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具体的な追及がスカスカ 関電の金品受領問題の報告書にみた「本当の闇」

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
関西電力の調査報告書(筆者撮影)

 3月14日、関西電力役職者の金品受領問題についての調査報告書が発表されました。委員会による記者会見、新旧社長による記者会見が行われましたが、委員会による記者会見は4時間で、会社は2時間。時間の長さからもわかるように委員会への質問の方がより厳しい内容であったように見えました。調査報告書を読むと、確かに何か足りない、迫力がないと感じました。生の声が乏しく、個人の責任言及が足りない。2018年に公表されたスルガ銀行のシェアハウス不正融資問題の調査報告書と読み比べると一目瞭然です。内容を解説します。

具体的な生の声が乏しく迫力に欠ける

 この問題、発覚の端緒は2018年2月に国税庁金沢国税局が関西電力の役職員が福井県高浜町の元助役森山榮治氏(故人)から金品を受領していることについて税務調査を開始したことでした。これを受け、関電は同年6月22日に社内調査委員会を立ち上げ、調査を開始。同年9月11日に報告書を提出したものの取締役会に報告せず放置されました。そして、1年後の2019年9月26日の共同通信によって問題が広く知られることとなりました。

 前年の社内調査が不十分であったことから、今回第三者委員会が設置され改めて調査されることになりました。今回の調査委員会は3人の弁護士に一人の特別顧問に加え、23名の弁護士による体制。2019年10月9日から2020年3月13日まで調査を実施。関電関係者214名に248回のヒヤリング、関電OB605名への書面調査。さらにホットラインも設置し、情報収集対象は、関電の全役職員約2万1000名、OB役職員約8000名、故会社6社の全役職員約7000名とされました。その結果、30年間の金品受領者は75名、総額3億6千万円が確認されたとのことです。

 長年にわたり金品を受領する関係となったこと、そして問題発覚後にも隠蔽してしまったことについて、委員会は原因を次のように述べています。(P28)

・本件問題に関わった関西電力の役職員において、業績や事業活動をコンプライアンスに優先させるべきではないという意識を欠いたこと

・経営陣が、本件問題と正面から向き合い、是正する決断力を欠いたこと

・透明性を欠く誤った「地元重視」が問題行為を正当化していたこと

・原子力事業本部が閉鎖的で同部に対するガバナンスが不足していたこと

・本件発覚後の事後対応においても露見した身内に甘い脆弱なガバナンス意識

 調査報告書はほぼこの分析を幾度となく繰り返し説明していますが、どうにも迫力に欠けるのです。全体でみれば、皆が森山氏に翻弄されていたことは伝わってきます。ただ、当事者がどのような思いで金品受領をしていたか、具体的な声が生々しく記載されている部分が少ないため、曖昧さが残ってしまうのです。

 特に合計70回以上にわたり約1億2000万円を受領した元原子力事業本部副事業本部長の鈴木聡氏、合計40回以上にわたり約1億1000万円相当を受領した元原子力事業本部長の豊松秀己氏、約4000万円を受領した元高浜発電所長の森中郁雄氏。この3名が受け取った金額の合計は約2億7千万円。誰がどう語ったのか、どのような気持ちで受け取ったのか、どのような言葉で語ったのか、具体的にそれぞれの証言として記載してほしかった。例えば、スルガ銀行の報告書においては、生声がそのまま記載されているため、追い詰められていった心情が切実に伝わってきました。もっとも、豊松氏については、フォローになってから過去の自主返納を補填するための報酬を上乗せして受け取っていたことから、追い込まれていたようには見えません。それでも本人の証言がそのままあれば、読み取ることができるのです。

役職者個人の責任を明確にすべき

 さらに報告書は「何十年もの間、誰も異を唱える勇気を持てず、さらに経営陣の一部もこの問題を認識しながら、長年何らの対策も取らず、税務調査を契機として本件問題が発覚するまで漫然と放置し続けていたという責任感・決断力の欠如は深刻である(P188)」と断罪したものの、誰がどこにどの程度の責任があったのか個別に明記する項目がなかったのは残念。例えば、スルガ銀行の調査報告書では、役員、執行役、監査役一人ひとりの義務と違反行為が明記されています。特に2018年の社内調査報告書を取締役にさえ報告しなかったことについて最終決定した岩根社長、八木会長、森相談役の責任だけでなく、監査役、顧問弁護士の義務と責任、どうすべきだったのかを明記してほしかった。長年にわたる金品受領は企業風土であっても、社内調査結果の取り扱いは各自が役割を果たさなかったからではないでしょうか。

 また、記者会見で但木委員長は金品受領と発注の関係について「刑事告発は難しい」と繰り返し述べていましたが、刑事責任を問えないのであればなおさら、調査報告書で役職者の義務、求められた行動に対し、何が出来なかったのか、どの程度の責任があるかを個別具体的に明記されることが求められたはず。実際、この点について質問した記者がいました。もっともな指摘です。「逃げ得の人」といった質問も会見ではしばしばありました。まさにここに納得感がないがために、記者会見が思いのほか長引いたのではないか。報告書でも責任が明記されず、刑事責任も問えず、記者会見にも出てこない人がいる、ここに本当の闇があるように感じてなりません。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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