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ハマースと休戦中のイスラエルがシリアのダマスカス国際空港を爆撃:ガザ攻撃再開と抵抗枢軸の報復の予兆

青山弘之東京外国語大学 教授
Enab Baladi、2023年11月26日

イスラエルとパレスチナのハマースの戦闘休止が始まってから3日目となる11月26日、イスラエルが大規模攻撃再開に向けた布石とも思われる動きに出た。

レバノン・イスラーム抵抗(ヒズブッラー)、イラク・イスラーム抵抗(イラク人民動員隊の急進派)、そしてイエメンのアンサール・アッラー(蔑称はフーシー派)を支援・連携するシリアへの爆撃だ。

戦闘休止を遵守する抵抗枢軸

戦闘休止合意が発効して以降の3日間、シリア、イランとともに「抵抗枢軸」を自称するこれらの組織もまた、イスラエル、そしてシリアとイラクに駐留する米軍への攻撃は控えていた。

レバノン・イスラーム抵抗は11月24日に、イスラエル北部への前日の攻撃の様子を撮影したビデオを公開して以降、新たな戦闘についての発表はしていない。イラク・イスラーム抵抗も11月25日に、ハマースによる「アクサーの大洪水」作戦とイスラエルのガザ攻撃が始まって以降の戦果(イラクの米軍基地に39回、シリア領内に違法に設置されている米軍基地に36回、イスラエル領内に3回の攻撃を実施)を発表しただけだ。アンサール・アッラーも11月24日に、首都サヌアでパレスチナでの抵抗を支持する大規模デモの写真を公開するにとどまっている(「イスラエルとハマースの戦闘休止に応じる「イランの民兵」:放置されるシリアでの暴力の応酬」を参照)。

Telegram (@elamharbi)、2023年11月26日
Telegram (@elamharbi)、2023年11月26日

イスラエル側も、11月25日にレバノン南部からの攻撃を2回確認したが、迎撃は1回にとどまり、レバノン南部への反撃も行っていない。

イスラエルによるシリア爆撃

戦闘休止期間が続く限り、小康状態は続くかに思えた。だが、現実はそれほど甘くはなかった。

シリアの国防省は11月26日、フェイスブックの公式アカウントを通じて声明を出し、ダマスカス国際空港がイスラエル軍の空対地ミサイルによる爆撃を受けたと発表したのだ。

国防省の声明によると、イスラエル軍は午後4時50分頃、占領下のゴラン高原上空方面から、ダマスカス国際空港および首都ダマスカス周辺の複数ヵ所に向けて複数のミサイルを発射、シリア軍防空部隊がこれを迎撃し、ほとんどを撃破したものの、物的損害が生じ、空港が再び利用不能となった。

Facebook (@mod.gov.sy)、2023年11月26日
Facebook (@mod.gov.sy)、2023年11月26日

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団やトルコで活動する反体制系サイトのイナブ・バラディーなどによると、爆撃は、ダマスカス国際空港、ダマスカス県マッザ区にあるシリア軍防空部隊(マッザ航空基地)の基地を標的としたもので、マッザ区の防空部隊基地で士官(大尉)1人が負傷した。

なお、シリア人権監視団は、複数筋の情報として、ダマスカス郊外県キスワ市一帯に配置されているシリア軍防空部隊が迎撃ミサイル複数発を乱射したが、イスラエル軍のミサイルを撃破することはできなかったと主張している。だが、この発表についての真偽は定かではない。

繰り返される空港への攻撃

ダマスカス国際空港へのイスラエル軍の爆撃は、「アクサーの大洪水」作戦とイスラエルのガザ攻撃が始まって以降、今回で4回目。

10月12日に行われた最初の爆撃では、ダマスカス国際空港に加えて、アレッポ国際空港も標的となり、前者は19日まで、後者は16日まで利用不能となった。10月22日に行われた2回目の爆撃も両空港を標的とし、両空港とも再び利用不能に追い込まれた。なお、アレッポ国際空港は10月25日にも爆撃を受け、利用不能となった。

アレッポ国際空港は10月26日に復旧していたが、ダマスカス国際空港は11月25日になってようやく復旧が完了し、旅客便の就航が再開されたばかりだった。

非難されない攻撃

攻撃は、抵抗枢軸(あるいは「イランの民兵」)へのイランからの支援を遮断することが目的とされている。しかし、実際に遮断されたのは、民間旅客機の往来であり、抵抗枢軸への支援は、イラクを経由して陸路で滞りなく続いている。

イスラエルによるシリアへの攻撃は、両国が今も戦争状態にあるという事実を差し引いたとしても、空港という民間施設を狙っているという点、そしてシリア領空(イスラエル占領下のゴラン高原)を侵犯してミサイルを発射しているという点で国際法違反との非難を免れるものではない。

にもかかわらず、シリアに対する攻撃がそのような非難を浴びることはほとんどない。これは、シリア政府の正統性を一方的に否定している欧米諸国においてとりわけ顕著だ。

イスラエルとハマースの戦闘休止はいずれ終了し、ガザ地区での戦闘再開は避けられないだろう。その際、戦闘休止合意への違反、不履行に対する非難の応酬が加熱し、抵抗枢軸によるイスラエルや米軍への攻撃も激しさを増すことが予想される。

パレスチナ・ハマース衝突を単なるガザ地区での紛争として矮小化して捉えるのであれば、抵抗枢軸は「部外者」にしか見えない。だが、シリアに対して執拗に繰り返されるイスラエルの侵犯行為が、すなわち抵抗枢軸に打撃を加えることを目的としていること、そしてイスラエルの存在がパレスチナ問題、さらにはアラブ・イスラエル紛争の元凶であるという歴史的事実を踏まえると、抵抗枢軸は紛争の渦中に身を置いた当事者なのである。

そうした抵抗枢軸にとって、26日のダマスカス国際空港へのイスラエルの爆撃は、イスラエル(そして米国)に対する報復攻撃の起点、そしてガザ地区をめぐる戦闘再開の起点として位置づけられるものなのである。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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