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『やすらぎの郷』あくどい横領を行う悪徳プロデューサーに気をつけろ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送 BS朝日 朝7時40分〜)

第10週 53回 6月14日(水)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:唐木希浩

菊村が知らないことだらけ

まず、小春(冨士眞奈美)が涙、涙で〈やすらぎの郷〉から去っていく52話の振り返りがあって、「私は全く知らなかった」とまたしても石坂浩二(菊村栄役)の知らなかったモノローグ。

さらに、15分語の締めも「その頃、やすらぎの郷で新しいドラマがはじまっていたことを、私たちはまだまったく知らなかった」で、菊村栄、知らなすぎ! だ。

もちろん、〈やすらぎの郷〉全体の出来事を把握できるわけもなく、主人公のモノローグで状況を説明するスタイルとはいえ、その場に立ち会ってないことを、まるで見たかのように説明してしまえば、菊村栄は空間移動できる超人みたいなことになるので、「知らなかった」にするしかない。

芸能界の裏側

こうして、石坂浩二がひたすら傍観者としての役割を全うしているなかで、ここ数回は、詐欺事件を調べている警察署長・溝口(布施博)が、部外者の立場で、〈やすらぎの郷〉の住人たちの特異さを客観視する役割を担っている。石坂金田一における、加藤武演じる等々力警部(ほか名前はそのつど変わる)みたいなものか。

49話では「かつて名を売った有名な方々が静かに余生を送っておられる 桃源郷のようなところかと思っておりましたがやっぱりいろいろあるンですなぁ」と語り、53話では、詐欺師・石上(津川雅彦)の件で、「一見、華やかなテレビ界の中にもいろんな奴が住んでいるンですなぁ」と発言した。

アメリカから日本に小春(冨士眞奈美)を連れてきて姥捨てしてしまった石上(津川雅彦)は、かつてBテレの大物プロデューサーではあったものの、そのときも悪徳で、あくどい横領を行っていたらしい。

まだまだ問題は続く

石上が狙った、及川しのぶ(有馬稲子)の隠し口座の存在は、やすらぎの郷の理事(名高達郎)たちを落胆させた。やすらぎの郷に、全財産を申告していなかったということは、「うちを深いところでは信じてなかった」とショック。だが、みどり(草刈民代)の父で、この施設の創設者・加納英吉は「人はすべからくそういうものだ」と語ったという。さすが芸能界のドン。

この台詞も深かったが、釣りをしながら、釣りと夢を掛けて語り合う、菊村と大納言(山本圭)とマロ(ミッキー・カーチス)の3人。それはやがて、臨死体験の話に及び、「死ぬより生きる方が苦しいンだ」というマロ。老いるとよけいに、生きることが苦しくなっていく気がする。

そして、前述した、「その頃、やすらぎの郷で新しいドラマがはじまっていたことを、私たちはまだまったく知らなかった」(菊村)。

54話はかなりショッキングな話になりそうだ。

月から金でエピソードをひとまとめにしないで、週またいで、火曜日にエピソードをひとまとめし、水曜日から新展開という構成は、週帯ドラマでは新鮮だ。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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