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日韓首脳会談を受けるか、蹴るか、ハムレットの心境の朴槿恵大統領

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

日韓首脳会談を受けるか、蹴るか、ハムレットの心境の朴槿恵大統領

安倍総理が1993年の「河野談話」や1995年の「村山談話」を「継承する」と国会の場で発言したことを韓国政府が評価したことからこれを機に悪化の一途を辿っていた日韓関係が好転するのではとみられている。

特に日本では今月24日から25日までオランダのハーグで開催される第3回核安全保障サミットの際に安部総理と朴槿恵大統領による首脳会談もしくオバマ大統領を仲介にした3か国首脳会談への期待が高まっている。

しかし、事はそう簡単ではない。韓国政府内には依然として日韓首脳会談には時期尚早論が根強い。

よりによって、オランダのハーグは、日本の植民地統治下に置かれる3年前の1907年に開催された万国平和会議に大韓帝国が密使を送り、自国の外交権回復を訴えようとするも日本の妨害にあって会議への参加を拒絶された苦い思い出の地である。その2年後に起きた安重根による伊藤博文殺害も元はと言えば、この「ハーグ密使事件」が引き金になった。こうした因縁を考えれば、朴槿恵大統領にとってハーグでの首脳会談には慎重にならざるを得ない。

そもそも、安部政権の歴史認識を正したい朴槿恵政権の立場からすれば、談話の継承は当然の話で、さらなるプラスアルファ―、即ち、従軍慰安婦への謝罪と政府による補償措置がなければ、矛を収められない状況にある。現に、朴大統領は「今後、慰安婦被害者らの傷が癒されることを望む」と日本に注文を付けている。

特に、問題なのは、25日に閉幕する核安全保障サミットの翌日に日本で初等学校の社会科教科書の検証結果が発表されることだ。検証の結果、教科書に「竹島は日本の固有の領土」と明記されるのは火を見るよりも明らかで、韓国世論の反発は必至だ。朴槿恵大統領の本音としては「火中の栗」を拾いたくないところだ。

さらに領土問題もある。来月には外交白書が、さらに防衛白書も出される。白書には当然「竹島」が記述されることになる。これに韓国が猛反発するというパターンもこれまでと変わらないだろう。

そして、8月15日が近づけば、日本では閣僚や議員らによる靖国参拝があり、韓国では解放記念日にあたることから大統領は日本に対して当然一言言及せざるを得ない。

韓国が慎重にならざるを得ないのは国内事情だけではない。日本への対応で共同歩調を取ってきた中国との関係もある。

中国にはハルピン駅前に安重根の銅像を建立してくれた恩もある。その習近平体制は依然として日本に対して厳しい姿勢を取り続けている。中国への配慮も考えると、中国包囲網を企図する安部総理との首脳会談に容易にはOKは出せない事情もあるだろう。

しかし、その一方で、オバマ大統領が日韓関係の改善を促していることやハーグでの日米韓3か国首脳会談を迫っていることもあって、無下に断るわけにいかないのも紛れもない事実だ。

特に朴大統領としてはオバマ大統領には大きな借りがある。オバマ大統領が朴大統領の頼みを聞いて、4月の訪日の際に韓国も訪問することを約束したことだ。まして、米国が従軍慰安婦の問題で韓国に同調し、米韓対日本という韓国にとっては願ってもない構図になっているのにここで米国の要請を断れば、一転、日米対韓国と、立場が逆転する恐れもある。

とにもかくにも安倍総理が国会答弁で河野・村山談話を「継承する」と約束したことで、少なくとも朴大統領の面子は一応保たれたことになる。

朴槿恵大統領が安部総理の発言について「安部総理が今からでも継承するとの立場を明らかにしたのは幸いのことである」とコメントしたのはそのことを端的に物語っている。朴大統領が就任後、日本の政治家の発言を肯定的に評価したのは後にも先にもこれが初めてだ。

韓国政府はこれまで関係改善や首脳会談の条件として、1.竹島の日の行事を政府主催行事に格上げしない。2.河野談話を撤回しない。3.村山談話を継承する。4.二度と靖国に参拝しない。5.領土問題を国際司法裁判所に提訴しないことを挙げていた。

一応安部総理は1~3までは応えたことになる。4もおそらく今年はないだろう。5も韓国との断絶を覚悟しなければできない話だ。となると、少なくとも条件的には韓国側の要求はクリアされたことになる。

首脳会談を受けるべきか、蹴るべきか、朴大統領は今まさにハムレットの心境だろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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