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遺産への考え方、一人暮らしと世帯持ちでどこまで違うか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 自分の遺産をどのように対処してもらうか。資産管理の一つに違いなく

単身世帯は自分で使い切り、夫婦世帯は子供へ引き継がせる

自分がこの世を去った後、残される資産を遺産と呼ぶ。遺産をいかに処分するかは、遺書などで自ら決めておくことができる。遺産への考え方は、一人暮らしと世帯持ちでどのような違いがあるのだろうか。金融広報中央委員会の「知るぽると」が2015年11月に発表した「家計の金融行動に関する世論調査」から確認していく。

小説やドラマの話だけではなく、現実でも多種多様な問題を引き起こすことになる「遺産」。多くの人が多額の「(金融)資産」を直に感じる数少ない機会でもある。

次に示すのは「遺産についてどのような考えを抱いているか」を、主に財産処分方法と、子供に残すか否かの2つの視点から複数の選択肢を呈し、回答者にもっとも自分の考えに近いものを選ばせた結果。自分が遺産を残す立場となった時、該当する資産をいかなる方法で、子供に遺産として残すか、それとも残さないかを選んでもらったもの。当然回答者の中には現時点で遺産を受け取る立場の年齢の人もいるが、将来そのような立場まで歳をとった場合を想定し答えてもらっている。単身世帯・二人以上世帯それぞれに聞いた結果が次のグラフ。

↑ 遺産についての考え方(択一、2015年)
↑ 遺産についての考え方(択一、2015年)

単身世帯の最多回答は「子供がいない&人生を楽しみたいので財産使い切り」派。一方二人以上世帯≒夫婦世帯では「老後の世話か稼業引き継ぎなどの条件無しに、子供に財産を残したい」派。それぞれ「独り者」か「子供が居る(今は居なくとも将来的な話も含む)」かにより、遺産への考え方が大きく異なってくる状況が良く分かる。要は「残す相手がいなければ手持ちの資産は自分で全部使い切りたい」「残す相手が居ればとにかく残したい」。

「稼業引き継ぎ」を遺産相続の条件に挙げている人はごくわずか。元々引き継ぎが必要な稼業をしている人が少数なのも一因だが、遺産をネタに稼業引き継ぎを「強要」することを是とはしていない。一方で交換条件的に何かを要求する選択肢としては、「老後の世話をしてくれれば遺産を」とする意見が、二人以上世帯で2割近くに達している。子供を持つ親の考え方としては現実的。

気になるのは「子供は居るが、自分の人生を楽しみたいので(遺産は残さず)使い切りたい」との意見の多さ。単身世帯(将来結婚して子供を設けるとの仮定、あるいは諸事情で子供と別居中)はともかく、二人以上世帯でも14.0%が同意している。決して少なくない人がこの選択肢を選んでいる。

回答者の年齢で変わる遺産への考え方

回答者の年齢別に動向を確認したのが次のグラフ。現時点で詳細データは2014年分まで公開されているので、今件項目では2014年分を確認する。

↑ 遺産についての考え方(2014年、単身世帯、択一、世帯主年齢階層別)
↑ 遺産についての考え方(2014年、単身世帯、択一、世帯主年齢階層別)
↑ 遺産についての考え方(2014年、二人以上世帯、択一、世帯主年齢階層別)
↑ 遺産についての考え方(2014年、二人以上世帯、択一、世帯主年齢階層別)

大勢はそれぞれの世帯構成における全体値と大きな違いは無い。一方で詳細を見ると、年齢により考え方に少なからぬ違いが生じているのが分かる。単身世帯の場合、まだ将来結婚をして子供を設ける可能性があることから、「老後の世話をしてくれるならば、子供に財産を残してやりたい」が高めだが、歳と共に減少する。他方、子供は居るが使い切りたいとの回答は、若年層の場合回答者が単身赴任か何かで単に子供と一時的に離れている可能性が高いため少数だが、歳を経るに連れて別居状態が継続している場合が多くなるため、値が高くなる。

二人以上世帯の場合は、子供が同居している場合が多々あり、また自身の体の衰えを実感することも合わせ、「老後の世話をしてくれるならば、子供に財産を残してやりたい」が歳と共に上昇する(20代で高めに出るのはイレギュラーだろうか)。他方、「老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐかなどに関わらず、子供に財産を残してやりたい」は歳と共に確実に減り、70歳以上になると3割を切る。「老後の世話」の増加と合わせ、歳を重ねて自分の衰えを実感するに連れて、遺産を世話のための交換条件・材料とする思惑が強くなる様子がうかがえる。

よほどの大きな社会状況の変化でも生じない限り、遺産に関する考え方に急変は起きにくい。今件結果が大よそ遺産に関する社会全体の認識と見てよいだろう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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