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シリアのアサド大統領はトランプ氏の勝利を示唆:「ゼレンスキーの制裁が原因でメンタルケアを受けている」

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2024年3月3日

シリアのバッシャール・アサド大統領は3月3日、ロシアのソロヴィヨフ・ライブTVチャンネル(司会ウラジーミル・ソロヴィエフ)の単独インタビューに応じた。

ソロヴィエフの質問はロシア語で行われ、アサド大統領はアラビア語でこれに答えた。

インタビューは、ロシア国営のロシア1テレビ、生配信プラットフォーム・スモトリムで放映された。またシリア国営のSANA(シリア・アラブ通信)もインタビューの映像を配信するとともに、アラビア語全文を掲載した。

アサド大統領はインタビューのなかで、イスラエル・ハマース衝突については、「パレスチナの問題について話すことなくガザについて話すことはできない。ガザの国民、パレスチナの国民について話すことなく、ガザのハマースについて話すことはできない。10月7日に起きたことを、1930年に起こり、今日まで続いていること抜きに話すことはできない」と述べた。

また、西側諸国との関係を通じて得られた教訓は何かとの問いに対して、「自らの国益や原則を守ろうとすると、おそらく代償を払い、苦しむことになる。おそらく短期的には敗北を喫する。だが、長期的には、勝ち取るものがある。国民統合を勝ち取るだろう。それから状況は変わり、自らの祖国において望んでいるすべてを勝ち取る」と述べた。

一方、西側諸国の政治システムについては「売買のシステムで、共通の利益に基づいてはいない」としたうえで、西欧諸国を同盟者ではなく、従属者とみなす米国が、ロシアを認めることも、強国になることも許すはずないと断じた。

シリアやロシアに制裁を科す西側諸国の姿勢については、「西側は滑稽で愚かだ…。対象を拡大し続け、いずれは、西側そのものが包囲されることになるからだ」と予見した。

また、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が2023年4月にアサド大統領を含むシリアの400以上の個人・団体の資産を凍結する政令を施行したことについて(「シリア・アラブの春顛末記」2023年4月8日付を参照)は、冗談交じりに次のように答えた。

あの時以降、私はとにかくメンタルケアを受けている。
それ(ゼレンスキー大統領がアサド大統領個人に制裁を科すと決定したことで笑えること)は良いことだ。なぜなら、彼は基本的にはピエロだ。大統領になる前の役柄がそれだった。彼は、大統領になった時、この方面、つまりコメディー界で、俳優時代以上の成功を収めた。

最後に、11月に予定されている米大統領選挙に関連して、ジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領のいずれが勝つのかとの質問に対しては、次のように答えた。

メディアや統計での数字は、トランプが勝つと言っている。だが、我々にとっては常に、米国の大統領は似たり寄ったり、経営責任者に過ぎない。どちらが大統領になっても政策を策定しない。誰が真の政策を立案しているのかを問わねばならない。その人物は、勝利する方の背後に隠れて活動している。ロビー、メディア、資本、つまり銀行、武器、石油。いずれにしても勝利するのはまさに背後にいる者なのだ。

演説の全訳については「シリア・アラブの春顛末記」2024年3月3日付を参照されたい。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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