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ガザ地区への攻撃を再び激化させるイスラエルがシリアを爆撃、イラン人2人が初めて死亡

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

イスラエルは12月1日早朝、カタールの仲介によってパレスチナのハマースと合意していた戦闘休止の終了を宣言、ガザ地区に対する攻撃を再開した。

ハマースが運営するガザ地区の保健省によると、12月1日と2日の攻撃で190人以上のパレスチナ人が死亡した。ガザ地区第2の都市であるハーン・ユーヌス市にも拡大したイスラエルの攻撃はさらに激しさを増すことが予想されるが、戦闘は、「北部戦線」などと称されるイスラエル北方のレバノンやシリアにも及んでいる。

戦闘休止合意が発効した11月24日以降、レバノン・イスラーム抵抗(ヒズブッラー)、イラク・イスラーム抵抗(イラク人民動員隊の急進派)、イエメンのアンサール・アッラー(蔑称フーシー派)、そしてシリアは、イスラエルとの戦闘を回避してきた。

この間、イスラエルは11月26日にシリアのダマスカス国際空港(ダマスカス郊外県)を爆撃し、利用不能に追い込んだ。また、11月29日には、所属不明(米軍と見られる)無人航空機(ドローン)1機が、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸に飛来し、イラク国境に面するダイル・ザウル県ブーカマール市近郊で軍用車輛1台を爆撃、4人を殺害したのだ。

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この間も「抵抗枢軸」、あるいは「イランの民兵」と称されるこれらの組織、そしてシリア軍は、反撃を控えてきた(ただし、イスラエル軍はレバノン領内からの散発的な攻撃はあったと主張している)。だが、イスラエルによるガザ地区への攻撃再開を受けて、戦闘を再開した。

レバノン南部・イスラエル北部では、レバノン・イスラーム抵抗が、12月1日の午後から境界地帯に展開するイスラエル軍の陣地や兵舎などへの攻撃を再開、イスラエル軍も空爆や砲撃で応戦した。

一方、シリア東部では、クルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)の実効支配下にあるハサカ県のシャッダーディー市に米軍が違法に設置している基地一帯が砲撃を受けた。砲撃は、イラク・イスラーム抵抗によるものと見られる。だが、同組織は今のところ実行声明を出してはいない。

そして、レバノン南部・イスラエル北部とシリア東部での「抵抗枢軸」の戦闘再開と前後して、報復合戦も再開された。

シリア東部では、12月1日、所属不明のドローン1機が午前、先手を打つかたちでブーカマール市のコルニーシュ地区にある「イランの民兵」の指揮所1ヵ所を爆撃、これにより激しい爆発が発生した。

また、シャッダーディー市の米軍基地が砲撃を受けると、所属不明のドローン1機がシリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県マフカーン町近郊の砂漠にある「イランの民兵」の陣地2ヶ所を爆撃した。

イスラエルもシリアを執拗に攻撃した。

シリア国防省によるとイスラエル軍は12月2日午前1時35分頃、占領下ゴラン高原方面から首都ダマスカス一帯の複数ヵ所をミサイル攻撃したのだ。

ロシア当事者和解調整センターの発表によると、ミサイル攻撃は午前1時33分から午後1時39分の約6分にわたり、イスラエル空軍の4機のF-16戦術戦闘機が行った。

シリア国防省、そしてロシア当事者和解調整センターは、シリア軍防空部隊がロシア製のパーンツィリS1近距離対空防御システムとBuk-M2E自走式中距離地対空ミサイルシステムで迎撃、ほとんどのミサイルを撃破し、シリア軍側に死傷者はなかったと発表した。

だが、イランのタスニーム通信は、イラン・イスラーム革命防衛隊が12月2日、モハンマド・アリー・アターイー・ショルジャとバンナー・タキー・ザーデの2名がシリアでの顧問としての任務中にイスラエルによって殺害されたと発表したと伝えた。

ハマースの「アクサー大洪水」作戦とイスラエルのガザ地区への攻撃が始まって以降、イラン人の死亡が報じられるのはこれが初めて。

なお、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、イスラエル軍が狙ったのは、ヒズブッラーが活動するダマスカス郊外県サイイダ・ザイナブ町のラウダ・ホテルの後背地の農場、同町一帯およびフジャイラ村一帯の陣地複数ヵ所で、ヒズブッラーとともに活動するシリア人2人と外国人2人が死亡、5人が負傷したと発表している。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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