平成の家族を総括する「平成家族物語」は地方創生プロジェクトの秘策となるか
平成家族物語とはなにか
平成も、いよいよあと1年を切り、何かと平成を振り返ることも多くなりそうなこの時期、平成の家族を総括する試み…「平成家族物語」というプロジェクトがはじまっている。
東京への人口の集中に歯止めをかけるべく地域再生活動を推し進めるうえで、求心力となるのが「ゆるキャラ」や「ご当地グルメ」、「農業や民芸体験」であり「アート」や「文化活動」もそのひとつ。「アニメの聖地巡礼」などもある。
埼玉県東松山市では「演劇」のちからを借り、「〜平成家族物語〜舞台芸術によるまちづくりプロジェクト第1弾」として「東松山戯曲賞」を創設し、公募を行うことになった。
戯曲のテーマは「大都市周辺の街」「家族」「希望」。
ちょうど戯曲応募開始の2018年5月1日の1年後には、平成から新しい元号に変わる。この平成の30年間を振り返って、この時代ならではの“家族”を発見する試みだ。
戯曲の公募に向けて4月26日に会見が行われた際、戯曲の審査員でもあり、受賞作を演出することになった気鋭の演出家・瀬戸山美咲は「女性をめぐる環境の地殻変動が起きているいま、家族をテーマに書くことはおもしろいテーマだと思う」と語り、「30年の地方都市の物語を書くことが、日本全体を描くことにもなる」と大きな可能性を示唆した。
その土地ならではの物語を
戯曲は、市民に限らず、全国から広く募集する。
東松山市は、松山城の城下町、陣屋町として栄え、高度成長期になると東京のベッドタウンとして人口が増加、高坂ニュータウンや東松山マイタウンなど巨大団地が次々とできた土地。住人はここで生活し、平日は東京に働きに出るというライフスタイルをもった。現在は、若者は都心に移り住み、街の高齢化が進んでいるという、現代日本の地方都市のひとつの典型となっているが、この街ならではの固有の物語を見つけ出す面白さはあると思う。
会見場になった、七代目・市川團十郎ゆかりで、芸能・商売繁盛の神社・箭弓稲荷神社 團十郎稲荷なども歴史ある場所だ。
例えば、埼玉で、家族の物語というと、演劇ではないが、NHKの朝ドラこと連続テレビ小説『つばさ』(07年)がある。川越の地元のラジオ局の話で、ヒロインは、家を出た母にかわって家庭を守っているところからはじまる物語だった。
最近では、同じくNHKの埼玉発地域ドラマ『越谷サイコー』(18年)というのもある。孫娘と祖母とご先祖様の幽霊の三世代の物語で、先祖の幽霊の参加という着想が新しかった。
また、会見でも俎上に乗った話題として、東松山市には、打木村治の書いた『天の園』という児童文学があり、明治後半から大正時代、作者が小学校時代を過ごした唐子村(現在の唐子地区)を舞台に描かれた全六部の長編小説で『路傍の石』『次郎物語』とともに三大児童文学と言われているそうだ(東松山市のホームページより)。
そういった先達の名作を受け継いでいく意味でも、平成を見つめた作品を創作することは意義あるものになるのではないか。
これまで、人口10万人未満の自治体では、戯曲公募の事例はない。
そのうえ、ひとつの戯曲を3年のうちに朗読劇、演劇、音楽劇と3つの劇として上演するという企画も、これまで類を見ない大掛かりなもので、地方創生に対する、東松山市の本気を感じる。
選定委員
岩松了(演劇のみならず映画の脚本、監督も手がけ、俳優としても活躍。『家庭内失踪』『シブヤから遠く離れて』『少女ミウ』など。『薄い桃色のかたまり』で第21回鶴屋南北戯曲賞を受賞)
岩崎正裕(劇作家・演出家・劇団太陽族代表・アイホールディレクター。『それからの遠い国』が平成26 年度文化庁芸術祭優秀賞を受賞)
桑原裕子(KAKUTA 主宰。『痕跡』で第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。『荒れ野』で第5回ハヤカワ悲劇喜劇賞受賞。2018年4月より穂の国とよはし芸術劇場PLAT 芸術文化アドバイザー就任)
瀬戸山美咲(ミナモザ主宰。『彼らの敵』で第23回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。演劇活動のほかに『アズミ・ハルコは行方不明』(監督:松居大悟)、『リバーズ・エッジ』(監督:行定勲)などの映画脚本も手掛ける))
渡辺弘(蜷川幸雄のもとで長年演劇制作に携わってきた、演劇プロデューサー。公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団 業務執行理事兼事業部長)。
会見に参加したのは、
東松山市長の森田光一氏、東松山市教育長の中村幸一氏、瀬戸山美咲氏、渡辺弘氏 公益財団法人東松山文化まちづくり公社理事長・石田義明氏