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「とにかく市場に通いたくて…」コロナ禍で居酒屋が手掛ける、ラーメン専門店顔負けの激ウマラーメン

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
「ラーメン 巻石」の「巻石醤油らーめん」+「鮪つくね&牡蠣コンボ」

新型コロナウイルスの影響により、飲食店が休業・時短営業に追い込まれ、大打撃を受けている。東京都は7月12日から8月22日まで4度目の「緊急事態宣言」に突入した。

酒類の提供については、政府や都から出される措置に合わせてその都度の対応を迫られており、大変厳しい状況が続いている。今回の緊急事態宣言では再び酒類の提供停止が要請されている。

そんな動きの中で、居酒屋やバーの中には、ラーメンとの二毛作営業を始めるお店も出てきた。

酒類が提供できる期間は通常営業をし、ランチタイムや酒類提供禁止期間はラーメン店として営業するスタイルだ。

これまでも居酒屋の1メニューとしてラーメンを提供するお店は多かったが、コロナ禍で“二毛作ラーメン”を始めるお店は今まで以上に本気でラーメン作りに取り組んでいる。今回は品川区で本気の二毛作ラーメンに取り組むお店をいくつか取り上げてみたい。

「ラーメン 巻石」(旗の台)

ラーメン 巻石
ラーメン 巻石

品川区旗の台にある居酒屋「呑み屋 ぶち」。2016年6月オープンの魚が自慢の居酒屋だ。

ここでは火水木の曜日限定で「ラーメン 巻石」として二毛作営業している。コロナの影響で居酒屋では動けず、ラーメンを始めたのだという。

店主の岩渕英和さんが宮城県石巻市出身ということで、石巻の魚介を使ったラーメンを提供している。

店主の岩渕英和さん
店主の岩渕英和さん

「お酒が提供できなくなり、昔からやりたかったラーメンをやってみることにしました。

うちは魚中心の居酒屋なので、市場の魚屋さんなど仕入れ元がたくさんあります。これまで人と人との繋がりでやってきていたので、コロナで休業になって、仕入れに行くことがなくなるのがとにかく嫌だったんです。

我々は協力金が出ている立場なのでまだいいですが、卸業者さんはお金も出ていないのにお客さんは減っていてもっと大変な状況。とにかく市場に通いたくて、なるべく同じ仕入れ元からラーメンの材料を仕入れるようにしています」(岩渕さん)

緊急事態宣言が出てからはお店は休業しつつ、お弁当の販売やデリバリーでつないでいたが、居酒屋としては機能していなかった。そこでラーメンにトライすることにした。

ラーメン作りは独学だ。失敗に失敗を重ね、寸胴も一本ダメにした。知人のラーメン店の知人にアドバイスをもらいながら、漫画『ラーメン発見伝』(原作:久部緑郎 作画:河合単)を読んで学んだ手法を使ってブラッシュアップしていった。

「巻石醤油らーめん」+「鮪つくね&牡蠣コンボ」
「巻石醤油らーめん」+「鮪つくね&牡蠣コンボ」

こちらが「巻石醤油らーめん」+「鮪つくね&牡蠣コンボ」

石巻産鰹節、鯖節の旨味がじんわりと広がるスープに、鮪のアラで取ったスープを合わせている。油にあまり頼らず、落ち着いた旨味で美味しい。石巻はスープを日本蕎麦っぽく和風に仕上げているお店が多く、そこにインスパイアされたという。

麺は同じく品川区にある「はやし製麺所」の極細縮れ麺。これがまたいい意味で田舎くさくて良い。

麺ははやし製麵所の極細麺
麺ははやし製麵所の極細麺

「緊急事態宣言になり、品川近辺でも十数件の居酒屋さんからラーメンの提供を始めたいと問い合わせが来ました。しかし、オペレーションが大変でなかなか続かないお店が多い中で、「巻石」は固定のファンができるまでに成長していて凄いなと思っています」(はやし製麺所・林秀行さん)

見た目は豪華だが味わいが地方っぽくてとても良かった。鮪つくねと石巻直送の牡蠣のトッピングは店主のサービス精神が伝わってくる。

あまり他で食べたことのない既視感のない一杯。店主は若いが芯がしっかりしていて、本気さが伝わってくる。これからも応援したいお店だ。

「Hanaワイン」(大井町)

Hanaワイン
Hanaワイン

JR・東急大井町駅から徒歩5分。立会道路から細い路地に入るディープな場所に「Hanaワイン」はある。

ワイン好きの店主・塙文佳さんが2017年8月にオープンしたワインバーだ。

「もともと簡単な材料で作った締めのラーメンを出していましたが、今年の1月の緊急事態宣言の時から本格的にラーメンを提供し始めましたね。

酒類提供禁止の時は昼夜ラーメン屋になりました。お客さんからこのままラーメン屋になってしまうんじゃないか心配されましたね」(塙さん)

店主の塙文佳さん
店主の塙文佳さん

塙さんはもともとラーメンが好きで、普段から食べ歩きをしていた。加えて、昨年からラーメン店でアルバイトを始めたことで、ラーメン作りの手順が少しずつわかってきたので、YouTubeなども参考にしながらラーメン作りを始めてみたそうだ。作って失敗してを繰り返していけばいくほど、ラーメンの奥深さにハマっていった。

煮干しラーメン
煮干しラーメン

看板メニューは「煮干しラーメン」

伊吹いりこを多めに入れ、二種類のカタクチイワシ、アジ煮干しを合わせている。煮干しはかなり厚めの旨味。塩味もある程度強く、極太麺がよく絡む。麺ははやし製麺所製。トッピングされたキクラゲの食感も楽しい。

「10種類ほどの麺を試し、どんどんブラッシュアップさせていきました。塙さんはラーメンの理想形がしっかり見えている方で、それに合わせて麺を合わせていくという作業でしたね」(はやし製麵所・林さん)

ラーメンメニューが豊富
ラーメンメニューが豊富

煮干しラーメンのほかにも、醤油ラーメンやスパイシー味噌そば、限定の秋刀魚節ラーメン、烏賊煮干しラーメンなど、ラーメン専門店顔負けの様々なメニューをラインナップ。どれもなかなか商品力が高く、塙さんのラーメン好きが伝わってくる。

「立吞み 8」の「8の黒中華蕎麦」
「立吞み 8」の「8の黒中華蕎麦」

そのほか、「立吞み 8」では同じ大井町の名店「永楽」の焦がしネギを使った醤油ラーメンにインスパイアされた一杯「8の黒中華蕎麦」を提供している。少し濃厚に仕上げ、極太麺に合わせた一杯で大変美味しい。

居酒屋の1メニューとしての域ははるかに超えていて、ラーメン作り自体を楽しんでやっているところが素晴らしい。コロナ禍を乗り切る施策としてのスタートだったが、それが原動力となり、美味しい一杯に繋がっているというのは大変嬉しいことだ。これからも頑張ってもらいたい。

※写真はすべて筆者による撮影

ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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