鬼怒川温泉の廃墟ホテル~固定資産税都市計画税の額と、課税の問題点と解決策を探る(前編)
■はじめに
先日、読売新聞(1月9日オンライン配信)、Abema TVのAbema Times (1月6日配信)、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」(1月6日分)等で「鬼怒川温泉のホテルだった建物が荒廃し放置されている」との問題が報道されました。
これらの土地建物についても固定資産税都市計画税(以下、「固定資産税等」とする)が課されますが、その扱いや、その背景にある問題はどうなっているのでしょうか。
ということで、2022年1月13日、現地や管轄する日光市役所を訪問してみました。
■鬼怒川温泉郷とは
まず、鬼怒川温泉について。
鬼怒川温泉は、栃木県西部、旧・藤原町に位置し平成の大合併で日光市に編入されました。古くから都内発の東武線観光特急が走っており、かつては慰安旅行や団体旅行等で大いににぎわっていたらしいです。
しかし、「鬼怒川・川治温泉郷」の入湯者数は減少傾向にあり、日光市観光課の資料によると「藤原地域」の宿泊者数は平成19年が201万人であったのが令和元年は177万人、そしてコロナ禍の令和2年は104万人に激減したとのことです。
それを反映するかのように地価水準も変動しており、鬼怒川界隈の都道府県地価調査基準地「日光5-6」は、昭和56年時点で75,900円/平米、ピーク時の平成4年は2.5倍以上の194,000円/平米まで高騰するも、次の年から毎年下落し続け、令和3年には39,400円/平米まで下落との惨状です。言い換えれば、土地の固定資産税等の税収も下落し続けている結果となります。
■廃墟ホテルの固定資産税等の税額はおいくら?
鬼怒川への鉄道は東武線特急に依拠しますが、JR直通の新宿発着も数本設定されていますので、この特急「スペーシアきぬがわ」で揺られること1時間45分。下今市駅から徒歩10分強の日光市役所を訪れました。
来意を告げ、税務課資産税係のご担当に「一般論に基づく、廃墟ホテルに本来課される毎年の固定資産税等の概算方法」を伺います。
つまり、筆者は廃墟ホテルの所有者ではないので市としても実際の税額は教えることはできません。このため、公表されている情報に基づき、「この計算の仕方で税額を算出する」、いわば税額算定の考え方が妥当か否かをお聞きしました。そして、以下の考え方で概ね正しいとのご返事を頂きました。
ある廃墟ホテルの土地建物の登記(全部事項)を取得すると、令和4年1月11日現在、以下とあります。
〔前提条件〕
■建物の各階面積合計…9,105.66平米(前回増築時からでも約57年経過)
■登記上でその建物の敷地とされる土地の各筆の地積合計…798.1平米(ホテル法人名義)。
2,739.05平米(登記簿上の敷地とされているある筆の面積~個人名義だが、法人の代表と苗字が一致するため実質的にホテル名義同然と推定)との合計で3,537.15平米。
※このほか、敷地とされていないホテル関係者が所有する土地が存在する可能性もあります(共同担保目録にも他の土地が記載されている)が、詳細不明につき考慮外とします。
〔一般的な指標による税額の推定〕
■土地の税額
令和三年度の固定資産税路線価は平米あたり10,900円のため、土地の固定資産税等の概算額は以下となります。
(算式)
10,900円/平米×3,537.15平米→約39百万円…個別補正前の概算土地評価額
約39百万円×70%(調整の掛け目)×税率1.6%(日光市の税率は固定資産税1.4%+都市計画税0.2%)→約43.2万円/年
■建物の税額
実際の評価額は不明のため、令和三年度の宇都宮地方法務局管内の新築建物課税標準価格認定基準表に基づく査定に依拠するものとし、鉄筋コンクリート造のホテルのカテゴリーがないため「新築想定時」の「鉄筋コンクリート造の店舗事務所百貨店銀行」の143,000円/平米とある数字に依拠するものとします。
なお、登記簿上に反映されていない増築がある場合、増築分も課税されますが詳細不明のためここでは考慮外とします。
(算式)
143,000円/平米×9,105.66平米×20%(経年が高いので残価率を20%と判断)×税率1.6%→約417万円/年
実際には、土地について各種の個別補正の余地がある他、建物も実際には各種の補正も考慮して固定資産税等が課されているものと考えられるため、実額とは若干の相違はあるでしょう。
これを見るに、固定資産税等の観点からは、土地への課税は大したことがなく、建物への課税が痛いことがわかります。
資産税係によると、「所有者から固定資産税等の回収ができていない場合、追跡する形となる。ただ、それでも回収できないとなると、最終的には市が損する形」とのことです。
仮に支払い義務を果たさず、未払が累積している場合は、累積分が納税者にとって債務となるので、累積している年数が長いほど高額になる…ということも考えられる状況と言えるでしょう。
さらに、政策推進課でも話をお聞きしました。
「鬼怒川対岸の営業しているホテルのお客さんからも苦情があり、苦慮している」ものの「国や県からの補助金を見込んだとしても、市の財政が厳しいため解体費用を捻出できないので、行政代執行もできない」とのことです。
仕方がないので、「不法侵入者対策でパトロールを強化しているほか、国や県、さらには宇都宮大学と共同研究し課題の洗い出しをしている」とのことですが、当面の廃墟ホテル対策の決め手はないようです。
後編では、現地の状況等を書きたいと思います。
※この記事の写真はすべて公道もしくは駅のホームから筆者が撮影しており、筆者は不法侵入はしていません。
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