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イスラエルとハマースの戦闘休止合意の失効は「イランの民兵」と米国を巻き込んだ暴力の連鎖を再発させる

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

カタールの仲介によるイスラエルとパレスチナのハマースの戦闘休止期間が11月30日に再度延長され、12月1日の午前7時(日本時間の午後2時)まで続くことになった。

11月27日の2日間の延長合意に続く2度目の合意に基づき、人質・囚人交換も続けられる見込みだ。だが、3度目の延長合意が実現しない場合、イスラエル軍によるガザ地区への攻撃、そしてそれに対する報復としてのレバノン・イスラーム抵抗(ヒズブッラー)によるイスラエル北部への攻撃、イラク・イスラーム抵抗(人民動員隊の急進派)によるシリアとイラク領内の米軍基地への攻撃、そしてイエメンのアンサール・アッラー(蔑称はフーシー派)によるイスラエル南部への攻撃や船舶拿捕が再燃することは避けられない。

こうした不確実な状況のなか、イスラエル軍は先手を打つかのように、11月26日にこれら「イランの民兵」を支援・連携するシリアのダマスカス国際空港を爆撃した。また11月29日には、所属不明(おそらくは米軍)の戦闘機がシリア南東部の「イランの民兵」を狙って爆撃を実施した。

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沈黙を破る「イランの民兵」

イスラエルとハマースの戦闘休止合意を受けて、イスラエルや米軍に対する攻撃を停止し、事態を静観していた「イランの民兵」も、一方で合意の再々延長を促し、他方で延長が実現しなかった時に備えるかたちで沈黙を破った。

イラク・イスラーム抵抗は11月30日午後11時10分、テレグラムを通じて声明を出し、米国がイスラエルによる殺戮継続に固執するのであれば、イラク内外での軍事作戦を強化する用意があると表明した。声明の内容は以下の通りである。

慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において
「もし敵意や悪意でこれをする者あれば,我らは彼らを火獄に投げ込むであろう」。
パレスチナ人民が受けたシオニストの虐殺と残忍な大量虐殺は、米国がガザとレバノン南部の人々に行っている一連の戦争から外れるものではない。
イラク・イスラーム抵抗は、その民だけをこの戦争のなかで世界の暴君たちと対決させることはないと断言する。また、敵である米国が、抵抗を続けるガザに対してであれ、誇り高きレバノン南部に対してであれ、シオニストの殺戮マシーンの継続に固執するなら、イラク内外での軍事作戦を強化する用意と準備ができていることを宣言する。
「我々は懲罰が近いとお前らに警告した」。
イラク・イスラーム抵抗
ヒジュラ歴1445年ジュマーダー・アウワル月16日木曜日

Telegram (@elamharbi)、2023年11月30日
Telegram (@elamharbi)、2023年11月30日

イエメンのアンサール・アッラーも11月30日午後11時40分、ヤフヤー・サリーア報道官がX(旧ツイッター)を通じて声明を出し、イスラエルがガザ地区への攻撃再開を決定した場合、イスラエルに対する軍事作戦を再開する万全の用意が整っており、作戦拡大を躊躇せず、イスラエルの船舶の紅海での航行を阻止すると発表した。声明の内容は以下の通りである。

慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において
アブドゥルマリク・バドルッディーン・フーシー司令官の指示に沿い、偉大なる我らイエメン人民の要請に応え、パレスチナ人民の選択とその誇り高き抵抗に全面的に寄り添おうとする我らアラブ・イスラームのウンマの自由人たちの呼びかけに対して、イエメン武装部隊は以下の通り断言する:
敵であるイスラエルがガザへの侵略を再開した場合、軍事作戦を再開する万全の用意がある。
イエメン武装部隊はイスラエル政体への軍事作戦を拡大し、陸海において予想外の標的を含めることを躊躇しない。
イエメン武装部隊は紅海でイスラエル船舶を阻止し続け、この決定を完全実施するためのさらなる措置を講じる。
イエメン武装部隊は、アラブ・イスラーム・ウンマのすべての自由人、そして世界の自由人に対して、パレスチナ問題に対して高潔なる姿勢をとり、その自由な抵抗を支持・支援するよう呼びかける。
アッラーが我々の言うことの証人であられる。
サヌア
ジュマーダー・ウーラー月17日、ヒジュラ暦1445年、2023年11月30日

イスラエル北部への攻撃

レバノン・イスラーム抵抗はいまだ声明を出していない。だが、イスラエル北部では11月30日、レバノン領内からの攻撃が行われた。

イスラエル軍が午前12時14分、テレグラムを通じて、イスラエル北部のデボブ、マッタト、ササの3村落で警報が発令され、レバノンからイスラエル領内に飛来した標的を撃破したと発表した。

Telegram (idfofficial)、2023年11月30日
Telegram (idfofficial)、2023年11月30日

イスラエル軍はレバノン南部に報復は行っていない。だが、ガザ地区での戦闘を停止させたいという願いとは裏腹に、イスラエルであれ、米国であれ、「イランの民兵」であれ、戦闘再開に向けた動きを留めようとはしていない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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