2018年のハリウッドは、この人たちの年だった
今年もハリウッドではさまざまなヒットが生まれ、たくさんの名演技があった。だが、その中でも、2018年を象徴する人物を挙げるなら、この人たちだ。
マイケル・B・ジョーダンとライアン・クーグラー:黒人映画2作を大ヒットに持ち込む
つい最近まで、黒人キャストの映画は、黒人の観客に向けて、限られた予算で作られるのがハリウッドの常識だった。だが、32歳の監督/脚本家クーグラーと、31歳の俳優ジョーダンは、今年、「ブラックパンサー」を、北米興行成績年間1位という大成功に導く。それだけでは物足りぬとばかり、先月公開された「クリード 炎の宿敵」をも、北米だけで1億ドル超えのヒットに持ち込んだのだ。
クーグラーは、自身が監督した2015年の「クリード チャンプを継ぐ男」の続編「〜炎の宿敵」を作るに当たり、新人スティーブン・ケープル・Jr.を監督に抜擢し、自分はプロデューサーにとどまっている。彼自身が「ブラックパンサー」で忙しかったからなのだが、ケープル・Jr.がこの続編をすばらしいものに仕上げたことで、ハリウッドにはもうひとり、実力派の黒人監督が増えたことになった。それもまたお見事としか言いようがない。
娯楽性がたっぷりありながら、社会的メッセージをさりげなく含み、かつ、黒人のステレオタイプをぶち壊し、リアルな形でキャラクターを描写するのが、このふたり。彼らは明らかに何かを変えている。
エミリー・ブラントとジョン・クラシンスキー:ペアでもソロでも最高
私生活のカップルが映画の中でもカップルを演じると失敗するという通説を破ったのが、好感度満点のこの夫婦だ。クラシンスキーが監督した「クワイエット・プレイス」で、ふたりは夫婦役で初共演を果たし、大ヒットさせたのである。
俳優であるクラシンスキーの監督としての実績がまだ浅かったこともあり、予算は、1,700万ドルという、ハリウッドのメジャースタジオ映画においては低めだった。しかし、映画は北米だけで1億8,800万ドルを売り上げる。これは、今年1年の12位。当然ながら、すでに続編の噂がささやかれている。
さらに、今作で、ブラントは、映画俳優組合賞(SAG)の助演女優部門(映画)にノミネートされた。彼女は「メリー・ポピンズ リターンズ」で主演女優部門(映画)に候補入りもしたので、ダブルノミネートである。そしてクラシンスキーは、Amazon Prime Videoの「トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン」で主演男優部門(テレビシリーズ)にノミネートされた。来月末、ふたりは、候補者同士、そして夫婦として、ともにレッドカーペットを歩くことになるということ。夫婦の間には娘がふたり。まさに、何もかも順調なパワーカップルである。
オークワフィナ:アジア系のステレオタイプを打ち壊す
ほとんどの人は、今年の半ばまで彼女の名前を知らなかったのでは。中国系アメリカ人の父と韓国人移民の母をもつ彼女は、ラップミュージシャンとして活動していたが、今年は「オーシャンズ8」と「クレイジー・リッチ!」に立て続けに出演して、たちまち注目の人となった。とりわけ「クレイジー・リッチ!」では、主人公の友人という脇役ながら、このキャラクターを原作以上にインパクトのある存在にしてみせている。
先月には、彼女自身の人生について語るコメディ番組がComedy Central Channelで製作されるとの発表もあったばかり。ニューヨークに育ったアジア系アメリカ人の話がレギュラー番組として放映されるのは、画期的なことだ。現在、アメリカでは、彼女が出演するグーグルアシスタントのCMもしょっちゅう流れている。アジア人女性のイメージを、彼女は大きく覆してくれているのだ。
ブラッドリー・クーパーとレディ・ガガ:新しいことに挑戦し、新しい才能を証明
グラミー賞受賞歌手だが、演技の経験は浅かったレディ・ガガと、オスカー候補入りした実力派俳優ながら、監督としても、歌手としても、未知数だったクーパー。だが、「アリー/スター誕生」で、レディ・ガガはゴールデングローブとSAGに候補入り。オスカーも間違いなく候補入りするだろうと言われている。そしてクーパーも、レディ・ガガとともに、今作のサウンドトラックで、グラミーにノミネートされたのだ。クーパーはまた、監督としてもゴールデングローブに候補入りしており、オスカーや監督組合賞(DGA)に食い込む可能性は濃厚。天は二物を与えずというが、例外もあるということだろう。
映画は興行成績も抜群で、北米では現在までに2億ドルを売り上げている。製作費は3,600万ドルだったので、スタジオに大きな収益をもたらすことになった。“監督”クーパーには、これからもお目にかかることになるはずだ。
ラミ・マレック:「ボヘミアン・ラプソディ」を大ヒットに導く
今年最大のサプライズヒット映画は「ボヘミアン・ラプソディ」だった。なぜサプライズかというと、途中で監督がクビになり、撮影が中断されるという出来事があったのがひとつ。さらに、欧米では、批評家の評価は必ずしも良くなかったのである。しかし、興行成績は飛び抜けていた。とくに、日本を含めた北米外で強い。北米興収が1億8,400万ドル(それでも相当に立派)であるのに対し、北米外は4億8,200万ドルなのである。
いずれにせよ、今作を成功に導いた大きな要因が主演のマレックであることは、間違いない。「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」のオタク的キャラクターでブレイクした彼がここまでフレディ・マーキュリーになりきれるとは、誰も予想していなかった。「MR. ROBOT〜」は通受けのドラマなので、この映画を見に来た人には、その存在すら知らなかった人も多いはず。来年、日本では、「パピヨン」のリメイクが公開される。今作で彼のファンになった人には、楽しみにしていてほしいところだ。彼の役は、1973年のオリジナルでダスティン・ホフマンが演じたドガ。ここでもオタクっぽいが、これが「ボヘミアン〜」までのマレックのイメージだったのである。来年以降、彼は、どんな役で我々を驚かせてくれるのだろうか。