手に使い、取りに戻ってきたコワモテの大学生にスゴまれる。
二つ目は定食屋。今度は良介が先に食べているところに桃子がやって来て相席になる。良介は桃子の行動にいちいち茶々を入れながら、「さぁ、何から食べるんでしょうか」と実況をし始める。その結果、大竹は思わず笑ってしまい、セリフを噛んで手で顔を覆うのだが、おそらくOKテイクにしてオンエアに使用したのだと推察される。
この二つのシーンはパターンを変えてその後の回でも登場。二人の心の動きを表す非常に大事なシーンとなっており、ある意味、このドラマにとって欠くことのできない要素と言える。
コインランドリーと定食屋。私たちが暮らす実社会ではごくありふれた光景だが、こんな日常的な場面でシーンが成立するのは、まさにさんま・しのぶの名コンビならではだ。二人の息のあったコンビネーション、アドリブのようにも見えるコミカルなやりとりは絶妙で、そこはかとないリアリティーと緊張感を感じながら、見逃し配信などなかった放送当時、オンエアを心待ちにしていた人も多いのではないだろうか。
■本気の恋愛は第三者にとってはいい迷惑?
しかしながら、もう少し客観的な視点でこのドラマを見てみると、終始、良介と桃子の恋愛に、残りの男女5人が振り回される構図になっていることに気づく。
特に、大竹演じる桃子はかなり自由かつ奔放で、第一回では、友人である千明たちが行く予定だった音楽会のチケットを預かったまま沖縄取材に行ってしまうという、とんでもないミスを平気で犯す。いくら親友とはいえ、普通ならそこでしばらく絶縁されてもおかしくはないだろう。
彼女たちは桃子の奔放さは昔から変わらないと語るが、それにしても自由すぎる。良介はそんな桃子とのコミュニケーションに辟易しつつも、さまざまな偶然が重なり、次第に心惹かれていく。もしかすると、第一回、良介のベッドで桃子が寝ていた時点で運命はもう決まっていたのかもしれない。
そんな中、物語が急展開を見せるのが、第七回「嵐の日」。良介は桃子の親友・千明とつき合うことになるのだが、どうにも噛み合わず、互いに違和感を覚え始める。そして、今まで心の奥に抑えていた自分の本当の気持ちを確信した良介は、降りしきる大雨の中「俺はおまえが好きやねや!」と絶叫し(※創味ハコネーゼのCMにも使われた、本作屈指の名シーン)、桃子に告白するのであった。
■“恋愛”の持つパワーとまばゆい輝き
こうして紆余曲折を経て結ばれた良介と桃子。しかし、そこで終わらないのがこのドラマの真骨頂である。
良介の昔の女、良介の姉(加賀まりこ)、桃子の父(早崎文司)など、さまざまな人物や出来事が入り乱れ、二人の恋愛はクライマックスへとなだれ込んでいく。
そして迎えた最終回、なんと桃子はマイケル・ジャクソンのコンサートツアーの密着リポートを書くため、良介を置いて単身アメリカに渡ってしまう。
良介は後ろ髪ひかれるものの、彼女の夢を応援するべく、引き止めずアメリカへと送り出す。この流れは続編となる『男女7人秋物語』(1987年)に引き継がれ、人間模様はより複雑になっていくのだが、『~夏物語』はさんまと大竹の生き生きとしたライブ感あふれる演技によって、なんとも爽やかな余韻を残して終わるのだ。
このドラマでの共演をきっかけに、2年後の1988年に結婚し、4年後に離婚したさんまとしのぶ。良介と桃子の恋愛は、まさに二人の恋物語そのものだった。
「昔は良かった」と安い懐古主義に浸るつもりはないが、「結局、昭和のドラマだし」と切り捨ててしまうのも、もったいない。スマホもメールもSNSもない時代に繰り広げられた、良介と桃子=さんまとしのぶによる、演技と本気が絶妙に交差した恋物語。たとえ時代が変わっても、そこにある輝きは永遠である。