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岸田新総裁選出を韓国のメディアはどう伝えたのか? 速報で伝えた韓国メディアの「論調」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
自民党総裁に選出された岸田文雄次期首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 隣国・日本の次期総理を決める自民党の新総裁選出は韓国でも関心の的となっており、韓国のメディアは昨日、岸田文雄新総裁選出をいずれも速報で伝えていた。当然、その多くが日韓絡みで伝えていた。

 韓国を代表する通信社である「聯合ニュース」(「岸田は自民党のハト派・・・安倍政権下で『韓日慰安婦合意』を主導」)は「岸田は日帝徴用労働者と日本軍慰安婦など韓日葛藤、懸案では既存の日本政府の立場をそのまま維持するものとみられるが、菅政権の時よりも韓日対話と水面下の接触が増えるかもしれないとの観測もある」と伝えていた。

 韓国放送会社「KBS」(「日本の第100代総理に岸田・・・来月4日に就任」)は「岸田は保守右派の傾向が強い自民党内では穏健派に分類されており、安保分野でも韓国との協力が重要であることを強調してきた。しかし、日本軍慰安婦問題に関しては韓国が約束を守っていないと主張している安倍―菅政権の路線を継承するものとみられる」と岸田政権になっても日韓関係に変化はないとの主旨の報道をしていた。

 全国放送である「MBS」(「安倍―菅路線を継承・・・韓日関係改善は不透明」)は「岸田は自民党内では穏健派性向と知られているが、基本政策の方向で安倍―菅政権とさほど変わらないようだ。戦争と軍隊保有を禁じている平和憲法の改定を推進し、米国との同盟関係を強化し、中国に対して強硬な政策を維持するものとみられる。特に日本軍慰安婦や強制動員被害者など韓日歴史問題では安倍―菅政権の路線を継承するものと展望されている」と「KBS」と同じ見方だったが、「但し、韓国との安保協力など韓日関係の重要性を強調していただけに首脳会談の可能性は注目しても良いかも」と、「聯合ニュース」と同じスタンスの報道だった。

 韓国3大ネットワークの一つである「SBS」(「日本の総理に『慰安婦合意』の岸田・・・韓日関係への影響は?」)は「岸田新任総裁は自民党内では比較的に穏健派と分類されている人物ではあるが、安倍路線から大きく離脱することはないとの展望が優勢である」として、「直ちに韓日関係改善に積極的に乗り出すようことはなさそうだ」と「KBS」と同じ見方だった。

 では、新聞はどう報じたのだろうか?

 最大部数を誇る保守紙「朝鮮日報」「日本 新総理に岸田元外相・・・韓日慰安婦合意を主導」の見出しの下、岸田氏が自民党総裁に選出されたことだけを客観的に伝え、日韓関係については一切触れていなかった。

 同じ大手保守紙の「東亜日報」「自民党穏健派岸田は極右団体にも所属・・・日本はどこに向かう」と題する記事で「(岸田氏は)自民党の派閥の中では比較的に穏健派に属する岸田派の領主であるが、多くの自民党議員らと同じように安倍政権を支援した極右団体の『日本会議国会議員懇談会』に属している。こうした点から対内外政策は事案により穏健政策と極右的な政策が混在するものとみられる」と岸田氏が日本会議国会議員懇談会に所属していることを伝えていた。

 保守紙の「中央日報」は同紙解説者の「岸田新総理・・・やはり後進日本政治」と題するコラムを載せ、自民党が「変化」の河野氏ではなく、岸田氏を選んだのは「日本の保守性、悪く言えば、後進性をそのまま見せつけている」と断じ、従って「韓日関係も大きな変化はないだろう」として「青瓦台が29日に『未来志向的関係発展のため協力しよう』と呼び掛けてもボスに忠実なスタイルの岸田がボス(安倍元総理)の反対を押し切って日韓合意を結んだのにそれを破棄した文政権の『未来志向的協力』提案を受け入れるだろうか?」と、関係改善の限界を指摘していた。

 中立紙「韓国日報」は「岸田、対中強硬など安倍路線を維持・・韓日関係の大改善は困難」の見出しの下、日韓関係に関して「岸田新任総理は日本軍慰安婦や強制徴用訴訟では『韓国政府が解決策を出すべきである』と強調してきただけに大きな変化を期待できない」と、日韓修復の見通しを悲観的に見ていた。

 新聞では岸田新総裁誕生との関連で社説を出した新聞もある。そのうち2紙は政府系の「京郷新聞」と「ハンギョレ新聞」。もう一紙は経済紙の「韓国経済」である。

 「京郷新聞」(「日本 新総理に穏健派の岸田 韓日関係の転換点を期待する」)は以下のように日韓関係改善を呼び掛けていた。

 「我々の関心は日本の新政権発足が韓日関係の転換点になるかどうかだ。現状では岸田が率いる次期日本政府下で韓日関係が大きく改善される可能性は高くない。岸田は慰安婦と強制徴用など過去史問題では批判的な立場を取ってきた」

 「日本はこの期間、(日本企業の)資産売却を通じた現金化は韓日関係のデッドラインとすべきと公言してきた。韓日関係を一層悪化させる悪材が横たわっている。今後福島原発汚染水海洋放出、日本の輸出規制など両国が解決すべき懸案に否定的な影響を及ぼしかねない。しかし、韓日関係をこのままにさせておくことはできないと言う点では両国政府とも共感している。岸田政権の発足に際して両国政府が新たな気持ちで硬直した関係を解く必要がある。岸田は自民党内では穏健派に分類されている。全ての可能性が開かれている。来月4日に総理就任の記者会見で韓日関係改善にプラスになるメッセージが発信されることを期待する」

 「ハンギョレ新聞」「岸田 日本新総理に選出 韓日関係のリセットの契機に」の見出しを掲げ「今こそ、両国は共に突破口を見出すべきである。岸田政権が韓国に対する報復的半導体輸出規制を解き、強制動員・慰安婦被害者らに対する謝罪と賠償に前向きな立場を示してもらいたい」と岸田新総裁に注文を付ける一方で、韓国政府に対しても「我が政府も日本の新総理選出を機に韓日関係改善のため積極的な外交を行ってもらいたい。米中『新冷戦』で国際情勢が大転換を迎えている時に隣国である韓国と日本が歴史問題を巡る異見を中長期的に解決しながら、外交・安保・民間交流を通じて協力の道を探し出せるよう知恵を発揮すべき時である」と、文在寅政権にも積極的な対応を求めていた。

 「韓国経済」(「岸田総理の時代 両国関係改善が遅れれば誰もが損するだけ」)は「日本に対する好感度が多少高まっているとの世論調査結果が最近出た。関係改善が遅延すれば、『反日惨事』「嫌韓惨事』で票集めする政治家以外は両国国民、企業にとって損害である」として「日本の新総理選出を機に国益を害する低級な政治から脱皮することを期待する」と、これまた両国政府に関係を修復を呼び掛けていた。

 韓国メディアは日本の新政権発足による関係修復に期待を寄せているものの岸田新政権下でも困難との見方で一致していた。なお、ほとんどのメディアが文中で岸田氏に敬称を付けていなかった。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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