「トランプ大統領誕生」や「ブレグジット(EU離脱)」が起きなかった日本における地方創生の意味
総選挙が終わりました。
結果はご存じの通りですが、当初は異なる結果を予測する声もありました。与党優勢という報道が流れるようになってからも、メディアの方から「それでも今回は分からない」と聞くことがありました。
その背景には、昨年11月のアメリカ大統領選挙や、その半年前にイギリスで行われた、EUに残るか離脱するかの国民投票の結果が、トランプ大統領とブレグジット(離脱)の勝利に終わったこと、そしてそれをメディアが予測できなかったことがあったと思われます。
アメリカやイギリスのメディアが、中央(大都市)目線になってしまっていて、国内(地方)に違う声があることを理解していなかったのではないか。格差などが原因で、社会が分断され、両極化していることを軽視していたのではないか。
そういったことを指摘すると同時に、日本でも同じことが起きているかもしれない、という危機感が「それでも今回は分からない」というつぶやきを生んでいたのでしょう。
そうはならなかった日本
しかし、日本はそうはなりませんでした。
アメリカやイギリスでは、地方票の動きがトランプ大統領とブレグジット(離脱)の勝利を生みましたが、日本のこの総選挙で各党が獲得した議席数を見れば、むしろ都市部で野党が善戦しています。
新党は都市型政党が多い、都市部の方が議席の変動が大きい、といった分析はこれまでいくつもなされていますし、そもそも移民の受け入れが欧米の社会問題の要因となっている面もあり、今となってみれば、日本ではいらぬ心配だったのかもしれません。
でも、それで済ませてしまっていいのでしょうか。
中山間地域にいると、「満員電車ゼロ」と言われても、「電車に乗っている人が少ないから、電車が満員になったらうれしいくらいなんだけど」とか「そもそも電車なんて通ってないし」というのが周囲の声でした。
一方で、「トリクルダウンって実感ないよな」「このままだとやっぱり先行き暗いんじゃないかな・・」という声も聞かれます。
話していると、「地方は変わらない」「変化を求めていない」のではなく、諦め気味になっているだけ。明るい見通しが持てない分、本当によくなるのなら(本当に変わるなら)いいけどそうは思えないからやめておこう、という人が多いと感じます。
そんな地方の気分は、選挙報道では必ずしも十分には扱われていませんでした。
地方創生で日本の分断を回避する
地方創生に対する批判の中には、都市部で稼いだお金を地方で無駄に使っているとか、そのせいで都市部住民が得られるはずの利益が地方住民に奪われている、といったものもあります。
これは、稼ぐ都市部にぶら下がる地方という国の姿をイメージしていて、突き詰めていけば、都市と地方の対立・分断につながりかねません。
しかし地方創生により、そうではない日本の未来像を描ける可能性があります。
まずは、東京をはじめとする都市は、地方からの人材流入等で成り立っていて、地方が衰退すれば都市も衰退すると認めること。つまり、都市は地方に支えられてもいて、いずれも日本には必要なのです。
また地方の経済的強化によって、都市は稼いだ果実を自分たちのために使うことができるようになります。それを実現するためには、都市部に多い情報や技術、あるいは新しい発想、ビジネスマインドといったものを地方に取り入れることが有効なので、都市と地方の価値観が出会うことにもなります。
国は地方創生を進めるに当たって、全国一律の施策や短期的に成果を求める従来手法の限界を認め、地域特性に合わせた独自の施策を試行錯誤しながら進めていく手法に転換しています。それぞれの地域がそこにしかない独自の魅力を発揮して、多様な日本社会を形づくっていくことが目指されているのです。
しかも、護送船団方式はやめて、やる気のある自治体を応援する、と明確に打ち出している(その姿勢は交付金の交付額などに表れています)のも、これまでとは違う本気度を感じます。
都市と地方が対立し国が分断されることを回避して、全体としての日本の未来像を新しくつくっていく。
それがこの総選挙後に改めて見直すべき地方創生の意味ではないでしょうか。