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千賀退団でも競争し烈!ソフトバンク開幕ローテの「大穴」候補は誰だ?

田尻耕太郎スポーツライター
左から高橋礼、武田、田上

 今年、ソフトバンクの先発ローテの戦力構図は様変わりする。

 昨季まで7年連続2桁勝利を飾るなどエースに君臨してきた千賀滉大が海外FA権を行使して米大リーグのニューヨーク・メッツに移籍した。

 だが、大黒柱が抜けても、その穴を感じさせない補強を行うのがソフトバンクという球団だ。

有原、ガンケル獲得の大型補強

 シーズンオフに行ったチーム編成について、三笠杉彦GMは「千賀投手の抜けた先発陣の整備。チームの編成のテーマの1つ」だったと明言。有原航平、ジョー・ガンケルの2人の右腕を獲得した。

有原(右)と和田(左)。早稲田大学の先輩、後輩コンビ
有原(右)と和田(左)。早稲田大学の先輩、後輩コンビ

 有原は日本ハム時代の6年間で通算60勝をマークし、19年には最多勝にも輝いた実力者だ。メジャーでの2年間は右肩故障もあり振るわなかったものの、今春のキャンプでのブルペン投球を見れば、投球フォームのバランスの良さから抜群の制球力の持ち主であることが十分に伝わってくる。やはり、かなりの好投手であることは間違いない。

 ガンケルは昨季まで3年間阪神でプレー。1年目はリリーフ、2年目以降は先発を担って通算16勝を挙げた。通算防御率2.92の安定感は魅力で、年々向上していたのも日本球界に日増しにアジャストしていた証といえる。

開幕ローテ6枠をはみ出す、タレント豊富な先発陣

 また、現有戦力を見ても、千賀と年齢の近い東浜巨(2学年上)や石川柊太(1学年上)という名実ともに柱となれる投手がいる。

石川(左)と東浜(右)。中央は斉藤和巳投手コーチ
石川(左)と東浜(右)。中央は斉藤和巳投手コーチ

 もちろん大ベテランの和田毅は健在。そして若手でも昨季7勝を挙げた大関友久や、終盤戦の大事な時期にローテを任された板東湧梧、昨季はセットアッパーで大活躍して先発転向に挑戦中の藤井皓哉などタレントは豊富だ。

 ここまでにもう8名の投手の名前を挙げており、この中からすでに「開幕ローテ」離脱者が現れるという、激しいチーム内競争が春季キャンプでは現在進行中なのだ。

不測の事態が起きるのがプロ野球、昨年も・・・

 だがしかし、予定調和どおりに事が運ばないのがプロ野球である。

 昨年を振り返っても、まさか4月上旬に、キャンプ中には育成枠だった2年目の田上奏大が先発マウンドに上がるなど誰が予測しただろうか。

 開幕まで2カ月弱。まだまだ何が起きるか分からない。また、藤本博史監督は「テーマは競争」とまだまだ選手たちを煽っている。

 開幕ローテはまだ白紙。大逆転で栄光の座をつかみ取るかもしれない「大穴候補」を挙げてみる。

高橋礼に復活の兆し。新投法がハマる

高橋礼
高橋礼

 19年新人王のサブマリン右腕に復活の兆しだ。このキャンプ、高橋礼のボールに球威がある。第1クール最終日だった5日にフリー打撃に登板。直球が140キロ台をマークした。振るわなかった近年は球威不足を指摘され続けており、その課題の改善が見られたのが大きい。

 高橋礼によれば「フォームの修正というか見直しというか。その改善が球速や出力に表れてると思います」とのこと。

「若干(右)腕の位置も高いのかなと思います。良いときは腕の位置も高くて、ボールも強くて、スライダーも曲がってという感じなんですけど、悪い時は今までみたいにちょっと沈んで、腕の位置が低くて、出力もスピードも出てない。多分そんな感覚だと思うんです」

 ポイントは右のお尻だという。以前までは左太ももの前を“エンジン”にしていたが、それがシーズン終盤の失速ないしは故障に繋がっていたというのを、今年1月の自主トレで学んだ。自主トレは千賀や石川に相談し、米国で一緒に行った。野球動作解析などで知られる「ドライブライン」を訪ねて「正しく理論的に教えてもらった」と成果を口にする。球界で希少性の高いアンダースローは大きな武器。先発ローテに彼が加われば頼もしい存在となるのは間違いない。

好調時の「シンプル」を思い出した武田翔太

ブルペン投球を行う武田
ブルペン投球を行う武田

 近年振るわないシーズンが続いており、今キャンプはB組でのスタート。しかし、ブルペン投球を見るとここ数年に比べて、武田投手らしい力感のないスムーズな投球フォームから、びゅッと力強いボールが投げ込まれているように映った。

「シンプルな形に戻したというイメージです」と武田は言う。思い返せば15年(13勝)や16年(14勝)の頃はそのような感じで投げていた。

 プロ生活を長く続ければ、いろんな知識が入ってくる。もっと上手くなりたいという貪欲さから新たなことにも挑戦する。それは至極当然であり、プロとして必要なことだ。しかし、武田の場合はそれが自身の長所を消すことに繋がってしまっていたようだ。

 2桁勝利を挙げていた頃の「キャッチボール投法」に近い感覚のようだ。打者はタイミングも取りづらく、フォームとボールのギャップに驚くことにもなる。キャンプ中のアピール次第でローテ争いに加わってくる可能性は十分ありそうだ。

投のロマン田上奏大は、千賀も師事した鴻江氏に弟子入り

キャンプでブルペン投球を行う田上
キャンプでブルペン投球を行う田上

 昨年、球団10年ぶりに10代で先発投手を務めた田上奏大。一軍デビューとなったその試合では最速155キロの直球、カットボールや覚えたてのカーブも駆使して5回2/3を無失点。白星はつかなかったが、未来のエース候補誕生にファンは胸躍らせた。

 ただ、昨季一軍登板は2試合のみで白星ナシ。また、昨季終了後に参加したプエルトリコ・ウインターリーグでも序盤好投するものの、終盤に打ち込まれて成績を悪化させた。

 前述の高橋礼のように、理に適わない投げ方をしているのが原因ではないか。

 それを克服するべく、今年1月、とある自主トレの門を叩いた。千賀が育成時代から師事したことで有名なアスリートコンサルタントの鴻江寿治氏が主宰する合宿に知人のつてで参加。人間の体は骨格により大きく2つに分類されるという理論に基づき、その人に合った体の使い方を提唱している同氏の指導の下、やはり田上は「自分のタイプと逆の投げ方をしている」と指摘された。

自主トレ時の田上
自主トレ時の田上

 同合宿にはソフトボール金メダリストの上野由岐子投手も長年参加しており、競技は違えどもレジェンドと一緒に数日間を過ごして刺激と発見の毎日になった。

 春季キャンプはB組スタートだが、ブルペン投球でも手応えを感じているという。藤本監督の口からも「キャンプ中盤以降のA組昇格候補の1人」と名前が挙がっており、まさに鷹投手陣「ロマン枠」の筆頭だ。

(※写真はすべて筆者撮影)

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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