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東京パラリンピック延期を受けて。「強い意志」と「勇気」のあるパラアスリートたちの声

瀬長あすか障がい者スポーツライター/健康系編集ライター
東京パラリンピック開幕までの日数をカウントする時計は再び「511」と表示された(写真:アフロ)

3月30日、東京オリンピック・パラリンピックの新たな日程が発表された。パラリンピックは、2021年8月24日(火)から9月5日(日)。通例どおり、東京オリンピック閉幕の約2週間後に開幕し、元の日程と同様に日曜日にフィナーレを迎える。

2020年夏に実施されるはずだった東京2020パラリンピックにターゲットを定めていたアスリートにとって、トレーニング計画の見直しやコンディション調整をはじめとする幾多の困難が待ち受けているのは言うまでもない。

そんな選手たちは、大会の延期が発表された24日以降、自身のSNSなどで変わらぬ勝利への気持ちや競技への思いを語っている。ポジティブな発言が多い一方、目標としていた試合が一度はなくなったことで「悲しい」と正直な気持ちを明かしているものも少なくなかった。

金メダル候補も決意新たに

世界の金メダル候補たちのコメント(抜粋)を紹介したい。

リオ2016パラリンピックで初出場ながら銀メダル2個を獲得し、昨年の世界パラ陸上競技選手権大会でも400mと1500mの2種目を制している佐藤友祈(T52/30歳)は、延期発表から1週間というスピードで新たな開催日程が発表されたことを喜ぶ。

この日、「ピーキングをし直すという明確な目標ができたので良かった」とコメントし、新型コロナウィルス感染拡大の終息を願った上で「笑顔で(リオから)5年間のハイパフォーマンスをお見せできるようにします!」と力強く宣言した。

なお、佐藤は延期が決まった直後から「今年にできないと言うことはとても悲しいけど、世界の現状を考えるとこれがマストかな。東京パラリンピックでの金メダル獲得、世界新更新に向けて突き進みます」と決意を新たにしていた。

また、佐藤を含めた3人の有力選手を抱える株式会社グロップサンセリテのパラ陸上部「WORLD-AC」は24日、1年程度の延期を受けて「我々の活動にも大きく影響が出ると考えており、ピークパフォーマンスにおいても多少の変化はあるかもしれません。しかし、そういった事を乗り越える事も、我々アスリートには必要な試練であり、この準備期間が延びたことを逆に強みとして、更なる高みを目指し、変わらない活動を続けていく所存です」(選手兼監督松永仁志)とコメントを発表している。

世界のスター選手たちも発信

ロンドン、リオの陸上競技金メダリストで、走り幅跳びでオリンピックのメダリストに匹敵する記録をたたき出しているドイツのマルクス・レーム(T64/32歳)は24日、「東京2020パラリンピックが延期になった。アスリートとしては、解放されたような、同時に悲しいような……でも本当に正しい決断だ」とコメントしている。

レームと同様の気持ちを明かしたのが車いすフェンシングの注目選手である、イタリアのベアトリーチェ・ヴィオ(23歳)だ。リオパラリンピックでは初出場ながら個人(フルーレ/カテゴリーB)で金メダル、団体で銅メダルを獲得、東京パラリンピックでは個人と団体の両方で金メダルを獲りたいと話していた。その大会の延期について「東京パラリンピックを長い間待ち焦がれていた。トレーニングや予選などの時間がリセットされ、私としてはとても残念だが延期は正しい判断」と24日、コメントを発表している。

また、車いすラグビーでパラリンピック3連覇を狙う、オーストラリアのライリー・バット(30歳)は25日、「あと18ヵ月、ハードなトレーニングを積むつもり。東京パラリンピックがとても楽しみだ」と前向きに話し、自宅待機という状況の中、自宅のガレージ前でトレーニングをしていると近況を明かした。

地元選手も安堵の声

日本選手にとっては自国開催の大舞台が「中止」という最悪の事態を免れたことで安堵感を口にする選手も多い。

パラリンピックでカヌー競技が行われる江東区で生まれ育ち、すでに東京パラリンピック日本代表の内定を得ている瀬立モニカ(KL1/22歳)もそのひとりだ。

「中止ではなく延期という結果になったこと、嬉しく思います。約1年延期になったとはいえ、東京パラリンピックが地元開催という点は変わらない事実なので、そこに向けて最高のパフォーマンスを出せるよう精進します」と29日、決意を語り、2021年の夏にはさらにレベルアップした姿を見せると誓っている。

2021年夏に見たい“パラリンピックの価値”

ところで、IPC(国際パラリンピック委員会)が掲げている“パラリンピックの4つの価値”をご存じだろうか。

IPCはパラリンピアンたちに秘められた力こそが、パラリンピックの象徴であるとしており、「勇気」「強い意志」「インスピレーション」「公平」の4つが重要とされる。

そのうち、「勇気」は“マイナスの感情に向き合い、乗り越えようと思う精神力”、「強い意志」は“困難があっても、あきらめず限界を突破しようとする力”と定義されている。

施設の閉鎖や外出の自粛で練習すら満足にできないこの状況は、障がいのあるアスリートにより重くのしかかっている。しかし、困難に打ち克つ精神こそ、日本の、世界のパラアスリートの持つ武器といえるのではないか。2021年の夏、選手たちがパラリンピックの価値を体現してくれる姿を、東京で目撃したい。

障がい者スポーツライター/健康系編集ライター

1980年、東京都江東区生まれ。大学時代に毎日新聞で記事を書き、記者活動を開始。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、2004年のアテネパラリンピックから本格的に障がい者スポーツ取材をスタート。以後、パラリンピックや世界選手権、国内のリーグ戦などに継続的に足を運び、そのスポーツとしての魅力を発信している。一方で、健康関連情報のエディター&ライターとして、フィットネスクラブの会報誌、健康雑誌などに携わる活動も。現場主義をモットーに、国内外の現場を駆け回っている。

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