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小池都知事「できるだけ」連発で報道陣から質問殺到 吉村府知事との違いは?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

以前から気になっていた小池都知事の言い回しを今回は詳しく考察しました。というのは、連休前の7月22日の記者会見が特別にわかりにくく、報道陣もうろたえている様子がひしひしと伝わってきたからです。同じ日に行われた菅官房長官や大阪の吉村府知事とも表現を比較します。

菅官房長官「体調が悪い人は外出を控えて」

7月22日午前の官房長官記者会見で、菅官房長官が繰り返した言葉は「リスクをゼロにすることはできない、コントロールしながら社会生活を段階的に引き上げていく」。これは正論です。リスクマネジメントの専門家視点からすると、「リスクはゼロにはできない」は定着した考え方で、「リスクの保有」ともいいます。リスクはゼロにするのではなく、コントロールして前に進むのがリスクマネジメントです。外出については官房長官は、「体調が悪い人は外出を控えてほしい」「気を付ければ外出してよい」とシンプルでわかりやすい。ただ、相変わらず無愛想で伝えたいという意志が希薄なので見ているだけでため息が出てしまう残念さです。大好きなパンケーキを食べる時の笑顔はこの場合は必要ないですが、もう少し眉毛を引き上げたり、目力を使う、ゼスチャーを使うなど力強く訴えてくれれば報道陣の意欲を掻き立てるのではないでしょうか。

小池都知事「外出はできるだけ控えて」

一方、同じ日の午後に会見を開いた小池都知事。「できるだけ外出しないでほしい」と言いつつ、「感染防止宣言をしているお店を選んでほしい」と並列でしたので、どちらがメインメッセージなのかがわかりにくい会見でした。詳しく見てみます。

記者1

「今日、菅官房長官、午前中、あくまでも体調の悪い人なんだというふうな限定つきの言い方をしているんですが、やはり戸惑うのは都民だと思います。都民に関しては都知事、小池都知事が先ほどおっしゃった、極力外出は控えてほしい、こちらの方を守っていただくということでよろしいんでしょうか」

この質問に対して都知事は、

「心は同じでございますが、ただ、やはり東京の場合は陽性者数も多く、また、今日もこうやってモニタリングでも、なかなか厳しい状況にあり、改めてこの感染拡大警報を、もう一度申し上げたような状況でございます。言うまでもなく、特にご高齢の方や持病をお持ちの方々の重症化率が高いというリスクがありますので、そこは特に大きな声で申し上げているところでございます。

そして、外出される際は、できるだけ、できるだけではなくて、ガイドラインを守らないお店は避けてくださいとまで申し上げているわけでありますので、利用者、事業者両方が連携しながら進めていきましょうということであります。よって、外出される際は、3つの密を避けることなど、マスクの着用、手指消毒も基本中の基本ですけれども、お店を選ぶ際の基準といいましょうか、目印として、ガイドラインを守っていないお店は、基本的にステッカーが貼っていないということですから、それを明確に今回改めて申し上げたわけでございます。

これを今、4万4000件と申し上げましたでしょうか、協力金を支給させていただいたのが11万件にわたるわけでございますけど、それをベースにしましてもまだまだであります。ここは、一気呵成に皆様方のご協力を得て進めていくということで、期限を切って7月31日(金曜日)ということも強く申し上げてきているわけでございます。ぜひともここは、都民、事業者の皆様方両方が心を1つに、対応を引き続きお願いしたいと存じます。」

「心は同じです」「特に大きな声で申し上げているところでございます」が混乱に拍車をかけます。政府は基本方針を示し、首長は具体的な行動指針を示すことが求められていますが、どうにもこうにも「できれば」の言葉が曖昧なのです。ステッカーのある店を選んでほしいというのが今回の会見の目玉なのか、その話を挿入してさらに長々と説明しているので、何を言いたいのか意味がよくわからなくなっています。「高齢者や持病のある方は外出を控えてください。体調がよい方も外出は7月31日まで控えてください」と言いたいのでしょうか。であれば、ステッカーのアピールには何の意味があるのでしょうか。ここに納得をしなかった、別の記者が質問を続けます。

記者2

「今の質問に関連して伺います。会見で、外出は、できれば、できるだけ控えていただきたいとおっしゃったのですが、もう少し詳しくご説明いただきたいんですけれども、要はこれ、全都民に対して不要不急の外出を(控えるように)呼びかけているという認識になるんでしょうか。知事の認識として、できればできるだけ控えることに当たらない事例というのはどういうものかというのは、何かありますでしょうか。」

「できればできるだけ控えることに当たらない事例というのはあるのか」、この質問の角度は面白く、追い詰め型の質問に見えますが、どうせなら「健康な人も7月31日までは外出を控えてほしいという意味か」と明確に聞いてもよかったのではないかと思います。この質問に対しての都知事の回答は、

「逆に、不要不急ということを申し上げると、何が要で何が急なのかという一つひとつの事例に当たります。それぞれご事情もありましょう。そこは、ご判断もいただくとして、だからこそ、できれば、できるだけ外出はお控えくださいということに集約させていただきました。」

やはり意味がわからない。シンプルに「体調が悪い方は外出を控えてください。体調の良い方が外出した際には、ステッカーのあるお店を選んでください」と言えばよいことではないでしょうか。

記者3

「最初のできるだけの観点の質問で、関連で伺いたいんですけれども、先ほどの説明ですと、不要不急のというと、どれが不要で、どれが不急というのがなかなか難しいということだったんですが、その上で、できるだけ、できる限り避けてほしいということは、それぞれの立場で必ず必要と考えるもの以外はできるだけ家にいてほしいと、つまり不要不急のという3月のときの要請から、別にランクは下げたものではなくて、基本的に同じレベルで、表現は違うけれども、お願いをしたいという、そういうメッセージだと理解してよろしいんでしょうか。」

この質問に対しては、前置きが長く、回答は曖昧でした。

「先ほどのモニタリング会議の結論でございますけれども、東京都としまして、専門家の皆様方の分析をベースに、感染拡大の警報は続いているということを申し上げたわけでございます。ですから、一つひとつの言葉の重さも重要でございますけれども、今、どうやって感染を拡大させないかということでございますし、やはり人流というのも、これまでもずっと見てきているわけでございますが、最近はやはり人流も元に戻りつつあったりいたします。」

とメッセージについての説明ではなく、現状の解説。そして、ステッカーの話に戻ります。

「今は、ちなみに、このガイドラインを守っているか否かの目印になる虹のステッカーの掲示を強力にこの際、進めていきましょうと、お願いしますということを各団体にも申し上げました。」

今回の会見はとにかくステッカーを目立たせたいことはわかりましたが、回答が見えない。最後にようやくそれらしき言葉が出ました。

レベルがどうという話でもありますけれども、レベルは常に感染拡大をいかにして防止していくかの、その1点でございまして、取りようによっては強いか、弱いかあるかもしれません。しかしながら、今は感染拡大を防止するための警報を鳴らしているということ、この事実については変わらないものと思っております。

結局、3月と変わらないレベルであるようにも受け取れる、わからない回答でした。都合の悪い情報について長々説明して、考える時間を作り切り返すといったシーンがしばしば不祥事会見では見られますが、今回は注意喚起の会見であるはず。ステッカーをアピールすることを目玉とした会見にするのであれば、もっとシンプルに伝えた方がアピール力は高まったのではないでしょうか。

吉村府知事「唾液が飛び交う環境を避けて」

同じ日に開かれた大阪吉村府知事と比較すると違いがよくわかります。やみくもな外出自粛の要請ではなく、具体的な行動目安が示されました。用意された言葉は次の通り。

「全ての府民の皆様、3密で唾液が飛び交う環境を避けてください」

「夜の街のお店を利用される方、感染防止宣言ステッカーのないお店の利用を自粛してください」

「高齢者及び基礎疾患のある方、感染リスクの高い環境の施設を避けてください」

「できるだけ」といった曖昧な言葉ではなく、「全ての府民」「夜の街のお店を利用する方」「高齢者及び基礎疾患のある方」と、それぞれのカテゴリーを明確にし、各自の取るべき感染防止行動として求められる内容が明確です。そして、官房長官と同じ言葉を使いました。「リスクをゼロにすることはできない。感染防止のための対策を取りながら進みましょう」。政府が基本方針を示し、首長が具体的な行動の目安を示せた流れとなっています。

危機管理においては、シンプルでわかりやすい言葉が求められます。ステークホルダーの視点に立ち、行動しやすい言葉選びをすることが混乱を防ぐことにつながります。

【参考サイト】

菅官房長官会見 7月22日 午前

https://www.youtube.com/watch?v=fnNjV89hZvU

東京都知事会見 7月22日

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2020/07/22.html

大阪府知事会見 7月22日

http://www.pref.osaka.lg.jp/koho/kaiken2/2kaiken.html

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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