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独立リーグも有観客試合初日。ユーチューバーが創った「新球団」福井ワイルドラプターズ、雨にたたられる

阿佐智ベースボールジャーナリスト
福井ワイルドラプターズ

 昨日、NPBに続いて独立リーグも有観客試合を開始した。ルートインBCリーグの新生球団・福井ワイルドラプターズの「お披露目」となる福井県営球場でのオセアン滋賀ブラックスとの試合だったが、長梅雨の影響で残念ながら中止となった。

午前中、雨にたたられた福井県営球場
午前中、雨にたたられた福井県営球場

新生球団・福井ワイルドラプターズ

 「今日はできる限り粘ります」

 福井ワイルドラプターズの球団社長・小松原鉄平からのメールを信じて福井市郊外の運動公園にある県営野球場に9時過ぎに到着。先週一週間続き、各地で災害を引き起こした記録的な長雨も昨日だけは一休みし、予報では午後から止むとのことだった。しかし、朝からの小雨は次第に本降りになっていった。

試合前、水浸しになったフィールド
試合前、水浸しになったフィールド

 球場にはすでにこの日対戦する福井と滋賀のメンバーが到着し、アップを始めていた。出迎えてくれた小松原は、「なんとかやりたいですね。昼からは雲がなくなるようなので」と、この日集まってくれるだろうファンを出迎える準備をしていた。

 福井ワイルドラプターズは、今シーズンからBCリーグに参加する新球団である。正確には、昨シーズンまで存在した福井ミラクルエレファンツの後継球団である。ミラクルエレファンツはBCリーグ発足2年目の2008年からリーグに参入、リーグ優勝は経験しなかったが、3回の地区優勝を飾っている。しかし、県人口76万人というスモールマーケットにあって集客に苦戦、2年目シーズン途中には早くも運営会社が破綻してしまう。その後は、地元新聞社の出資した新会社の下、球団運営がなされ、ポストシーズンにも6回進出するが、観客動員の低迷には歯止めがかからず、それに伴いスポンサーも撤退、昨年シーズン終了後、ついに親会社の新聞社が球団経営を断念した。

 リーグにとってはそれはまさに青天の霹靂であった。昨年までリーグ事務局のスタッフであった小松原社長は言う、

「シーズン終了後は、次年度もやるという話で、選手との契約の話もしていたみたいですから。リーグとしても、もう2020年シーズンへ動き出していますからね」

 リーグの出した結論は、「球団存続」だった。新たな出資者を募り、新運営会社を立ち上げ、福井球団存続へ舵を切ったのだ。それは成功し、新たな出資者2人を確保し、新会社が立ち上がった。

 新オーナーのひとりは、人気野球ユーチューブ「トクサンTV」を運営する青年実業家、もうひとりも東京で事務所を開業している若手弁護士だった。しかし、東京を拠点として活動しているふたりは球団経営に専念するわけにはいかない。そこで、リーグは事務局スタッフの小松原を社長として「差出し」、新運営会社をスタートさせた。

 新会社は、チーム名も「ワイルドラプターズ」と改め、ここに新聞という旧メディアからウェブメディアという新メディアへの球団譲渡が行われることになった。新生「ワイラプ」は、30代から40代初めという若手経営者によって船出することになった。

無情の中止と将来への希望

 「ユーチューバーが始めたプロ野球球団」という壮大な実験は、チームに化学反応をもたらした。シーズン前から新球団は、ユーチューブによるチーム紹介を開始、これに触発されてか、選手たちも積極的なSNSでの発信を行うようになった。BCリーグ7年目で今シーズンからコーチ兼任となった荒道好貴もフェイスブックやツイッター、インスタグラムで積極的にチームや自分の日常を発信しているひとりだ。

「球団から指示されているわけではないですけど、発信する意識は高まりました。昨年までもSNSはやっていましたが、それは個人としてやっていたという感じでした。今は、球団や自分のことをできるだけ多くの人に知ってほしいという意識ですね」

 子供の「将来なりたい職業」の上位にユーチューバーがランクインするこの時代、野球イベントでは、現役日本人メジャーリーガーより同席した野球ユーチューバーの方が子供たちの反応がいいという「逆転現象」も起こっているという。ある意味、そんな時代の象徴といっていい、「ワイラプ」の船出であるのだが、現実は球団ユーチューブチャンネル、スポンサーとも期待したほどの数字を挙げているとは言えない状況だという。

雨天中止が決定したが、球場には熱心なファンが足を運んでいた
雨天中止が決定したが、球場には熱心なファンが足を運んでいた

 そういう意味では、この日からの有観客試合は、出直した球団が地元ファンの支持がどれくらいあるのかの試金石になるものだったが、残念ながら、予報とはうらはらに強くなる雨足に、試合開始2時間前の11時には中止が決定となった。球団側の思いとはうらはらに、球場側が使用にGOサインを出さなかったのだ。皮肉なことに中止決定直後に雨は止み、日差しさえ覗くようになったが、両軍の選手たちはスタンド内の室内練習場とスタンド前の広場で昼過ぎまで体を動かして解散となった。

皮肉なことに試合前には雨も止み、フィールドの水もひいていた
皮肉なことに試合前には雨も止み、フィールドの水もひいていた

 

 残念ながら地元ファンへのお披露目は後日に持ち越しとなったが、球場には熱心なファンも訪れ、グッズの購入やファンクラブへの入会手続きをしていた。選手たちも常連ファンの姿を見つけると、今シーズンの健闘を誓うため歩み寄っていた。

 ウェブメディアとの融合を模索し、マーケットを全国に広げようとする「ワイラプ」だが、独立リーグの根本理念である「地域密着」も忘れてはいない。練習後は、地元球児たちに呼びかけるべく、全員集合の動画撮影を行っていた。

福井の青少年たちにエールを送る「ワイラプ」のメンバーたち
福井の青少年たちにエールを送る「ワイラプ」のメンバーたち

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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