東日本大震災から13年が経過し水道施設の耐震化はどのくらい進んだか
「水はあるが送れない」浄水場
2011年3月11日に発生したM9.0の巨大地震、それに伴う大津波は、水道インフラに壊滅的な打撃を与えた。水道管が壊れ、市中に水があふれ出した。浄水場の地盤が陥没し、ろ過池や貯水池が崩れた。電源を失い機能停止になり「水はあるが送れない」浄水場も多かった。水源もダメージを受けた。大量の土砂が流れ込んで水が濁った。沿岸部では津波で塩水が入り地下水(井戸)が利用できなくなった。
蛇口をひねれば当たり前のように出た水が、その日からぴたりと止まった。岩手、宮城、福島、茨城、千葉を中心に220万世帯以上が断水した。
各地の水道事業者らによる支援隊が続々と現地入りし、応急給水活動が始まった。最大時には全国から355台の給水車が集まった。
復旧スピードのばらつき
水道事業は地域環境に左右される。内陸部は急ピッチで復旧したが、沿岸部は難しかった。標高の高い内陸部は比較的作業がしやすかったが、海沿いの津波に襲われた地域、液状化した地域の作業は困難を極めた。震災直後、沿岸部は情報すら入ってこなかった。なんとか被災地に行けるようになっても、まず路上に堆積した瓦礫と土砂を取り除くことから始めなくてはならなかった。
復旧スピードにばらつきが出るのは今回の能登半島地震でも同様だ。1月1日の地震発生から2か月超だが、石川県内では3月8日現在、およそ1万6730戸で断水が続いている。各自治体には全国から応援の職員が入っているが、道路が陥没したり土砂や瓦礫のために、作業の難しい地域が多かった。
水道施設の耐震化は進んだか
東日本大震災を通じて水道がかかえている問題点が浮かび上がった。その1つが、水道管や浄水施設の耐震化の必要性だった。
東日本大震災では激しい横揺れによって水道管が継ぎ手部分で抜けた。これによって断水が起きた。耐震性のある水道管(耐震管)であれば、ある程度防げたと考えられた。
当時の耐震適合率は全国平均30.3%だった。それから各地の水道事業者は、地震に備えて建物を揺れに強くする「耐震化」を進めてきた。だが、現在の全国の主要な水道管(導水管、送水管、配水本管など)の地震に対する適合率は41.2%(厚生労働省「水道事業における耐震化の状況」(令和3年度)にとどまっている。
また、耐震適合率にはばらつきがある。例えば、神奈川県は73.1%でトップであり、高知県は23.2%で最下位。そして、今回の水道被害が大きかった石川県は36.8%で、全国平均よりも低かった。
【用語解説】
耐震管 地震が発生しても継ぎ目の接合部分が離れない構造の管
耐震管率 基幹管路の長さに対する耐震管の長さの割合
耐震適合性のある管 耐震管と耐震管ではないが布設された地盤の性質や状態を考えると耐震性があると評価できる管
耐震適合率 基幹管路の長さに対する耐震適合性のある管の長さの割合
なぜ耐震化が進まないのか
水道事業者の経営は厳しい状況にある。日本の人口は減っており、2029年には1億2000万人、2053年には1億人を下回ると予想される。人口減少により、水道利用者も減り、料金収入も減少している。同時に、節水技術が進んでいるため1人当たりの水の使用量も少なくなっている。
水道耐震化の補助として、国は生活基盤施設耐震化等交付金をもうけているが、各自治体に割り振られる金額はわずか。耐震化を進めるには、水道料金を値上げするしかないのが、市民の負担を増やすという難しい判断を迫られる。国が本気で耐震化を進めるのであれば、補助金の思い切った増額が必要だ。
また、最近は工事業者の不足が深刻で、水道施設の改修工事の入札が不調に終わることも増えている。
耐震化だけではない水道の課題
一方で、現在あるすべての水道施設の耐震化を進めるべきかといえばそうではない。人口減少にともない水道事業は広げた傘を折りたたむ時期を迎えている。
人口が多い地域では既存の水道を維持し、耐震化を進める一方で、人口減少地域では別の方法が必要だ。
大きな施設で浄水し、そこから水を管で運ぶのが「水道」だが、給水ポイントを小規模で分散して、水の道を短くする「水点」をつくることも考えられる。
小規模分散型の水点の技術は多種多様だ。地下水(井戸)を水源として活用し、紫外線発光ダイオードで殺菌して安全な飲み水をつくる技術、生物浄化法といって微生物のはたらきで汚れた水を濾過する技術、民間企業が企画し住宅ごとに設備された膜ユニットによって水を濾過する技術も実装可能になっている。
昭和の問いと令和の問いは異なる
「水点」は、浄水やポンプ導水にかかるエネルギーが少なく、安価で管理しやすいという特長がある。1つ1つの施設が地震に強いというわけではないが、分散しているため、1つの浄水場が壊れたから、そこから水を供給されているすべての家庭が断水してしまうことはない。
昭和の水道の「問い」は、
・増える人口、水使用量にどう対応する?
・水環境が悪化するなかでいかに安全な水を供給する?
だったが、
現在の水道の「問い」は、
・人口減少にいかに対応する?
・地震や水災害にいかに対応する?
に変わっている。「問い」が変われば解決方法も変わるだろう。
大規模集中型、小規模分散型とも技術はそろっている。あとは自治体がどの技術を選び、どう管理するかが課題。広げた大きな傘を閉じていくだけでなく、いくつもの小さな傘に差し替えていくことが大切だ。